前衛女子が打ち破る世界と陽の光

紺色ツバメ

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一章 公国の姫君は、出会う

二重奏

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 軽口を叩いてはいるものの、手を抜いて倒せる相手でもない。
 私は素早くサイファーと意思を疎通させた。
 共鳴が起こり、大剣へと姿を変えて私の右手に収まる。
 
 真紅の刀身。
 
 両手で正面に握り直すと、ぼうと炎が点った。
 
 私のクラリアは、『闇に咲く赤アリス』。煉獄の炎を宿す能力だ。

 フィリアの方も既に武器を手にして臨戦態勢に入っていた。相変わらずの変形速度だ。これだから才能のある人はうらやま――嫌い。

「――ナンバーフォー。タイミング外さないでよね」
「了解。あなたの方こそ焦らないことね」

 互いに声を掛け合った後、地を蹴って散開した。

 直後、私はグルードに真っ向勝負を挑む。
 先手必勝、一撃必殺。
 命のやりとりに手加減など要らない。
 狒々がぐっと体を起こし、大木の如き右腕を振り上げる。
 突っ込んでくる私にカウンターを喰らわせようとしているらしい。
 それでも私は進路を変えない。愛刀を体の脇にかざす。
 背後から私を追い越すようにして幾筋かの青い閃光が走った。

「やああああああ!!」

 掛け声と共に、横薙ぎに一閃。

 その体表は厚く、両断こそ出来なかったものの、渾身の一撃をまともに受けたグルードは後方に飛んで尻餅をつき、呻き声を上げた。

「――くっ、やっぱり憎たらしいほどに固いわね」

 すかさず距離を詰める。
 さっきカウンターを喰らわずに済んだのは、後方からのフィリアの援護攻撃が奴の右腕を直撃して動きを止めたからだ。氷の矢の着弾箇所から徐々に凍結範囲が広がっていく。

「グガアアアアアアアアア!」

 地面にへたりこんだそのままの体勢で、グルードが再び右拳を放ってくる。今度は後方からの援護は無かった。フィリアはさっきいた場所から姿を消している。

 私はその攻撃を、真っ向から迎え撃った。

 大上段に構えた剣を力の限り振り下ろす。視界を埋め尽くすほど大きな敵の拳を捉えた。酷い衝撃が手に伝わってくるが、怯むことなくさらに握る手に力を込めて起動コードを詠唱する。

「『眠れる獅子よ、今こそ秘めたる力を解放し、邪悪なる敵を討ち滅ぼせ』、爆ぜろ!! 『エラトス・ブラスト』!!!」

 刀身から爆発が生じ、轟音とともに自らの体も後方に吹き飛ばされた。
 煙の渦から脱し、空中で二回転してから剣を地面に突き立て、勢いを弱めて姿勢をなんとか制御する。
 がががっと地面を抉りながらかなりの距離を後ろ向きに滑った後にようやく止まり、私は剣を支えにして体勢を立て直す。

 威力を可能な限り高めた技で、制御や反動を考慮した作りになっていない。軋む体に耐えながら敵の姿を確認する。

 煙が晴れる。

 向こう側に、右腕肩から先を失ったグルードが、残った左腕を杖にして立っていた。大抵の魔物はこの一撃で沈むのだが、さすがにそれは叶わなかったらしい。

「……ほんっと憎たらしい」

 手傷を負ったグルードはまた一度咆哮を上げたかと思うと、左手で地面を殴り、その反動を推進力にこちらに吹っ飛んできた。


――まずい。

 咄嗟に大剣の腹を向けてガードの姿勢をとるが、到底耐え切れるものではない。一つの弾丸となった巨体に吹き飛ばされた私は、先の男と同じように壁に叩きつけられる。

「――か……はっ」

 肺の空気が強制的に吐き出される。酸素が失われ、さらに後頭部に加えられた衝撃で一時的に脳震盪を起こす。眩んだ視界が捉えたのは、怒りの形相で隻腕を振り上げる狒々。



――ふっ。

 思わず笑みが浮かぶ。

またおいしいところをもっていくんだから。
だいたい、詠唱に三十秒なんて掛かり過ぎなのよ。


 
「――『テンペスト・エンデ』」
 
 私の顔の直前で、振り下ろされた拳が止まる。まるで時間が止まったかのように。
 グルードの全身が、白に染まっていた。
 瞬間的に色を失った化物は、その体が足元からゆっくりと時間を掛けて鮮やかな青に染まっていく。そして青が頭頂に達したかと思うと、ぱきんという軽い音が鳴った。その巨体は砕け、がらがらと音を立てて崩れ落ちる。
 
 その向こう側に、フィリアが身の丈の倍ほどもある杖を構えて立っていた。

「おつかれさま……立てる?」
「余計なお世話よ」

 差し伸ばされた手を借りずに自力で立ち上がる。
 まだダメージが抜けきっていなかった。制御を失ったサイファーのイミュートが解け、つっかえ棒にしていた大剣が消滅した。激しく揺られたせいか平衡感覚も失っていた私は倒れかける。

「……無理しちゃダメじゃない」

 が、無様に地に伏す前にフィリアに抱きとめられた。

「……うるさい。あんたの技が時間かかりすぎなのが悪いのよ」
「そもそも一分以内にあの技を発動させることがどれだけ大変かわかっていないみたいね」
「あの化物相手に単独の肉弾戦で一分耐え抜くことが、どれだけ大変か分かっていないみたいね」
「……はあ。それだけ喋れたら大丈夫そうね。早く自分で歩いて頂戴」
「言われなくてもそうするわよ」

 言葉とは裏腹に、私はフィリアに肩を支えられたまま歩いていく。フィリアも別段私のことを振り払おうとはしなかった。

「どちらにせよ、これでまた新しいエンジニアが隊に入ってくるわね」
「そうね。どう見てもこいつは再起不能だもの」

 脇に転がった男を顎でしゃくる。幸せそうな寝顔だ。

「……こんなこと、いつまで続くのかしら」
「それなりのレベルのエンジニアだったら、もう誰でもいいんだけど」
「そんなこと言ってネネカ、あなたレベル4のエンジニアを泣かせてたじゃない。もう忘れたのかしら」
「ちょっと。あれはフィリアが悪いんでしょ? エンジニアの調律が不快だとか言って、わざと強烈なキックバックを起こしたんじゃないの」
「……覚えてないわ」

 私たちは転移の間まで連れ添って歩いて行った。

 後ろの四人と一体は放置したままに。
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