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第9章 決別①

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腕を振るった作った料理にラップをかける。温かった料理はすっかり冷めてしまった。
それは…自分の結婚生活に似ていたと思う。
不意に尾崎と孝之のことを思い出す。見せしめのように近所に越してきた尾崎。にこやかに孝之と電話している尾崎。
まるで孝之の心が由希子にはないことを突きつけるような行為だった。
そのたびに言いしれない不安と嫉妬と、悲しみが襲ってきて気が狂いそうだった。

(やっぱり…もう…無理…)

なにを信じれば良かったのだろうか?


料理を見つめつつ、今まで孝之に依存する生活を送っていたんだと改めて思った。でも、やっぱりこのままじゃダメだ。
そう思って由希子は一人で歩くと決めた。それは孝之との離婚を決意だと思った。
どうしたらよかったのだろう?
由希子は嗚咽を殺して泣いた。
誰にも見られていないのだから、声を上げて泣いても良かった。
だが、由希子は声を上げて泣くことができない。自分がしっかりしなければ、多忙な母のことや病弱な姉の面倒も見れなかった。
心を殺して生きるというのがすっかり身についていた。
そんな自分を包むように孝之は愛してくれていると思っていた。だけど…自分は変われなかったし、孝之も最後までは愛してくれなった。
その事実が身を裂くように辛い。
でも…と、由希子は身支度を始めることにした。
クローゼットを開ける。中にはたくさんの洋服が並んでいたが、そのほとんどは着ていないことに気づく。
孝之と結婚して、デートらしいこともしていなくて、その服が無駄になっていることを改めて実感した。
気持ちを紛らわせるように服を捨てた。まだまだ着れる服もたくさんあった。
だけど、もう年齢的に無理だ。まだ20代の頃は中肉中背より少し痩せてた部類だったから体の線が出る服も好んで来ていた。
だが今はそれが見る影もなくなり体形的にも弛んできているボディラインを隠すような服を着るしかなくなっていた。
これが現実。
結婚4年目にして、何も変われない自分を変えるため、いや、現実から逃げるように由希子は服を捨て続けた。
気づくとあんなにクローゼットを支配していた服は大半がなくなっていた。
特に持っていくものもない。
大抵のものは買えるし。
持っていこうと思っていたものはスーツケース1個になった。
この6年はいったい何だったんだろう。ふと思った。
仕事が忙しい孝之とは朝ご飯を食べて少しの会話をして…あとは、子供が欲しいこととかを話して…でも向き合ってもらえなくて。
仕事で疲れていることが孝之の背中から察せられたから声もかけれない。
もっといろいろと楽しいこともあったはずなのに思い出すことができない。
たぶん孝之は尾崎のことは優しい人だから。ごめんって謝ってくれるだろう。でも…心の中のわだかまりは消えることはなかった。
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