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・9-1.分からない気持ち①
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こちらにやって来るフレッドの表情は少し焦ったように余裕のないもので、クロエが今まで見たことのないものだった。
フレッドは眉間に皺を寄せて、ダニエルを睨むように近寄ってきたかと思うと、クロエの肩をグイと掴んで自分の元に引き寄せた。
同時に、クロエの肩にかかった上着をはぎ取るように乱暴にとると、ダニエルに押し付けた。
「お、お兄様、どうなさったの?」
いつも穏やかな笑みを浮かべているフレッドが、どうしてこのような態度をダニエルに取るのか、その理由が分からず、クロエは困惑しながら尋ねた。
だが、フレッドはクロエの言葉には答えず、ダニエルを睨んだままだ。
「クロエの相手をしてくれて礼を言う。だが、もう結構だ」
そしてクロエの肩を抱いたまま、踵を返した。
「さぁ、クロエ帰ろう」
「えっ!? で、でもダニエル様とお話が」
余りにも強引にクロエを連れ去ろうとするフレッドに、クロエは驚いて声を掛ける。
だが、それには聞く耳をもたずに、フレッドは歩き出してしまった。
「貴殿はフレッド・アルドリッジ伯爵ですか」
背後からダニエルがフレッドを呼び止めた。
ダニエルの声は、先ほどまでクロエと談笑していた時とは打って変わって低いもので、心なしか静かな怒りを孕んだものだった。
その言葉に、フレッドはようやく足を止め、ダニエルを見据えた。
ダニエルは、フレッドの鋭い視線を真っ直ぐに受け止めながら、逆にそれを睨み返す。
「クロエ嬢は、貴殿が恋人を蔑ろにしているせいで令嬢に絡まれていた。貴殿の行動が周囲の誤解を招き、クロエ嬢の立場が悪くなっているのが分からないのですか?」
クロエがブリジットたちに囲まれ、ドレスの色について嘲笑されていたことを示唆しているのだろう。
「クロエ嬢は私が家に送り届ける。貴殿はロザリー・ナグノイア嬢と過ごし、彼女を送るべきだ」
「クロエを助けてくれたことには感謝する。だが、君に俺たちのことをとやかく言われる筋合いはない」
そして、話はここまでだと言うように、フレッドは今度こそクロエを連れて歩き出した。
「さぁ、ここは寒いから帰ろう」
「ちょっと……お兄様! 待ってください。ダニエル様とまだお話しが……」
フレッドはクロエの手を握ると、強引に歩き出した。
クロエは慌てて声をかけるが、フレッドはそれを聞こえないかのように歩き続け、結局クロエはダニエルと別れの挨拶も出来ないまま連れ去られてしまった。
※
フレッドによってクロエは半ば押し込まれるようにして馬車に乗せられてしまった。
そして、フレッドはそのままクロエの隣に座った。
四人乗りの馬車で何故フレッドがあえて隣に座ったことに加え、フレッドの手はクロエを捕らえたままだ。
それなのにフレッドは無言で窓の外を厳しい顔で見つめていることに、クロエは困惑してしまった。
クロエの角度からはフレッドの表情はよく見えないが、纏う空気から不機嫌なことが察せられた。
何か自分がフレッドを怒らせるようなことをしたのか?
クロエは今日の言動を振り返ったが、思い当たる節はなかった。
(もしかして、会場で何かあったのかしら?)
そう考えた時、ロザリーの顔が思い浮かんだ。
フレッドに連れられて馬車に乗ったが、先ほどダニエルが言っていた通り、恋人のロザリーを屋敷まで送るべきだ。
もしかして、クロエをエスコートした責任を果たすために、ロザリーを置いて来てしまったのだろうか?
そんな考えがクロエの頭をよぎった。
もしそうならば、フレッドにもロザリーに申し訳ない。
「あの、ロザリー様はいいのですか?」
「別に、ロザリーは放っておいても平気だ。そもそも送る義理はない」
「義理は無いって……」
恋人に対してあまりの言いように、クロエは思わず眉を顰めた。
「そういう言い方はロザリー様に失礼じゃない? それに私は一人で帰れましたよ?」
苦言を呈そうとしたクロエに対し、フレッドが突然こちらを振り向いた。
「一人で? あの男に送ってもらうつもりだったんじゃないのか?」
「あの男ってダニエル様?」
唐突に話題が変わり、クロエは驚いた。
だがそれ以上に、フレッドの表情に、静かな怒りの色を感じて、思わず息を呑んだ。
「彼は誰だ? 随分親しそうにしていたが、お前の知り合いか?」
「ええ、あの方はダニエル・リーセル様とおっしゃるの。私と一緒に研究をしてくださっていた研究仲間なんです」
「それで? お前たちはどういう関係だ?」
「どういうって……ですからただの研究仲間ですけど」
フレッドの言わんとしていることが分からず、クロエは困惑しつつ首を傾げた。
「そのただの研究仲間と顔を寄せ合って笑うなんて、ずいぶん親密なんだな。恋人同士だって言ってもいい距離だったじゃないか」
「恋人って。そんなつもりじゃ」
まるでクロエが悪いことをしたかのように非難の色を帯びたフレッドの言葉に、クロエは反論しようとした。
だが、その言葉はクロエの口から発することは無かった。
クロエの顔を覗き込むフレッドの表情があまりにも辛そうで、切なく、苦しそうだったからだ。
(え?)
