目覚めたら、婚約破棄をされた公爵令嬢になっていた

９ ケネス先生の指導

　「……で、どうして君達二人は一向に上達しないんだい？」

　頭を抱えて言ったのは、ケネスだった。かれこれ三時間程、空き教室で教えてくれているのにも関わらず、ローサとルーカスは全く魔の力を使う事が出来なかった。

「ローサ、ルーカス。もっとイメージを膨らませるんだ。心を豊かにするんだよ」

　ケネス指導の中、四人は仲良くなった。四人とは、先生のケネスと生徒のローサとルーカス、見学のエミールだ。

　二人のポンコツぶりにエミールも頭を抱えていた。

「ちゃんとイメージしているわ。水だって火だって、想像の中ではしっかり出せているのよ。ねぇ、ルーカス？」

　ローサの問いかけにルーカスは、首を立てに振った。

　腕を組んで悩み始めたケネスは、少し考えた後にため息をついた。

「はぁ……。空飛ぶ人間くらい有りえない事を想像が出来るイメージ力を身につけられるといいんだけど……」

「何を言っているのよ。人間は空を飛べるわよ。火や水は出せないけれど」

「ローサったら何を言っているの？　人間は、魔力石を使えば火や水を出せるけれど、空は飛べないわよ」

　困った顔をしてローサに話し掛けたエミールは、肩をすくめた。

「そうだね。今の所、宙に浮く力を持った魔力石は発見されていないね」

　エミールとケネスは顔を見合わせて確認し合う。

「魔力石は必要無いわ。飛行機に乗るのよ！」

　ローサは得意げな顔をして、近くにあった紙で紙飛行機を折って見せた。

「これが飛行機よ！　こうやって飛ばすの」

　ローサが作った紙飛行機は教室の壁に当たるまで飛んでいた。

「人間は飛行機に乗れば空を飛べるのよ」

「えっと……良く飛ぶ紙ね。上手に折れているわ。けれど、その紙の上には人は乗れなさそうね」

「違う違う。これは紙の飛行機よ。人が乗るのは、もっと大きいジャンボジェット機で、ブォー、ビューンって!」

　エミールとルーカスは、残念な子を見る目でローサを見ていた。

「すごいねローサ！　本当に良く飛ぶ紙だね。少しの力でこんなに遠くまで飛んだよ」

　ケネスは紙飛行機を飛ばして興奮をしていた。羽の部分を観察したりして、夢中になっている。

「二人共何よその目は！　人類は月にだって行くんだから。私だって火の一つや二つ……ええい！」

　怒りに任せて魔力石を握ったローサは、心の中で「火よ出よ」と、唱えた。すると、小さな火がローサの前に浮かんできた。

「えっ、えっ。私出来たわ」

「ローサやったじゃない！」

「ぉお！」

「良かったね。やっとだね」

「ケネスありがとう！」

「あとは、俺だけか……」

　喜んだ後にすぐに落ち込んだルーカス。

「大丈夫よ。良く考えたら。空を飛ぶより簡単な事かもしれないわ」

「……良く考えたら簡単……。海に長時間潜るより簡単か？」

「ええ、もちろん！　人類はいつか海底にも行けるのよ」

　エミールは、ローサがさっきから月とか訳の分からない事を言っていると思っていたが、最近のローサは変なので気にしない事にした。

「海底……なんか、出来そうな気がしてきたな」

　集中をしたルーカス。
　三人は静かにルーカスを見守った。
　すると、ルーカスの手のひらの上に、小さな水の球体が現れた。

　目をぱちくりさせるルーカス。

「ルーカスやったな」

「すごいじゃないルーカス！」

「ルーカスくんおめでとう」

「あ、ありがとう」

　ケネス先生の熱い指導のおかげで、二人は魔の力を使う事が出来るようになった。
　後日、プラットリー先生は大喜びで二人の報告を聞いていた。

　ケネスは紙飛行機に興味を持ち、ローサに作り方を聞くと、紙飛行機作りに夢中になった。