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本編
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◆
夜が明け、体を清めて朝食を済ませた二人は、魔女の洞窟へと向かうことにした。オリヴィエは首を押さえながら歩いている。
「騎士さま、ごめんね。私のせいで、首が変なことになっちゃった……」
「いや、ヴィヴィはなにも悪くないんだ」
ヴィヴィアンヌは一晩中、オリヴィエの頭を抱きかかえていた。その体勢のまま夜を明かしたオリヴィエは首がまわらなくなってしまった。
「騎士さま、やっぱり魔法で治したほうが……」
「これくらい、大丈夫だ」
「……本当に? 騎士さま、痛かったらすぐに言ってね」
「ありがとう。今日も書物を読むだけにするから」
オリヴィエは片腕が不自由なため、昨日は書物を読みあさっていた。今日も同じように調査を進めるのだろう。
「私も、お手伝いするね!」
ヴィヴィアンヌは両手を握りしめ、勇ましい表情でオリヴィエを見上げる。
調査が終われば、オリヴィエと共に森の外に出る。そして、オリヴィエとずっと一緒にいるのだ。そんな決意を固めているヴィヴィアンヌは気合い十分だ。
「ありがとう。ヴィヴィ……いった!」
オリヴィエはヴィヴィアンヌの方に顔を向けようとして悲鳴を上げる。その悲鳴にヴィヴィアンヌは目をまんまるに見開き、オリヴィエをじっと凝視した。
「騎士さま?」
「あっ、いや。いまのはちょっと……油断しただけだ」
オリヴィエはそう言ったものの、そこから顔を動かすことができないようだ。
「騎士さま、魔法で治そうよ」
「この程度のこと……」
「だって、騎士さまが私のこと見てくれないじゃない」
ヴィヴィアンヌは唇をとがらせると、オリヴィエの返事を待たずに治療魔法を使う。治療が終わると、オリヴィエは首を軽く回して手を当てた。
「……もう、痛くない。ありがとう、ヴィヴィ」
「へへっ」
ヴィヴィアンヌはうれしそうに笑い、手を後ろに回した。少し屈んでオリヴィエを上目遣いに見上げながら、少し甘えた声を出す。
「騎士さま。ちゃんと私のこと、見てね?」
「……っ」
オリヴィエは無言でヴィヴィアンヌを抱き寄せた。ヴィヴィアンヌは驚いたが、すぐに甘えるようにその胸にすり寄る。
オリヴィエはヴィヴィアンヌの頬に手を添えると、唇に自分のそれを寄せた。
「これ、コイビトの口づけ?」
「うん。僕たちは恋人なんだから、いつしてもいいんだ」
「そうなの? じゃあ、私も騎士さま……あっ、オリヴィエにしてもいいの?」
「うん。……あぁ、名前をようやく……!」
ヴィヴィアンヌは名を呼ばれてよろこんでいるオリヴィエに、背伸びして口づける。うれしそうなオリヴィエはヴィヴィアンヌを抱きしめ、何度も何度も口づけた。
「……そっ、そろそろ行こうか」
「うん!」
しばらくの間、そうして楽しんでいた二人だが、切り上げて洞窟へと向かった。
ほどなくして、二人は洞窟にたどり着き、洞窟内に入る。薄暗い洞窟の中で、ヴィヴィアンヌは魔法の明かりを灯した。
オリヴィエはその明かりを頼りに、手当たり次第に洞書物を読み始めた。呪いを解く手がかりになるものは見つからないようで、落胆の声をもらす。
「うっ……これもよくわからないな……」
「騎士さま、大丈夫?」
「うん、ありがとう。……はぁ」
オリヴィエが暗い表情でため息をつくのを見て、ヴィヴィアンヌは心配になった。
(王妃さまにかけられた、魔女の呪いかぁ……)
ヴィヴィアンヌは魔法使いの師でもある祖母からさまざまなことを学んだ。その中には呪いのこともあった。
(あっ、そうだ! そういえば、呪いについてまとめてあった本があった……気がする!)
ヴィヴィアンヌはその時、祖母と一緒になにかを読みながら教わったことを思い出した。わずかな記憶を頼りに書物の山をあさり始める。
「あっ、これ……かな?」
ヴィヴィアンヌは書物の山の下に埋もれていた、記憶にあった本を見つけ出した。その本を引き抜くと、書物の山が音を立てて崩れる。
「えっ……ヴィヴィ、大丈夫?」
「大丈夫だよ!」
オリヴィエに声をかけられたが、ヴィヴィアンヌは気にせず本に目を通し始めた。オリヴィエも安心したようで、手元の本に視線を戻す。
(呪いと魔法……あっ、これだ!)
