Ninfea

蠍ノ 丘

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暖かな光

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 二〇六七年  二月 午後一時

「……ん」

 重い瞼が開かれるとそこには見た事の無い天井と視線をずらすと椅子に座りタブレットを触る橘 和倻(たちばな かずや)の姿があった。

「んう? 目が覚めた様だな」

 気怠そうな渋い声が病室に響き、橘は立ち上がるとタブレットを椅子に置きゆっくりとこちらに脚を向ける。

「ぅ……お前は――此処は……?」

 目覚めたばかりで朦朧とする意識の中、起き上がろうとするロギアだが身体中の痛みで顔が歪む。

「おいおい、まだ横になっていろ。助かったとは言え、あれだけの大怪我だ。幾らお前の身体が普通とは違って丈夫でも流石に治る迄は暫くはかかるんじゃないのか?」

 橘にそう言われロギアは改めて自らの身体を確認する。所々チューブで繋がれ身体のあちこちに巻かれている包帯がやけに目立ちその姿は余りにも痛々しかった。

 “そうか、俺は…………アリアを――――”

 あの後自身が気を失った事が頭に過り後悔が再燃する。

「それにしても生きてて何よりだ。あの状況で此処まで五体無事でいられるとは、大した物だなと言ったところか」

 橘にそう励まされたもののロギアの中では虚無感がどうしても拭えなかった。

 辺りが静けさに包まれ、ロギアは深く息を吐く。

「……アリアは、無事か……?」

 無理矢理にでも身体を起こし質問するロギアの精神力に驚く橘だったが、直ぐに無茶して身体を動かす事自体は制止させる。

「大丈夫だ、落ち着け。お嬢ちゃんは無事だ。先程連絡もあった事だし、時期に見舞いに来ると思うぞ」

 橘の口からその言葉が聞けただけでロギアはどっと息を吐く。身体中の力が抜け枕に頭を預けた。

 ロギアが一息つくのを確認してから橘は話し始める。

「昨晩の事――――感染者の出現とтермит(サーマイト)(白蟻)と見られる連中の襲撃。中で首謀者は除くが数人の拘束は出来た。後こちらで新たに発覚したスパイも複数人は居たな……全く、セキュリティーに関してはやっぱり難があるなぁ…………」

 橘が眉間に皺を寄せ溜息をつく。

「大丈夫なのか?」

「ん――――そうだなぁ……事が起こった場所がイエローエリアだったからな。流石に大事にはなった。一応現場では収束し、一部の区画を完全閉鎖。引き続き周辺と各地を二十四時間体制で警戒をし続けているって状況だ」

 大変そうなその状況にロギアの口から声が漏れる。

「まぁ流石に休みは返上だろうねぇ……」
 ため息交じりにそう毒づくと同時に室内にノックの音が響く。

「どうやら客人の様だな、この話は後程、落ち着いた時にでもしに来るよ」

 橘はそう呟くとドアに向かって歩きドアを開き何やら話をした後、病室に客人を出迎える。

 身体の痛みが気になり顔を歪ませ、ドアの方向に顔を向ける事を止めなるべく痛みを誤魔化す様体制を変え天井に顔を向けた時――――その声が耳に届く。

「ロギ……」

 そんな一言がドアの方から聞こえ、それだけでも客人の正体は分かった。

 その姿を見た途端、抑える事が出来なかったのかロギアの顔から緊張が抜け安堵し過ぎたのか自身でも驚愕する事に瞳から涙が伝う。その相手もそんなロギアを見て同じ様に目元に涙を溜めていた。

「――良かった……」

 そんな声がロギアから漏れる。

 彼女は相変わらず白を基調とした衣装を纏い、怪我をしている様子等は全く見られない。

  日の光が差し込む病室だった為かその少女が天使にさえ見えた。天使などは見た事も無いがそう例える程少女が綺麗だった。自身の中でアリアと言う存在がどれほど大きくなっているか再認識させられる。

 橘は気をつかったのか病室には入って来ずロギアは無理矢理身体をベットから起こすとアリアは心配した様に駆けて来た。

「ロギ!」

「……アリア」

 バランスを崩しそうになるロギアを慌てて受け止めアリアは即座にロギアの身体を確認する。

「良かった」

 アリアはボソッと声に出し顔を下に向け両目を閉じ、改めてしっかりとロギアを見据える。

「あの場でアリアが離れて行くとき頭を過ったんだ……約束すら守れず俺の都合で連れ回して……アリアお前がどんな思いをしているのかって――」

「……うん」

「結局の所俺はお前に何をしてやれたのか判らない。失った親友にただただお前を重ね、何もかも俺の一方的な押し付けだったんじゃないか……そう思った時、何とかこの場を生き延びてアリアお前に謝らないといけないと思った」

「情けない……」
 ロギアの口からそんな弱気が漏れアリアは一瞬目を丸くする。

 今迄訊けなかったロギアの本心に触れ、アリアは何かを決心しロギアの頬に手を添え目を合わせ微笑んだ。

「? どうし――――」

「ロギ……」
 アリアは直ぐお互いが触れる迄距離を詰めるとロギアの言葉を遮るかの様、長い間抱きしめた。

「っ……!?」

 ロギアを包むアリアの手に力が籠る。

 身体の傷から発せられる痛覚など全く気にならなかった。

  顔を上げたアリアの頬に一筋の涙が零れた。

「もし――――あの墜落現場で貴方に会わなかったら…………あの時、貴方が選択を示してくれなかったら……優しく何処迄でも私を見ていてくれなかったら…………今の私は此処に居なかった」

「私一人じゃあ此の世界では生きていられなかったかも…………貴方は私を救い出してくれた」

 アリアはロギアからそっと離れしっかりと両目でロギアと向き合う。




「ロギ……私は貴方に出会えて良かった――――」


 風でカーテンが舞い太陽の暖かな光が二人に降り注いでいた。
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