ねぇ、門番さん。

雨降チコ

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はじめまして門番さん。さよなら人間さん。

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  私にはちっちゃい頃からが見えていた。


私の名前は赤坂 日和あかさか ひより
今は専門1年生で、毎日自転車で学校に通っている。

学校の友達にはひよは変わってるね、だとかちょっと変だよねっていつも言われてしまうがそれは気にならない。
他の子と変わってるのは本当のことで、私には見えているのだ。門番さんが。

門番さんはいつも家の前に立っている。家というものならば玄関前にでも門の前にでも。学校にだっている。

ただ、その家を守っているのかと言われたらそうでは無いらしい。

門番さんが見えていたのは物心着いた時からだった。人がいるから手を振ったという幼い頃の私を見て母親は驚いたという。なぜならそこには誰もおらず、なぜこの子は家に手を振っているのだろうとすごく疑問に思っていたそうだ。

基本的に門番さんは人が来たらどうぞ、と言ってその場を通すというのが仕事らしい。その人の友達でも、地域の回覧板を回しに来たご近所さんでも、宗教の勧誘でも、玄関を通ろうとする人を通すというのが門番さんである。

それがたとえ泥棒や家主に暴力を振るう何かであっても。

ただ、門番さんは通すだけでドアを開けることはしない。ドアを開けるのは家主だからである。通され家主に拒絶されれば門番さんはスムーズに敷地の外に出せるというのだ。

しかし、無理やりドアを開けられたとすれば。それは門番さんは干渉できないらしい。


道を歩いていると傷だらけの門番さんであったり、よく分からない液体で汚れている門番さんであったり、酷い時にはナイフで刺されていたり何かで殴られていたりしている門番さんがいた。

幼い頃はそれら全てに反応してしまったのだ。
私が救われていたのは、理解ある両親だったこと。見える信じられてはいないが、私の行動に嘘がないことを知っていた。

一番記憶にあるのが中学1年生の時。
たまたま帰り道に母と出会い買い物ををして家に着く時だった。
現在進行形で、どんどん傷が増えていく門番さんが居た。私の隣の家の門番さんだった。

その時の私は思わず門番さんに駆け寄ってしまった。
大丈夫ですか、と、言う前に門番さんは、か細い声でどうぞ、と言うのであった。
急いでお母さんに助けを求めようとしていても、母はまたこの子は何かを見ているのねぇ、と気にならないようで「早く行くわよ」と声をかけてきた。

それを振り切り、私はお隣さんの玄関を無理やり開けた。すると鍵はかかっておらず、家の中ではぐちゃぐちゃでら倒れた棚や、散乱している家具、割れている食器、それらが目に入った。

母は急いで私を引き戻すと悟られないようにドアを静かに閉め、慌てて警察に連絡していた。

響き渡る男の怒号と、やめて、ごめんなさいと嘆く女の声が今でも忘れられない。

何もされてないはずの門番さんがなぜ傷が増えているのか、その頃の私には分からなかった。

しばらくしたら警察が来て、家の中に入っていったが、男は居なくなっていて、ボロボロになった女の人が居ただけだったらしい
警察の話だと、裏口から逃げたのだろうということだった。女の人の証言から暴行していたのはストーカーであったということが分かった。

その頃から母はわたしがこの門番さん傷だらけと言うと決まって私の手を引いて逃げるように歩いていくのだ。

門番さんはなぜ傷がつくのだろうか。
ずっと気になって仕方がなかった。門番さんに話が聞けたら1番楽なのに、ふと思いついて門番さんに話しかけることにした。

不思議なことに私の家の門番さんはいなかったから、話しかけたのは前の家の門番さんだった。


「ねぇ門番さん。」
【どうぞ】
「なぜあなた達は傷つくの?」
【どうぞ】
「なんでみんな通してしまうの?」
【どうぞ】


どうぞしか返って来なかった。ねぇねぇ、とずっと話しかけていたら前の家の人が出てきてしまった

「何をしとるんじゃ人の家の前で」

出てきたのはおじいさんだった。
この人は前田さんといって生まれた時からこの家にいるのだという。今はもう80を超えたと言っていた。

「門番さんに話しかけていたの。門番さんがなんで傷つくのかを知りたかったから話しかけていたの。」

質問に答えた私を前田さんは驚いた様子で「そうか」と小さく呟いた。
そしてちょっと待っておれと一声かけておうちの奥に入っていってしまった。

1冊の古い本を持って前田さんは戻ってきた。

「お嬢ちゃんの気になることはここに書いてあるだろう」

中を読むと門番さんについて書かれた本だった。
夢中で本を読んでいる私を見て前田さんは悲しそうな顔をしていたのを、横目で一瞬見えた気がした。

「今日はありがとうございました」

「いつでもおいで。」

本を読み終え前田さんの家を出た時、前田さんは優しい顔をして見送ってくれた。

本の中に、門番の代償として書かれていた項目に、門番は誰でも招き入れてしまう引き換えに、家主の痛みを共有する、と書かれていた。

…そういうことなのだろう。

門番になるためには、自死を選ばなければならないようでお隣さんは数年前に旦那さんが自殺されていたらしいというのが後でわかった。

門番さんは心優しいのだ。本を読んでわかった事だった。前田さんの家になぜそれがあるのかは前田さんも分からないらしいが、私が前の家に行ったのは偶然ではなかったのだろう。

それを知ってから私は門番さんに関わることを辞めた。

干渉するのは門番さんのためにならないだろう。私の話を聞いた母はこう言った。門番さんは自分から、大切な人との痛みを共有したくてしているのだから、それを邪魔してはいけないんじゃないのか。