書かれている文字はヴィヴィアンヌの祖母のものだ。生前の祖母はヴィヴィアンヌのために知識をまとめたのだろう。
(えっと、呪いを解く方法……)
ヴィヴィアンヌはそれを読みながら、学んだことを思い出す。呪いを解く方法は三つある。もっとも簡単な一つは、呪いをかけた主が解くことだ。
(……ひいおばあちゃん、もう、いないんだよね)
魔女が死の間際にかけた呪いだという以上、呪いの主である魔女はすでに亡くなり、この方法は不可能だった。
もう一つは呪法を知ってていねいに解く方法だ。おそらくオリヴィエはこの方法に望みをかけ、呪法がこの洞窟に残されていないか、もしくはその手がかりになるものはないかを調査しているのだろう。
(ひいおばあちゃんがそんなもの残しているとは思えないんだよね)
ヴィヴィアンヌは直接会ったことはないものの、祖母から曾祖母の人柄をよく聞いていた。
明るくて細かいことは気にしない性格で、整理整頓が苦手で大雑把、書物を読み始めたら三分で寝てしまう。片づけないため、洞窟の中はよく魔窟になっていたそうだ。積み上げられた書物の山も、その名残かもしれない。
(……となれば、力技で解くしかない?)
最後の一つは、強引に解く方法だ。単純でてっとり早い方法だが、その分、力が物を言う。魔女と呼ばれるほどの存在がかけた呪いを力技で解くとなると、相応の魔力が必要だ。
(ううん。力技は難しいかな。そんな魔力を持つ人はいないだろうし……)
魔女は人と比べ物にならないほどの魔力を持っている。魔女が持つ魔力量を十とするなら、一般的な魔法使いは一にも満たないだろう。
(ほかに方法はないのかな)
ヴィヴィアンヌはページを読み進めていくが、呪いを解く方法についてはこれ以上の情報を得られそうになかった。
夜が明け、体を清めて朝食を済ませた二人は、魔女の洞窟へと向かうことにした。オリヴィエは首を押さえながら歩いている。
「騎士さま、ごめんね。私のせいで、首が変なことになっちゃった……」
「いや、ヴィヴィはなにも悪くないんだ」
ヴィヴィアンヌは一晩中、オリヴィエの頭を抱きかかえていた。その体勢のまま夜を明かしたオリヴィエは首がまわらなくなってしまった。
「騎士さま、やっぱり魔法で治したほうが……」
「これくらい、大丈夫だ」
「……本当に? 騎士さま、痛かったらすぐに言ってね」
「ありがとう。今日も書物を読むだけにするから」
オリヴィエは片腕が不自由なため、昨日は書物を読みあさっていた。今日も同じように調査を進めるのだろう。
「私も、お手伝いするね!」
ヴィヴィアンヌは両手を握りしめ、勇ましい表情でオリヴィエを見上げる。
調査が終われば、オリヴィエと共に森の外に出る。そして、オリヴィエとずっと一緒にいるのだ。そんな決意を固めているヴィヴィアンヌは気合い十分だ。
「ありがとう。ヴィヴィ……いった!」
オリヴィエはヴィヴィアンヌの方に顔を向けようとして悲鳴を上げる。その悲鳴にヴィヴィアンヌは目をまんまるに見開き、オリヴィエをじっと凝視した。
「騎士さま?」
「あっ、いや。いまのはちょっと……油断しただけだ」
オリヴィエはそう言ったものの、そこから顔を動かすことができないようだ。
「騎士さま、魔法で治そうよ」
「この程度のこと……」
「だって、騎士さまが私のこと見てくれないじゃない」
ヴィヴィアンヌは唇をとがらせると、オリヴィエの返事を待たずに治療魔法を使う。治療が終わると、オリヴィエは首を軽く回して手を当てた。
「……もう、痛くない。ありがとう、ヴィヴィ」
「へへっ」
ヴィヴィアンヌはうれしそうに笑い、手を後ろに回した。少し屈んでオリヴィエを上目遣いに見上げながら、少し甘えた声を出す。
「騎士さま。ちゃんと私のこと、見てね?」
「……っ」
オリヴィエは無言でヴィヴィアンヌを抱き寄せた。ヴィヴィアンヌは驚いたが、すぐに甘えるようにその胸にすり寄る。
