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カレル達の暗躍④

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その話を聞いていたカレルはため息をつきながらもサティに疑問を投げかけていた。

「でもさ、そもそも2人が生まれたときに、別に伯爵の元で育てなくても良かったんじゃないの?普通に王女と王子として育てればいいことだし。この国は確か女性にも王位継承権があったよね?」
「それは、私はこの国の迷信が関係していると思っている。マスティリアでは双子は凶兆だそうた。」
「だから王家は双子が生まれたとは公表せずに、遠縁の伯爵に育ててもらったってこと?」
「だと思う。双子の妹がいることを隠した状態で、かつライナス王太子が出奔。しかも戴冠式が迫っていた状態でセシリアが性別を隠して王位を継いだことを考えると、そもそも妹の存在自体を抹消したかった。でもしなかった。それは兄に何かあった時の保険という存在だった…と考えられるな。まぁ、バカバカしい策だが、実際にはそれによってマスティリアは救われたわけだ」

それはあまりにひどい現実だった。
彼女は万が一のための兄の保険(スペア)の存在だったのだ。やるせない気持ちがスライブを支配していた。
だが、執務の様子を見ていると、城からの脱走はするものの施策自体は真っ当だったし、セシリア自身も仕事に関しては楽しんでやっているようだった。
でなければ、義務だけで深夜まで論文を読んだり、自ら他国の技術を取り入れた自国の技術開発をしようなどとは思わないだろう。
それだけは救いなのかもしれない。

「よって、マスティリアはセシリアを手離すことはないだろうし、現実的に不可能だ。どうする、スライブ?」
「それでも連れ帰ってやる!そもそも元凶はその兄だ!セシリアに全て押し付けて、なんなんだ?そいつが王位に戻ればいいんだ。そうすればセシリアはお役御免。堂々とトーランドに連行…もとい連れて行くことができる!」
「今連行って言ったね。…まぁそこはセシリアちゃんにも選択の余地はあるけどね。」
「…それはおいおいだ。なんとしてでもセシリアに好きになったもらう。絶対にそうさせる」

セシリアにはセシリアの事情があるのは分かっている。でも初恋を諦められるほど生半可な想いではないのだ。
カレルには初恋を拗らせていると言われるし、多少は自覚はあるが、少しの可能性があるのならばセシリアを連れ帰りたいと思うのは最早執念と言えるかもしれない。

「今度は本物のライナス探しだな。サティ、何か情報はないのか?」
「無理だな。王家でも内密に探っているようだが…この状況を鑑みると芳しくないのだろう」

沈黙が部屋を支配した。
気持ちを落ち着かせるために、スライブが一度紅茶を口に含んだ。
するとカレルがそう言えばといって話を切り出した。

「スライブはこの間セシリアちゃんと城下町デートしたんだよね?」
「そうだな。」
「あの後ってセシリアちゃん城下町に行った?」
「いや、あの後は昼のうちはずっと2人でいたな。夜は…抜け出しているのかは分からないが」
「そうかぁ…じゃああれはセシリアちゃんじゃないのかな?」
「どういうことだ?」

うーんと首を捻って考え込んでいるカレルに問うてみると、カレルは不思議そうに返答した。

「僕はちょっと人を探して城下町に頻繁に言ってるんだよね。」
「あぁ、そう言えば探したい人がいると言っていたな。見つかったのか?」
「…見つかったと言えば見つかったんだけど。残念ながら彼女とは個人的な話はできなかったよ。それよりも昨日のお昼にねセシリアちゃんを城下町のレース編みの店で見たんだよ。」
「は?昨日はずっと一緒に執務してたぞ。」
「だよね。じゃあ見間違えだったのかなぁ?」

世の中には似た人物が3人いるというが、このカレルの言葉が気になった。
今は藁をもすがる思いだ。ライナスの情報がないなら可能性はすべて当たりたい。

「カレルは一応、セシリアによく似た人物をもう一度当たってくれ。それほどセシリアに似ていて、セシリアに化けて出奔するくらいだ。万が一という可能性もあるだろう?」
「了解~。」
「では、ライナスを見つけることとスライブがセシリア自身に好きになってもらうというのが当面の目標だな。まぁ、後者が成功すれば今回の王家の秘密をネタにマスティリアを色々脅せるから何とかなるかもしれん。応援はしないが最善は尽くせよ」

サティはマスティリアを脅したいのが本音だろう。むしろそちらを優先したい気持ちでいることがスライブにはアリアリと伝わってきた。
そんなサティを見てスライブはため息をつき、カレルは微笑ましく見ていた。

「それにしても、セシリアちゃんは結構鈍感だよね。普通に見てるとスライブの事男性として意識しているっぽいけどなぁ。自分の気持ちにも気づいてないっぽいし。」
「そうなのか?」

少年王がセシリアであると知ってから、カレルが彼女を注目して見ているとセシリアは明らかにスライブを意識している。
特にスライブがセシリアの正体に気づいた刺客の一件があってから、スライブがセシリアに熱烈に好意を向けているせいか彼女自身もスライブを男性としてみているようにカレルには思えた。

カレルの言葉にスライブは少しホッとする。それに城下町でセシリアに言われた言葉も後付けされてセシリア攻略に光が見えた気がした。
とりあえずこの間立てた何故セシリアが正体を言ってくれないかの理由を再度脳内で検討する。

仮定①:セシリアがルディ=スライブであることに気づかない
仮定②:気づいていても少年王として求婚を受け入れるわけにはいかない
仮定③:単純にスライブを忘れているかスライブを嫌っている

城下地でのデート(と言い切ろう)の際に、セシリアは自分を嫌いではないと言ってくれていた。

(ということは仮定③の可能性は限りなく低いな)

仮定①も考えられるが仮定②の可能性も大きいと考えられる。だが兄ライナスの代打で少年王をやっているのであれば、それを見つけれれればセシリアをトーランドに連れて帰れる。
前も考えたがもう少しスライブを男として意識してもらえたら、正体を明かそう。

「まぁ、いざとなったら脅して連れて行くか…」
「それは楽しそうだ。あのマスティリア少年王をぐうの音も出ないほど追い詰めて、トーランドの属国にするのもアリだ。私も協力するぞ。」
「スライブ、サティ、ちょっと落ち着いて。もう少し音便に事を進めるようにしようよ」
「冗談だよ」

とスライブは言いつつも、半分は本気であったが…。
さて、次の手段はどうしようかと、スライブは紅茶をもう一口口にしながら策を巡らせていくのだった。

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