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・11-2.フレッドとの出会い②
しおりを挟む「帰ってきたら挨拶させるよ。さぁ、時間も惜しい。お茶にしよう」
そうしてケイネスに通されたのは、窓の大きなコンサバトリーだった。
多角形の形をしており、一枚一枚の窓が大きい。天井もまたガラスのため、日差しが室内に入り込んでいるが、それを緩和するように白い幕が張られており、室内は快適な温度になっている。
ケイネスに勧められたラタンのカウチソファーに座ると、すぐにジェレミーとケイネスは話し始めた。
これまで会えなかった時間を埋めるかのように、二人は語り合っているが、正直クロエにとっては退屈な内容だ。
(早く本の続きが読みたいのに……)
そう思っていても父の親友の手前、暇な様子も退屈な様子も見せられない。
なるべくにこやかに微笑みながら二人の話を聞いているのだが、そろそろ飽きてきてしまった。
何か口実を作ってこの場を離れ、こっそり本を読めないものか。
クロエはティーカップを口に運びながら、手入れされた庭をなんとなく見ながらそんなことを考えた。
(そうだわ、庭を見たいと言えばこの場から離れられるかしら)
そう考えたクロエは、ちょうど二人の話が途切れたところでジェレミーに尋ねた。
「ねぇお父様、アルドリッジ伯爵のお庭ってとても素敵ね。私ゆっくり見てみたいのだけど……」
窓から見える庭は、色とりどりの花が美しく配置されたもので、お世辞抜きでも美しい。
先ほど敷地に入った時の植栽といい、ケイネスは植物が好きなのかもしれない。
クロエがそう言うと、その言葉に先に反応したのはケイネスだった。
「クロエちゃんは花が好きなのかい?」
「ええ。花は綺麗なだけじゃなく、生活に役立つ花もいっぱいあって、とても興味深いですから」
これは本音だ。
花は鑑賞するだけでも心が和むし綺麗だと思うが、薬草のような薬になる花もあるのだ。
だから、最近医療魔術に興味が湧いているクロエにとっては、様々な花を見るいい機会でもあった。
「なるほど。ウチの庭には珍しい花も多いし、是非見てほしいよ。庭の奥には薔薇園もあるんだよ」
「まぁ、それは素敵ですね! ねえ、お父様、行ってもいいかしら?」
「ああ、行っておいで」
「ありがとう! では、アルドリッジ伯爵、失礼します」
そうして大義名分を手に入れたクロエは、ケイネスに一礼すると、持ってきた本を片手に、いそいそと庭へと向かった。
アルドリッジ伯爵家の庭は、ケイネスが自慢するのも頷けるほど見事だった。
デルフィニウムやルピナス、ジキタリスが咲き誇り、本を読む口実で庭に来たのに、本気で魅入ってしまうほどだった。
そんな庭を歩くと、バラの垣根が見えてきた。
さらに進むとバラの花が美しく咲き誇っている。
このバラ園が先ほどケイネスが言っていた場所だろう。
「綺麗……」
バラの淡い香りが鼻孔をくすぐる。
美しいバラの花に目を奪われつつ歩いていくと、そこに見えたのはガゼボだった。
(わぁ! 素敵なガゼボだわ)
半円形にベンチが置かれ、中心にはテーブルも設置されている。
ドーム型の天井には薔薇が咲き誇っている。そこから漏れる木漏れ日がちょうどいい明るさをもたらしていた。
ここならば読書に最適だ。
そう思ったクロエはさっそく本を開いて、先ほどの続きを読み始めることにした。
だが、10分ほど経った頃だった。
クロエの瞼が徐々に重くなり始めた。
普段、本を読んでも眠くなることはないのだが、薔薇の甘い香りと、庭を通り抜ける心地よい風、そしてうららかな春の陽気に誘われ、気づけば眠りに落ちて行った。
※
(ん…………)
どれくらい眠ってしまったのだろうか?
側に人の気配を感じて、クロエはゆっくりと瞼を開いた。
すると、そこにあったのは自分の顔を心配そうにのぞき込んでいる、空色の瞳だった。
「えっ!」
驚きの余り、クロエは短く叫んだ。そして、そのまま勢いよく起き上がると、隣に座っていたのは少年もまた驚いた表情を浮かべた。
金糸のようなサラサラの髪に、青空を凝縮したような青い目の少年は、クロエを見ると微笑みを浮かべた。
その顔が先ほど会ったケイネスに似ていたので、クロエはすぐにこの少年がケイネスの息子であることを察した。
「あぁ、起こしてしまったね」
「ええと、フレッド様?」
「父から聞いてたのかな? 初めまして、僕はフレッド・アルドリッジ。君がクロエ・ランディット伯爵令嬢、だよね?」
「え? ええ、初めまして……」
挨拶を返したクロエだったが、フレッドの顔に見覚えがあった。
確かにケイネスに似ているからかもしれない。
だが、妙な既視感を覚えた。
大昔から知っているような、懐かしいような、奇妙な感覚だった。
その時、フレッドが息を呑むと、そっとクロエの頬に手を伸ばした。
「綺麗だ……」
フレッドはまるで口から零れた様にそう呟いた。その言葉の意味が分からず、クロエは首を傾げていると、フレッドの指がクロエの頬を優しく撫でた。
「え?」
「どうして泣いているの?」
そう言ってフレッドはクロエの目から零れ落ちた涙をそっと拭った。
その時、クロエは初めて自分が泣いていることに気づいた。
「私……」
「どうしたの? 怖い夢でも見た?」
そう問われても、何故とめどなく涙があふれるのかクロエ自身も分からない。
ただ一つクロエの中にあった感情は「ようやく会えた」という安堵感のようなものだった。
クロエは小さくかぶりを振ると、涙を拭って笑顔を作った。
「いいえ、そうではないのですが……。突然泣かれても驚かれたでしょう? ごめんなさい」
「ううん、いいんだ」
フレッドはそう言って笑顔を向けた。
これが、クロエとフレッドの出会いだった。
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