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第二部
せっかくやるなら楽しく(3)
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◆
薬の材料は二日後にまとめて用意されることになった。それまでに調合手順の確認をし、準備できるものは先んじて準備しておく。
そうして迎えた二日後、材料を受け取ったエレノーラは早々に薬をつくり上げた。
「これが、でき上がった媚薬よ」
「すごい色だな……」
試作は早速今夜、レイモンドに試してもらうことになった。作り上げた達成感に満足しているエレノーラとは対照的に、簡素な寝間着に身を包んだレイモンドは、ベッドの上で小瓶に入った薬を苦々しい表情で眺めている。
「レイモンド、嫌ならむりしなくていいのよ?」
「嫌ってわけじゃあない。ちょっと……色々、思い出しただけだ」
声をかけると、レイモンドは眉間の皺を緩めて少し眉尻を下げる。レイモンドは小瓶を傾け、中に収められている茶色のような、緑色のような、不思議な色をした薬を揺らしていた。魔物の毒のせいで色々とあったからか、薬といえども警戒してしまうのだろう。
「レイモンド、大丈夫。これはあんな悪質なものじゃなくて、夫婦間の仲を良くするものなんだから」
「夫婦……」
結婚して数ヶ月経つが、レイモンドは夫婦という言葉にまだ少し照れくさそうだ。
「そう。せっかくなんだから、楽しみましょう?」
「楽しむ、か」
「うんうん。これでいつもより長く、いっぱい気持ちよくしてあげるからね!」
そう言うと、レイモンドは少し困ったように笑った。媚薬を使わずとも若いレイモンドは十分元気で、二人の性活は充実している。
「そうだな。今日は、エレノーラを満足させられるかもな」
「あら、私は毎日満足しているわよ?」
「本当に?」
「本当よ」
性欲はエレノーラの方が強い。もっと喘がせたい、搾り取りたいと、物足りなさを感じたまま終わることもある。とはいえ、体は満たされなくとも、レイモンドと二人で楽しむ時間はエレノーラの心を満たしていた。エレノーラはそれで十分満足しているが、レイモンドは少し気にしているようだ。
(まさか、ばれているのかしら)
どうしても足りない時は、眠っているレイモンドをおかずに自己処理することもあった。エレノーラはあまり重荷になりたくなくて、気づかれないように注意を払っていたが、気づかれたのかと焦る。
「そうか」
どうやら、レイモンドは気づいていないようだ。エレノーラはほっと胸をなで下ろしつつ、小さく笑う。
「じゃあ、今夜は期待しているわね」
レイモンドも笑って小瓶のコルクを引き抜いた。一気に飲み干したが、途端に顔をしかめる。
「っ、まず……すぎる! 水、水っ」
「あぁ……味は、まあ、ねぇ」
喉を抑えながら水を欲しがるレイモンドには急ぎカップに水を注いで手渡した。レイモンドは水も一気に飲み干し、さらにもう一杯と催促してくる。合計三杯の水を飲み干してようやく口内が落ち着いたようだが、まだ尾を引いているのか、レイモンドはうつむき、うなっていた。
「なんとかならないのか、この味……」
「うーん……そんなにまずい?」
材料のことを考えると、どうやってもおいしくならない。エレノーラが誤魔化すように笑うと、レイモンドは少しむっとした表情で彼女の顔を両手でつかんだ。
レイモンドはそのままぐっと顔を近づけ、奪うように口づける。エレノーラはその強引さにときめいたのも束の間、口と中に広がる苦味に顔をしかめた。
「ま、ず……っ!」
「だろ」
「うえぇ……」
せっかくの口づけが苦くてまずい。思わず声を上げたエレノーラに、レイモンドがにやりと笑った。
「これはひどいわ……味は、要改善ね」
「そうだな……いや。これ飲むのは一人だけだったな。まあ、このままでいいんじゃないか」
レイモンドはそう言っていたずらっぽく笑う。本当に仲が良いことだ。
「じゃあ、味はレイモンドのお墨つきって言っておくわ。あと、飲んだ後にキスはしない方がいいともね」
「違いない」
レイモンドはごろりとベッドに寝転がったレイモンドの。エレノーラもその隣に並んで寝転がる。薬の効果を確認するため、今夜はレイモンドを刺激しないためにも密着しない。ネグリジェも厚めで露出を控えたもので、下着も普通のものだ。
(下着もそろそろ、新しいものがほしいわね)
個人的に入用なものは、エレノーラ担当のメイドに買ってきてもらっている。下着もその一つだ。最近の勝負下着はメイドに勧められたものだが、レイモンドの反応が良いため、エレノーラは勝負下着にはまっていた。
保護監視されて勤めているエレノーラにも、きっちりと給料は出ている。外に出ることがないため使い道がほとんどなく、貯まっていく一方だ。
