兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari

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理光の手が目の前で揺れ、私はようやく記憶の淵から引き戻された。
――彼に「彼女ができた」と告げれば、この想いも断ち切れるはずだった。
だが、それは甘い幻想にすぎなかった。
その日こそ口を利かなかったものの、翌日からは何事もなかったように振る舞う理光。
いや、それどころか、さらに激しく私の世界に入り込んでくるようになった。
机の上のスマホが鳴り響いた瞬間、彼は立ち上がり、私の手を取って引きずり出した。
「……理光?」
指先を絡め、十指を固く結び合わせたまま、校門前でタクシーを捕まえ、市街地の繁華街へ。
「どこに行くんだ?」
人混みの中、男同士で手を繋ぐ視線は否応なく注がれる。
頬を赤らめ、私は彼の袖を引いた。
理光の目は昏く澱み、指さしたのは商業街の一階ホール。
巨大なマスコットの下、無数のリボンが舞う中で、二人の少女が唇を重ねていた。
拍手と歓声が響き渡る。
思わず目を凝らす。そこにいたのは――愛子と、あの日のもう一人の女の子。
意味を図りかねる間に、背後から腕を回され、柵へと押し付けられた。
顎を片手で支えられ、視線を下へ固定される。耳元に落ちる声は、悪魔の囁きのようだった。
「……愛子はお前なんか好きじゃない。女が好きなんだ。
 俺は前に見たんだ。あの子と喧嘩して、それでお前と付き合った。利用されてんだよ。
 もっとよく見ろ。あいつの正体を。」
――え?
理光は、愛子に騙されていると思っている……?
思わず口元を押さえ、こらえきれず噴き出した。
やがて抑えが効かなくなり、声をあげて笑った。
得意げだった理光の表情が歪み、ついには私の手首を強くつかんで、苛立ちを爆発させた。
「なんで信じねぇんだ!
 ほら、あいつら下でキスしてんだろ!
 ……そんなにあの女が好きなのかよ!」
にじむ悔しさと哀しみが声に混じる。
だが私は、余計に可笑しくなった。
「はは……理光、お前、頭おかしいんじゃないの?」
ようやく笑いを収め、階下へ向かおうと背を向けた。
愛子を祝福しに行くつもりで。
だが数歩も行かぬうちに、理光は突風のように私を引き寄せ、全速力で駆け出した。
気づけば愛子の目の前。
息を整える間もなく、腰を抱かれ、唇を奪われた。
つい先ほど散ったばかりの人だかりが、再び押し寄せ、歓声と拍手が飛ぶ。
「理光! この犬畜生! やっぱり光希兄を狙ってたんだな!」
赤く濡れた私の唇を解き、理光は愛子に冷ややかな声を投げつける。
「悪女。二度と光希を騙そうなんて思うな。俺たちはもう付き合ってる。」
――愛子とその隣の女の子。
それぞれが私と理光に腕を回し、視線を交わす。
思わず、同時に苦笑い。
羞恥で胸が焼けつくばかりだった。
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