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六、猪隈殿
(三十七)
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芳野は、そう心に決めると、堰を切った抑えきれない劣情に突き動かされて、すぐに衾を払いのけて、障子を開けると部屋の外へ出た。しかし、部屋の中は大殿油で淡く照らされていたのだが、部屋の外に出ると照らすものがなく真っ暗で、自分の部屋から漏れる僅かな光で微かに影が見えている感じであった。芳野は微かな影を頼りにあきおぎの局を目指し、静かに障子を開けて、そろりと中に潜り込んだ。
あきおぎは。部屋の奥の方に寝ていた。
大きめの衾に小柄な少女の体躯が覆われて、すやすやと眠っている女の子が目についた。子供が一人で寝ているように見えた。これを見て、芳野の劣情は冷や水を浴びせられたように、一瞬、萎えた。しかし、ここまで来た以上、引返すのも惜しく、そのまま、近づくことにした。
衾の縁に、いよいよ、手が掛かるか、掛からないかのタイミングで、あきおぎは目を覚まして、「えっ…」と小さな声が漏れた。自分に迫る大きな人影に気づいて、余りの驚きと恐怖で固まったようだった。そして、周囲をきょろきょろと見回して、現状を理解しようと必死のようだったが、芳野が「あきおぎさん。」と呼びかけると、相手が誰か認識したようで、途端に、衾の中に顔を隠した。衾の中に隠れるまでの間に垣間見たあきおぎの顔は、白粉が落ちていて、しかし、若さからか、白粉が落ちても白くて、しかも溌溂とした素肌に、眉のない切れ長の艶やかな目が印象的だった。芳野は、あきおぎの素顔を目撃して、この女の子を急激に欲しくなった。
あきおぎが衾の中に隠れてしまって、次の会話をしかける隙を失って間ができると、部屋の中に漂う空薫をした残り香が芳野の鼻を刺激した。沈香に丁子の香りがまざったような落ち着いていて少し甘さも垣間見せる芳香だったが、芳野にとっては線香を焚いた時にしか嗅がない匂いだったので、仏壇の前や墓前にいるような感覚に陥りそうだった。しかし、この芳香は、芳野の昂った感情を穏和に鎮めたものの、それが劣情を冷静に落ち着かせて、返って強固にしてしまった。もう、芳野の頭にはあきおぎの『女』への欲情しかなかった。
あきおぎは。部屋の奥の方に寝ていた。
大きめの衾に小柄な少女の体躯が覆われて、すやすやと眠っている女の子が目についた。子供が一人で寝ているように見えた。これを見て、芳野の劣情は冷や水を浴びせられたように、一瞬、萎えた。しかし、ここまで来た以上、引返すのも惜しく、そのまま、近づくことにした。
衾の縁に、いよいよ、手が掛かるか、掛からないかのタイミングで、あきおぎは目を覚まして、「えっ…」と小さな声が漏れた。自分に迫る大きな人影に気づいて、余りの驚きと恐怖で固まったようだった。そして、周囲をきょろきょろと見回して、現状を理解しようと必死のようだったが、芳野が「あきおぎさん。」と呼びかけると、相手が誰か認識したようで、途端に、衾の中に顔を隠した。衾の中に隠れるまでの間に垣間見たあきおぎの顔は、白粉が落ちていて、しかし、若さからか、白粉が落ちても白くて、しかも溌溂とした素肌に、眉のない切れ長の艶やかな目が印象的だった。芳野は、あきおぎの素顔を目撃して、この女の子を急激に欲しくなった。
あきおぎが衾の中に隠れてしまって、次の会話をしかける隙を失って間ができると、部屋の中に漂う空薫をした残り香が芳野の鼻を刺激した。沈香に丁子の香りがまざったような落ち着いていて少し甘さも垣間見せる芳香だったが、芳野にとっては線香を焚いた時にしか嗅がない匂いだったので、仏壇の前や墓前にいるような感覚に陥りそうだった。しかし、この芳香は、芳野の昂った感情を穏和に鎮めたものの、それが劣情を冷静に落ち着かせて、返って強固にしてしまった。もう、芳野の頭にはあきおぎの『女』への欲情しかなかった。
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