エレノーラには勝負下着を買うくらいしか、金を使う楽しみがない。レイモンドの反応を楽しみ、彼も恥ずかしそうにしていながらも結構楽しんでいるのだから、エレノーラにとっては有意義な金の使い方である。
(そうそう。最近、新作が出たのよね。たしか、いたずら黒猫ランジェリーだったかしら)
メイド本人が乗り気とはいえ、エレノーラは下着を買ってきてもらうことに多少悪い気がしていた。自分で買いに行けたらと考えていると、レイモンドが大きく息を吸って吐き出した音が聞こえて、慌てて頭を切りかえてそちらに目を向けた。
「効いてきた?」
「たぶん」
レイモンドの頬は、ほんのりと赤く染まっている。
「むらむら?」
「……している」
股間の方も少しふくらんでいた。薬はよく効いているようだ。
「エレノーラ……」
少し掠れた声で名前を呼ばれ、エレノーラは小さく首をかしげて答える。レイモンドは寝返りをうつと、腕を伸ばして彼女を抱き寄せた。
「なあに?」
「したい」
レイモンドはそのまま足を絡め、エレノーラの唇に軽く口づける。エレノーラはお腹にあたるものの熱を感じながら、珍しく積極的なレイモンドに顔がにやけた。
「あら、今日はせっかちね」
「っ……わかっているだろ」
エレノーラの上に覆いかぶさったレイモンドはすでに少し息が荒い。股間の方も、先ほどよりもとても苦しそうになっていた。
「ふふ、いらっしゃい、レイモンド」
両腕を広げて迎えると、レイモンドはエレノーラに口づける。そのまま両手で体をまさぐり、胸をやわやわともんだ。レイモンドはネグリジェ越しでは満足できないのか、釦を外そうと手をかけるものの、焦りすぎてうまく外せずにいる。
「もう、慌てないで。いま脱ぐから」
「う……っ」
釦を外して前をくつろげると、顕になった胸にレイモンドが顔を寄せた。形が変わるくらいにもみしだきながら、胸に吸いつく。
「レイモンド。ほら、もう脱いじゃいましょう」
「……ああ」
エレノーラは胸に顔を埋めているレイモンドの髪に指を差し入れ、頭をなでた。レイモンドはその言葉に大人しく従い、身を起こす。エレノーラも上体を起こし、乱れた服のまま先にレイモンドの服を脱がせようとした。
レイモンドの股間の辺り、ズボンの色が少し濃くなっている。ズボンにまで染みるほどの先走りが、あふれてしまっているようだ。
(ああっ、かわいい……!)
エレノーラはたまらず、レイモンドのズボンを下着ごと引きずり下ろした。
薬の材料は二日後にまとめて用意されることになった。それまでに調合手順の確認をし、準備できるものは先んじて準備しておく。
そうして迎えた二日後、材料を受け取ったエレノーラは早々に薬をつくり上げた。
「これが、でき上がった媚薬よ」
「すごい色だな……」
試作は早速今夜、レイモンドに試してもらうことになった。作り上げた達成感に満足しているエレノーラとは対照的に、簡素な寝間着に身を包んだレイモンドは、ベッドの上で小瓶に入った薬を苦々しい表情で眺めている。
「レイモンド、嫌ならむりしなくていいのよ?」
「嫌ってわけじゃあない。ちょっと……色々、思い出しただけだ」
声をかけると、レイモンドは眉間の皺を緩めて少し眉尻を下げる。レイモンドは小瓶を傾け、中に収められている茶色のような、緑色のような、不思議な色をした薬を揺らしていた。魔物の毒のせいで色々とあったからか、薬といえども警戒してしまうのだろう。
「レイモンド、大丈夫。これはあんな悪質なものじゃなくて、夫婦間の仲を良くするものなんだから」
「夫婦……」
結婚して数ヶ月経つが、レイモンドは夫婦という言葉にまだ少し照れくさそうだ。
「そう。せっかくなんだから、楽しみましょう?」
「楽しむ、か」
「うんうん。これでいつもより長く、いっぱい気持ちよくしてあげるからね!」
そう言うと、レイモンドは少し困ったように笑った。媚薬を使わずとも若いレイモンドは十分元気で、二人の性活は充実している。
「そうだな。今日は、エレノーラを満足させられるかもな」
「あら、私は毎日満足しているわよ?」
「本当に?」
「本当よ」
性欲はエレノーラの方が強い。もっと喘がせたい、搾り取りたいと、物足りなさを感じたまま終わることもある。とはいえ、体は満たされなくとも、レイモンドと二人で楽しむ時間はエレノーラの心を満たしていた。エレノーラはそれで十分満足しているが、レイモンドは少し気にしているようだ。
(まさか、ばれているのかしら)
どうしても足りない時は、眠っているレイモンドをおかずに自己処理することもあった。エレノーラはあまり重荷になりたくなくて、気づかれないように注意を払っていたが、気づかれたのかと焦る。
「そうか」