クロエはフレッドが何故そんな表情を浮かべるのか分からず、驚いて目を瞠った。
すると突然、フレッドがクロエを抱きしめると、耳元で声を絞り出すように囁いた。
「クロエ、お前の隣は俺のものだ」
フレッドは眉間に皺を寄せて、ダニエルを睨むように近寄ってきたかと思うと、クロエの肩をグイと掴んで自分の元に引き寄せた。
同時に、クロエの肩にかかった上着をはぎ取るように乱暴にとると、ダニエルに押し付けた。
「お、お兄様、どうなさったの?」
いつも穏やかな笑みを浮かべているフレッドが、どうしてこのような態度をダニエルに取るのか、その理由が分からず、クロエは困惑しながら尋ねた。
だが、フレッドはクロエの言葉には答えず、ダニエルを睨んだままだ。
「クロエの相手をしてくれて礼を言う。だが、もう結構だ」
そしてクロエの肩を抱いたまま、踵を返した。
「さぁ、クロエ帰ろう」
「えっ!? で、でもダニエル様とお話が」
余りにも強引にクロエを連れ去ろうとするフレッドに、クロエは驚いて声を掛ける。
だが、それには聞く耳をもたずに、フレッドは歩き出してしまった。
「貴殿はフレッド・アルドリッジ伯爵ですか」
背後からダニエルがフレッドを呼び止めた。
ダニエルの声は、先ほどまでクロエと談笑していた時とは打って変わって低いもので、心なしか静かな怒りを孕んだものだった。
その言葉に、フレッドはようやく足を止め、ダニエルを見据えた。
ダニエルは、フレッドの鋭い視線を真っ直ぐに受け止めながら、逆にそれを睨み返す。
「クロエ嬢は、貴殿が恋人を蔑ろにしているせいで令嬢に絡まれていた。貴殿の行動が周囲の誤解を招き、クロエ嬢の立場が悪くなっているのが分からないのですか?」
クロエがブリジットたちに囲まれ、ドレスの色について嘲笑されていたことを示唆しているのだろう。
「クロエ嬢は私が家に送り届ける。貴殿はロザリー・ナグノイア嬢と過ごし、彼女を送るべきだ」
「クロエを助けてくれたことには感謝する。だが、君に俺たちのことをとやかく言われる筋合いはない」
そして、話はここまでだと言うように、フレッドは今度こそクロエを連れて歩き出した。
「さぁ、ここは寒いから帰ろう」
「ちょっと……お兄様! 待ってください。ダニエル様とまだお話しが……」
フレッドはクロエの手を握ると、強引に歩き出した。
クロエは慌てて声をかけるが、フレッドはそれを聞こえないかのように歩き続け、結局クロエはダニエルと別れの挨拶も出来ないまま連れ去られてしまった。
※
フレッドによってクロエは半ば押し込まれるようにして馬車に乗せられてしまった。
そして、フレッドはそのままクロエの隣に座った。
四人乗りの馬車で何故フレッドがあえて隣に座ったことに加え、フレッドの手はクロエを捕らえたままだ。
それなのにフレッドは無言で窓の外を厳しい顔で見つめていることに、クロエは困惑してしまった。
クロエの角度からはフレッドの表情はよく見えないが、纏う空気から不機嫌なことが察せられた。
何か自分がフレッドを怒らせるようなことをしたのか?
クロエは今日の言動を振り返ったが、思い当たる節はなかった。
(もしかして、会場で何かあったのかしら?)
そう考えた時、ロザリーの顔が思い浮かんだ。
フレッドに連れられて馬車に乗ったが、先ほどダニエルが言っていた通り、恋人のロザリーを屋敷まで送るべきだ。
もしかして、クロエをエスコートした責任を果たすために、ロザリーを置いて来てしまったのだろうか?
そんな考えがクロエの頭をよぎった。
もしそうならば、フレッドにもロザリーに申し訳ない。
「あの、ロザリー様はいいのですか?」
「別に、ロザリーは放っておいても平気だ。そもそも送る義理はない」
「義理は無いって……」
恋人に対してあまりの言いように、クロエは思わず眉を顰めた。
「そういう言い方はロザリー様に失礼じゃない? それに私は一人で帰れましたよ?」
苦言を呈そうとしたクロエに対し、フレッドが突然こちらを振り向いた。
「一人で? あの男に送ってもらうつもりだったんじゃないのか?」
「あの男ってダニエル様?」
唐突に話題が変わり、クロエは驚いた。
だがそれ以上に、フレッドの表情に、静かな怒りの色を感じて、思わず息を呑んだ。
「彼は誰だ? 随分親しそうにしていたが、お前の知り合いか?」
「ええ、あの方はダニエル・リーセル様とおっしゃるの。私と一緒に研究をしてくださっていた研究仲間なんです」
「それで? お前たちはどういう関係だ?」
「どういうって……ですからただの研究仲間ですけど」
フレッドの言わんとしていることが分からず、クロエは困惑しつつ首を傾げた。
「そのただの研究仲間と顔を寄せ合って笑うなんて、ずいぶん親密なんだな。恋人同士だって言ってもいい距離だったじゃないか」
「恋人って。そんなつもりじゃ」
まるでクロエが悪いことをしたかのように非難の色を帯びたフレッドの言葉に、クロエは反論しようとした。
だが、その言葉はクロエの口から発することは無かった。
クロエの顔を覗き込むフレッドの表情があまりにも辛そうで、切なく、苦しそうだったからだ。
(え?)
クロエはフレッドが何故そんな表情を浮かべるのか分からず、驚いて目を瞠った。
すると突然、フレッドがクロエを抱きしめると、耳元で声を絞り出すように囁いた。
「クロエ、お前の隣は俺のものだ」
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