Ninfea

蠍ノ 丘

文字の大きさ
4 / 78

遭遇

しおりを挟む
 
 日暮れまで残り僅かしか時間がないが墜落したヘリコプターに出くわす事など滅多にない。それにコロニーもさほど遠くには離れていない事もあり、誰よりも先にヘリコプター内を調べる事にした。
 物資など貴重な物は既に持ち去られている可能性があるが、その逆もある為調べるに越した事はない。

 ロギアは双眼鏡を取り出し二百メートル先の墜落現場を観察した。墜落しているヘリコプターの周りには墜落の衝撃で飛び出したと思われる数人の死骸が転がっており、周辺にはまだ奴等の姿は見えない。双眼鏡をしまいボウガンを取り出すと周囲を警戒しながらヘリコプターに近付いた。

 近くまで来ると悲惨な状況が墜落した時の衝撃を物語っていた。ヘリコプターの残骸がそこらじゅうに飛び散り、数人の死骸の傍には奴等に寄生されたとみられる蠅が何十匹も丸焦げになり息を途絶えている。

 日がかなり沈みかけている事もあり、ロギアは急いで機内を調べる事にした。

「何だ……これは……」
 機内に入ったロギアが最初に見たのは機内の中央にあったであろう、何かを拘束していたと思われる原形をとどめていないストレッチャーだった。
 ゴムで作られたと見られるベルトは破れて垂れ下がっており、その周りには外と同じように蠅と人間の死骸で埋め尽くされている。

「これは酷いな」
 機内のあまりの焦げ臭さに鼻を手で覆う。

 もしストレッチャーが何かを拘束していたのならその何かは機内と外にある死骸のどれかのはずなのだが、死骸の着ている服はどれも研究服と防弾チョッキの二種類だけでそれ以外の服を着ている者は全く見当たらなかった。ただそうなってしまうとかなり嫌な状況なのかもしれない。

 “彼等と言っても既に死骸になっているが、ストレッチャーに拘束する程の者に自分達と同じ服を着せるだろうか? ……いや、そんなものは着せる必要がないし有り得ない。つまりこのストレッチャーに拘束していた何かは普通あり得ないがまだ生きていてこの辺りに潜んでいるか移動した可能性があるな……このヘリコプターがただ単にストレッチャーを積んでいただけと考えればそれですむ話なのだが、わざわざ大切な燃料を消費してまでストレッチャーを運ぶなんて普通に考えて有り得ないか……”

 鹿の解体作業の時に感じた不安が再び戻って来るのを感じ、ロギアは直ぐに使えそうな物を見つけとっととこの場から立ち去る事にした。

 ロギアは蠅と人間の死骸をどけて一つ一つバッグの中の確認作業を開始しようとした時、機内の片隅に何かが蹲っているのに気が付く。

「――ッ!?」
 咄嗟にボウガンをそれに向けいつでも対応が出来る態勢をとる。

「――――」

 それは全く微動だにしない。

 警戒しながら近づいて行くと、暗闇に蹲っているそれの正体が徐々に明らかになっていく。

 女性特有の滑らかな線で人型の体躯、自分と左程離れていない身長いう単純な情報から、それが自分とあまり変わらない年齢の少女だという判断をした。そして同時に少女の余りにも異質な風貌に気付き、背筋が凍りつき足が止まる。

「……」その少女の外見は余にも奇異な物だった。

 雪を連想させる様かのような真っ白な髪が肩にまで伸び、この場に相応しくない、だらしなく着られた薄っぺらく短い病衣は血塗れで所々が焦げ付いている。顔は蹲っているせいで詳しくは確認出来ないが、着ている短い病衣の裾からあらわになっている長く伸びる少女の足は透き通るような白い肌で靴すら履いてはいない。更に近付くと少女が呼吸する音が微かに聞こえ、それに合わせる様に上下する身体の動きが確認出来た。

 “コイツは正常――だろうか”しばらく考察した後、頭を掻きロギアは覚悟を決め一歩ずつ少女に近付いて行く。

「おい! 生きているのなら顔を見せろ!」

 見た感じ普通では無かった為言葉が通じるか分からなかったが、数度声をかけると通じているらしく少女はのろのろと頭を上げる。しかし立っているロギアを見上げる程は顔を上げず、視線はつま先辺りに固定された。

「……誰?」

 細い喉から漏れる様に呟やかれた少女の声はかすれていて弱々しいものだった。

 少女からの応答が呻き声ではなく言葉だった事からロギアは一先ずの安堵を覚えた――が少女の上げた顔を見た瞬間、先程感じた安堵は一瞬の内に消え失せ、自分の顔から血の気が一気に引いていくのを感じた。


 ――――少女の瞳は奴等、寄生された人間と変わらない血液と同じ、濃い紅い色をしていた。そして口元には大量の血液がべっとりとこびりついている。髪の毛はほつれ病衣も血塗れで乱れており、少女の姿は既に人とは言える様なものではなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...