どうやら、レイモンドは気づいていないようだ。エレノーラはほっと胸をなで下ろしつつ、小さく笑う。
「じゃあ、今夜は期待しているわね」
レイモンドも笑って小瓶のコルクを引き抜いた。一気に飲み干したが、途端に顔をしかめる。
「っ、まず……すぎる! 水、水っ」
「あぁ……味は、まあ、ねぇ」
喉を抑えながら水を欲しがるレイモンドには急ぎカップに水を注いで手渡した。レイモンドは水も一気に飲み干し、さらにもう一杯と催促してくる。合計三杯の水を飲み干してようやく口内が落ち着いたようだが、まだ尾を引いているのか、レイモンドはうつむき、うなっていた。
「なんとかならないのか、この味……」
「うーん……そんなにまずい?」
材料のことを考えると、どうやってもおいしくならない。エレノーラが誤魔化すように笑うと、レイモンドは少しむっとした表情で彼女の顔を両手でつかんだ。
レイモンドはそのままぐっと顔を近づけ、奪うように口づける。エレノーラはその強引さにときめいたのも束の間、口と中に広がる苦味に顔をしかめた。
「ま、ず……っ!」
「だろ」
「うえぇ……」
せっかくの口づけが苦くてまずい。思わず声を上げたエレノーラに、レイモンドがにやりと笑った。
「これはひどいわ……味は、要改善ね」
「そうだな……いや。これ飲むのは一人だけだったな。まあ、このままでいいんじゃないか」
レイモンドはそう言っていたずらっぽく笑う。本当に仲が良いことだ。
「じゃあ、味はレイモンドのお墨つきって言っておくわ。あと、飲んだ後にキスはしない方がいいともね」
「違いない」
レイモンドはごろりとベッドに寝転がったレイモンドの。エレノーラもその隣に並んで寝転がる。薬の効果を確認するため、今夜はレイモンドを刺激しないためにも密着しない。ネグリジェも厚めで露出を控えたもので、下着も普通のものだ。
(下着もそろそろ、新しいものがほしいわね)
個人的に入用なものは、エレノーラ担当のメイドに買ってきてもらっている。下着もその一つだ。最近の勝負下着はメイドに勧められたものだが、レイモンドの反応が良いため、エレノーラは勝負下着にはまっていた。
保護監視されて勤めているエレノーラにも、きっちりと給料は出ている。外に出ることがないため使い道がほとんどなく、貯まっていく一方だ。
エレノーラには勝負下着を買うくらいしか、金を使う楽しみがない。レイモンドの反応を楽しみ、彼も恥ずかしそうにしていながらも結構楽しんでいるのだから、エレノーラにとっては有意義な金の使い方である。
(そうそう。最近、新作が出たのよね。たしか、いたずら黒猫ランジェリーだったかしら)
メイド本人が乗り気とはいえ、エレノーラは下着を買ってきてもらうことに多少悪い気がしていた。自分で買いに行けたらと考えていると、レイモンドが大きく息を吸って吐き出した音が聞こえて、慌てて頭を切りかえてそちらに目を向けた。
「効いてきた?」
「たぶん」
レイモンドの頬は、ほんのりと赤く染まっている。
「むらむら?」
「……している」
股間の方も少しふくらんでいた。薬はよく効いているようだ。
「エレノーラ……」
少し掠れた声で名前を呼ばれ、エレノーラは小さく首をかしげて答える。レイモンドは寝返りをうつと、腕を伸ばして彼女を抱き寄せた。
「なあに?」
「したい」
レイモンドはそのまま足を絡め、エレノーラの唇に軽く口づける。エレノーラはお腹にあたるものの熱を感じながら、珍しく積極的なレイモンドに顔がにやけた。
「あら、今日はせっかちね」
「っ……わかっているだろ」
エレノーラの上に覆いかぶさったレイモンドはすでに少し息が荒い。股間の方も、先ほどよりもとても苦しそうになっていた。
「ふふ、いらっしゃい、レイモンド」
両腕を広げて迎えると、レイモンドはエレノーラに口づける。そのまま両手で体をまさぐり、胸をやわやわともんだ。レイモンドはネグリジェ越しでは満足できないのか、釦を外そうと手をかけるものの、焦りすぎてうまく外せずにいる。
「もう、慌てないで。いま脱ぐから」
「う……っ」
釦を外して前をくつろげると、顕になった胸にレイモンドが顔を寄せた。形が変わるくらいにもみしだきながら、胸に吸いつく。
「レイモンド。ほら、もう脱いじゃいましょう」
「……ああ」
エレノーラは胸に顔を埋めているレイモンドの髪に指を差し入れ、頭をなでた。レイモンドはその言葉に大人しく従い、身を起こす。エレノーラも上体を起こし、乱れた服のまま先にレイモンドの服を脱がせようとした。
レイモンドの股間の辺り、ズボンの色が少し濃くなっている。ズボンにまで染みるほどの先走りが、あふれてしまっているようだ。
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