前衛女子が打ち破る世界と陽の光

紺色ツバメ

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四章 気障な道化は、導く

賽はまだ

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「ねえ、どうすればいい?」

 研究棟から自らの巣に帰ってきた私は修復してもらったサイファーを回収するより何より先に、三十四階にあるフィリアの部屋に向かった。

「質問が漠然とし過ぎているわね」

 そこで研究本部長との一部始終を話して今に至るというわけだ。私は温度感の全く違うフィリアを前にして少し苛立っていた。

「クライスのことに決まってるじゃない! 逮捕命令が出て、軍の部隊まで派遣されることになって……私にそれに参加する権利があるって言われて、どうすればいいのよ!」

 一体あいつは何をしてきたのよまったくもう!
 今この瞬間だってどこで何をしてるかも分からない。

「ネネカ、少し落ち着きなさい」
 フィリアは本当にいつもと変わらない調子だった。
「落ち着けって言われても私は――」
「そもそも、何をそんなに焦っているの?」

 何を?

 何にだろうか。

「そう、あいつ怪我を――」

 私が最期に見た姿は、怪我なんて言葉では済まされないレベルだった。あのままでは失血死で死んでしまう。そういえば確保命令は生死問わずデッドオアアライブだっただろうかなんて余計なことを考える。

「それに関しては心配要らないわ」
「別に心配なんかしてないわよ!」
「どっちなのよ……」

 私自身も、どうしたらいいのかが分からないしこの感情が何なのか分からないからフィリアに聞いてるんじゃない。もやもやして仕方がない。

「とにかく、私は会ってクライスと話がしたいの」

 強く覚えていることは、あの危機的な状況下にあってもなお、クライスは私に対してエンジニアとしての戦闘支援を行うことを欠かさなかった。最期の共鳴接続の感覚は今も身体が忘れていない。

「それで、何を聞くのかしら。それに、あなたの納得する答えが得られなかった場合はどうするの? もしかしたら嘘をつかれるかもしれないわ」
「そうね――」

 フィリアの言葉に私は少し考えてから返答した。

「何を聞くかは捕まえてから決めるわ。話さないときはボコボコにして吐かせるだけよ。それで本当に犯罪者だったならぐるぐる巻きにしてサクヤ様に引き渡して、終わり。とにかく、これ以上私の知らないところで何かが決まっていくのは嫌なの」

 私が決められることは、私が決める。
 家を出たときも、軍の制度を変えると決めたときもそうだった。

「……変わらないのね、ネネカは」
「それに、もうやるって言ってあるし」

 ここで初めてフィリアが驚いた表情をした。何がかは分からないが、何か勝った気がした。

「何を不思議そうな顔をしているの? 権利があると言われて、掴まない私じゃないでしょう?」

 何より、誰かに先を越されるわけにもいかない。

「……ネネカは私が思っているよりネネカだったわ」
「よく分からないんだけど」

 馬鹿にされている気もするけれどフィリアが満足そうな優しそうな笑みを浮かべているからそれに関しては気にしないことにした。

「ところで、フィリア」
 例の座卓に四つん這いで乗り上がって、向かい側に澄まして座る魔女のほっぺたを両側からつまんでやる。
「あんた何か知ってるでしょ! わざわざ誘導尋問みたいなことしてぇ! このっ!」

 ぎゅー、ふにふに。

「ニェニェヒャ、いふぁい、やえふぇ」

 ある程度つまんで、気が済んだところで解放してやる。
 むっとした目でこちらを睨んできたが、すぐに諦めたような表情になった。

「……こうでもしないとネネカは素直にならないじゃないの」

 ボソリと小さな声でフィリアが呟いたが、それは聞こえないフリをした。ややあって、彼女は「はあ」と一つわざとらしいため息をついて口を開いた。

「クライスが指名手配になったそうだけど、それは何の罪なのかしら?」
「……知らないけど。フィリアは知ってるの?」
「問題は、彼が何をしたかではないの。彼の確保自体が目的なのよ」

 こんな時までフィリアはフィリアだった。

「何? 尋問でもしたいの?」
 生け捕りの目的なんてそう多くはない。あとは人質としての価値がある場合くらいだ。
「それもあるけど、存在そのものの話をしているの」

 ここで言葉を区切り、じっと私の目を見てくる。長い睫毛に、青い綺麗な二つの瞳で。

 フィリアがこういう話し方をする時は、私に何かを気付かせたい時だ。こうなったら、フィリアからは絶対に話してくれない。

 私はクライスについて今までフィリアと話した内容を思い出していく。

 そう、最初、フィリアはクライスがスパイではないかという可能性を示唆して、それを否定した。
 今思えばその根拠としては薄弱なものだったが、フィリアはきっぱりと否定した。つまり、行動や素性などに不審な点はあるが、グレイン大陸政府の諜報員ではない、と断言した。

 確かにそうだ。

 事実今彼はグレイン大陸政府自体から追われている。それほどまでに大々的に事を起こしてしまえば、クライスに何かあると公言しているようなもの――


「――あれ?」

 ちょっと待って。

「もし彼が超の付く危険人物なら、今ここにいる兵士全体に司令が下るはずじゃないの?」

 忘れがちだが、そもそもここは軍だ。
 戦力という点では申し分ない。

 それなのに、大陸から指名手配が出るほどの一大事なのに、静かすぎる。

 大体、派遣されるのだって、二個連隊だという話だ。国家レベルの犯罪者相手に、それだけ……?
 フィリアは次の私の言葉を待っているようであった。

「もしかして、『まだ何も起こってない』のじゃないかしら」

 辿り着いた答えに、目の前の少女は満足そうに頷いた。ほっぺたがちょっとだけ赤い。さっきつねったせいだろう。ごめんなさい。
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