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第一部
また、治療と称していただきます(16)
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この場から逃げることは不可能に近い。魔力が尽きるまで待つのは現実的ではない。魔法の元になる石を破壊することもできない。絶望的な状況に、エレノーラはどうすればいいのか何も思いつかなかった。
「もう、どうしようもないか?存外、呆気ないものだな。楽しめやしないじゃないか」
「…っ」
サミュエルの幻はふっと消えたと思えば、レイモンドの間近に現れた。レイモンドが突き出した剣を後ろに下がってすんでのところでよけ、彼がそのまま追い打ちをかけようと一歩踏み出し横薙ぎに振るった剣を、大きく後ろに下がって避けた。
サミュエルが魔法を使おうとしたのか右手を上げたところで、レイモンドは近くにあった机をサミュエルの方へと蹴り飛ばしてそれを阻止し、下がってエレノーラを背に庇う。
「エレノーラを置いて一人逃げるなら見逃してやろうか、騎士様?」
「ふざけるな!」
馬鹿にされて今にもぷっつんしてしまいそうなレイモンドだが、ぎりぎり怒りを押さえ込んでいる。サミュエルの言葉に怒鳴り返すが、無鉄砲に突っ込んでいったりはしなかった。
「エレノーラはどうだ?自分の意思で俺のところにくるなら、そこの騎士様を見逃してやろうか?」
エレノーラは逃げることも、打ち倒すこともできないこの状況では、これに従うのが一番ましな選択のようにも思える。レイモンドには生きていてほしい、死なないでほしい。けれど、その選択肢は選べなかった。
「…嫌よ。それなら、レイモンドと一緒に死んだほうがいいわ」
彼女の言葉にサミュエルは一瞬笑みを消したが、直ぐに小馬鹿にしたように笑みを浮かべる。元より、彼はレイモンドを生かす気などないだろう。
エレノーラは死んだほうがいいとは言ったが、死にたい訳ではない。二人共に生きのびて帰ることが一番の望みであるが、打つ手がないのも確かだ。
前回のように、魔法の要となっている恐怖を一時的に消すことで無効化する方法もあるが、あれは足止め程度の魔力しかなく魔法の発動も一度きりだったからこそ上手くいった。今回は膨大な魔力と、魔力さえあれば何度でも魔法が発動する石を利用し、本気で侵入者を排除しにかかっている。エレノーラも、奥底に深く刻まれた恐怖を忘れるくらいにときめくなんて、そう簡単にはいかない。できたとしても長続きしないため、再びその恐怖を思い出せば湧いて出てきてしまう。
(どうすれば…)
エレノーラは考えても考えても打開案が浮かばず、目をきつく閉じて両手を握りしめ、一歩後ろに下がった。そこで、後ろ足に何かがぶつかり、足元を見る。彼女が見つけたのは、見覚えのある液体の入った小瓶だった。
「もう、どうしようもないか?存外、呆気ないものだな。楽しめやしないじゃないか」
「…っ」
サミュエルの幻はふっと消えたと思えば、レイモンドの間近に現れた。レイモンドが突き出した剣を後ろに下がってすんでのところでよけ、彼がそのまま追い打ちをかけようと一歩踏み出し横薙ぎに振るった剣を、大きく後ろに下がって避けた。
サミュエルが魔法を使おうとしたのか右手を上げたところで、レイモンドは近くにあった机をサミュエルの方へと蹴り飛ばしてそれを阻止し、下がってエレノーラを背に庇う。
「エレノーラを置いて一人逃げるなら見逃してやろうか、騎士様?」
「ふざけるな!」
馬鹿にされて今にもぷっつんしてしまいそうなレイモンドだが、ぎりぎり怒りを押さえ込んでいる。サミュエルの言葉に怒鳴り返すが、無鉄砲に突っ込んでいったりはしなかった。
「エレノーラはどうだ?自分の意思で俺のところにくるなら、そこの騎士様を見逃してやろうか?」
エレノーラは逃げることも、打ち倒すこともできないこの状況では、これに従うのが一番ましな選択のようにも思える。レイモンドには生きていてほしい、死なないでほしい。けれど、その選択肢は選べなかった。
「…嫌よ。それなら、レイモンドと一緒に死んだほうがいいわ」
彼女の言葉にサミュエルは一瞬笑みを消したが、直ぐに小馬鹿にしたように笑みを浮かべる。元より、彼はレイモンドを生かす気などないだろう。
エレノーラは死んだほうがいいとは言ったが、死にたい訳ではない。二人共に生きのびて帰ることが一番の望みであるが、打つ手がないのも確かだ。
前回のように、魔法の要となっている恐怖を一時的に消すことで無効化する方法もあるが、あれは足止め程度の魔力しかなく魔法の発動も一度きりだったからこそ上手くいった。今回は膨大な魔力と、魔力さえあれば何度でも魔法が発動する石を利用し、本気で侵入者を排除しにかかっている。エレノーラも、奥底に深く刻まれた恐怖を忘れるくらいにときめくなんて、そう簡単にはいかない。できたとしても長続きしないため、再びその恐怖を思い出せば湧いて出てきてしまう。
(どうすれば…)
エレノーラは考えても考えても打開案が浮かばず、目をきつく閉じて両手を握りしめ、一歩後ろに下がった。そこで、後ろ足に何かがぶつかり、足元を見る。彼女が見つけたのは、見覚えのある液体の入った小瓶だった。
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