オリヴィエはヴィヴィアンヌの頬に手を添えると、唇に自分のそれを寄せた。
「これ、コイビトの口づけ?」
「うん。僕たちは恋人なんだから、いつしてもいいんだ」
「そうなの? じゃあ、私も騎士さま……あっ、オリヴィエにしてもいいの?」
「うん。……あぁ、名前をようやく……!」
ヴィヴィアンヌは名を呼ばれてよろこんでいるオリヴィエに、背伸びして口づける。うれしそうなオリヴィエはヴィヴィアンヌを抱きしめ、何度も何度も口づけた。
「……そっ、そろそろ行こうか」
「うん!」
しばらくの間、そうして楽しんでいた二人だが、切り上げて洞窟へと向かった。
ほどなくして、二人は洞窟にたどり着き、洞窟内に入る。薄暗い洞窟の中で、ヴィヴィアンヌは魔法の明かりを灯した。
オリヴィエはその明かりを頼りに、手当たり次第に洞書物を読み始めた。呪いを解く手がかりになるものは見つからないようで、落胆の声をもらす。
「うっ……これもよくわからないな……」
「騎士さま、大丈夫?」
「うん、ありがとう。……はぁ」
オリヴィエが暗い表情でため息をつくのを見て、ヴィヴィアンヌは心配になった。
(王妃さまにかけられた、魔女の呪いかぁ……)
ヴィヴィアンヌは魔法使いの師でもある祖母からさまざまなことを学んだ。その中には呪いのこともあった。
(あっ、そうだ! そういえば、呪いについてまとめてあった本があった……気がする!)
ヴィヴィアンヌはその時、祖母と一緒になにかを読みながら教わったことを思い出した。わずかな記憶を頼りに書物の山をあさり始める。
「あっ、これ……かな?」
ヴィヴィアンヌは書物の山の下に埋もれていた、記憶にあった本を見つけ出した。その本を引き抜くと、書物の山が音を立てて崩れる。
「えっ……ヴィヴィ、大丈夫?」
「大丈夫だよ!」
オリヴィエに声をかけられたが、ヴィヴィアンヌは気にせず本に目を通し始めた。オリヴィエも安心したようで、手元の本に視線を戻す。
(呪いと魔法……あっ、これだ!)
書かれている文字はヴィヴィアンヌの祖母のものだ。生前の祖母はヴィヴィアンヌのために知識をまとめたのだろう。
(えっと、呪いを解く方法……)
ヴィヴィアンヌはそれを読みながら、学んだことを思い出す。呪いを解く方法は三つある。もっとも簡単な一つは、呪いをかけた主が解くことだ。
(……ひいおばあちゃん、もう、いないんだよね)
魔女が死の間際にかけた呪いだという以上、呪いの主である魔女はすでに亡くなり、この方法は不可能だった。
もう一つは呪法を知ってていねいに解く方法だ。おそらくオリヴィエはこの方法に望みをかけ、呪法がこの洞窟に残されていないか、もしくはその手がかりになるものはないかを調査しているのだろう。
(ひいおばあちゃんがそんなもの残しているとは思えないんだよね)
ヴィヴィアンヌは直接会ったことはないものの、祖母から曾祖母の人柄をよく聞いていた。
明るくて細かいことは気にしない性格で、整理整頓が苦手で大雑把、書物を読み始めたら三分で寝てしまう。片づけないため、洞窟の中はよく魔窟になっていたそうだ。積み上げられた書物の山も、その名残かもしれない。
(……となれば、力技で解くしかない?)
最後の一つは、強引に解く方法だ。単純でてっとり早い方法だが、その分、力が物を言う。魔女と呼ばれるほどの存在がかけた呪いを力技で解くとなると、相応の魔力が必要だ。
(ううん。力技は難しいかな。そんな魔力を持つ人はいないだろうし……)
魔女は人と比べ物にならないほどの魔力を持っている。魔女が持つ魔力量を十とするなら、一般的な魔法使いは一にも満たないだろう。
(ほかに方法はないのかな)
ヴィヴィアンヌはページを読み進めていくが、呪いを解く方法についてはこれ以上の情報を得られそうになかった。
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