それは、人と違う行動をする私をやめさせたかった誘い文句だったのだろう。分かってて私はそうだね、と笑って答えた。

それから数年たち私は専門1年生になった。
ただいまといつも通り帰ってきたある日のこと、いつも通り母のおかえりという声が聞こえなかった。
代わりに聞いたことも無い男の声が聞こえた。

「逃げ…て、ね?ひより、ほ…ら」

苦しげに呻く母親はそれでも私のことを思ってなのか、強がって笑っていた。
母の上に座り札束を数えているこの男は私に声をかけてきた。

「おまえひよりか、おっきくなったなぁ」

だれ、これは。ねぇおかあさん
なんでお母さんの上に座っているの。

「ひよの顔も見れたし金も貰ったし俺行くわ、またな」

気持ち悪い顔でにやけた表情を隠しもせず、私の頭に手を置いてどこかに行った。

話を母から聞こうと思ったら、母のお腹から血が出ていた。

「きゅっ、、救急車っ!お母さん!!」
「まってひより」

あの人に殺される前に、と母は私に語り掛ける

あれは悪いもの。あなたと血は繋がっていても、悪い人よ。私はもう手遅れだけどひよは逃げるの。いいわね?この家に居ては行けない。

そう言って近くに落ちていた血だらけのナイフで自分の胸元を刺して母親は死んで行った。

急いで警察を呼んだ。母親が殺されたのだと淡々と言った。救われたのはあいつが、私の父親だと、血が繋がっていると母が言ったこと。そして、あいつに犯罪歴があったこと。

すぐにあいつは捕まった。他にもいろいろしていたみたいで、もう刑務所からは出て来れないだろうと警察官の人が話していた。私はこれからこの家で1人で暮らして行かなければいけないのか。

ふと、前田さんのことを思い出した。

いつの日か私に門番さんのことを教えてくれた前田さん。今どうしているだろうかと気になり声をかけることにした。
前の家に行き、玄関のインターホンを押す。

すると、全く知らない青年が出てきた。

「あの、前田のおじいさんに用があって…」
「あぁ、祖父ならこの間他界しました。」

前田さんは亡くなっていた。
私の身近にいた人がどんどん居なくなってしまう。
お孫さんの話によると前田さんは病死だったらしい。

ならば門番さんにならずに天国へ行けたのだろうか。
少しほっとしてしまった。
家に戻ると家の前に人影があった。

我が家に門番さんが居たのだ。誰かは直ぐに検討がついた。だけど、話しかけてもどうぞしか返って来ないのはわかっている。話しかけても返されないなんて虚しいことをするつもりも無い。

それから、決まって家に帰る時は門番さんにただいまと言っている。門番さんはどうぞ、と言うだけでおかえり、は言ってくれない。

私が専門学校を卒業する頃には家に入る前にただいまを言うのが日課になった。

ある休日の日、家でくつろいでいると玄関がガチャりと音を立てて開いた。玄関に急いでいくとあいつがいた。

「なん、、で、刑務所にいたはずじゃ…」
「それはほら、金でどうにかなるだろう?パパが帰ってきたのにおかえりも何も無いのか、ああ?」

そこから時間が経つのはあっという間だった。いきなり髪を捕まれ引きずられ殴られて犯されて。
もうきつかった。
あいつがトイレに行った隙に警察に電話をした。話す暇もなく父親が戻ってきた、通話は繋げておくので喋らずに、声をかけずに聞いていて欲しい。と言って携帯をバレないように隠しておいた。

そこから同じように殴られて犯されて、ご飯を食べさせられてまた殴られて、と繰り返されているうちに警察が来た。良かったこれで助かったと思い家を出た時門番さんは、母は私と同じようにボロボロだった。

そうだ、そうだった。家主の苦しみは門番さんに共有されるのに、抵抗するのを諦めていた。

涙が止まらなかった。そうか、門番さんはあいつを入れてしまったのだ。これ以上門番さんを苦しめたくないのに。ねぇ、門番さん。ごめんなさい門番さん。
警察から事情聴取が終わったあと、家にひとりでいると涙が止まらずこぼれおちた。

自死を選べば、門番になれる。門番になれば母とまた一緒に居られるのではないかと、私は考えた。

母が残してくれていたお金で専門学校も無事に卒業できた。これから働いて母に見ていてもらおうと思っていた。そうじゃない。

私が本当に望んでいたのは、あの優しい母と一緒に居たい。ただそれだけだった。
これからの、将来に期待して、なんて心にもないことを思っていた振りをしていた。

包丁を手に取り母と同じように胸元に包丁を刺す。

これで母と一緒に居られる。


「待っててねお母さん」









私の名前は前田 凪絆まえだ なずな
私はちょっと人と変わってることがあって、家の前に人影が見える。その人は門番さんと言うらしい。

ひいおじいちゃんの家に門番さんについて書かれている古い本があってそれを子供の頃から読んでもらうのが大好きだった。
私がちっちゃい頃、ひいおじいちゃんが同じように門番が見える女の子が後ろのお家に住んでいたんだよって教えてくれた。

ひいおじいちゃんはもう亡くなってしまったしもう1人で本を読めるくらいには成長した。
ひいおじいちゃんちの遺品整理で出てきた門番さんの本を私は貰った。1人で読むのはそれが初めてだった。


ひいおじいちゃんちの裏の家には門番さんが1立っている。


そこに寄ってみると門番さんはずっと泣いていた

「どうしたんですか門番さん」
【どうぞ】
「なんであなたは泣いてるの」
【どうぞ】
「ひとりぼっちで悲しいから泣いているの?」
【どうぞ】

自殺しちゃった人なんだっていうのは理解している。
悲しいのかな。どうぞしか言ってくれないから私わかんないや…

またくるね、門番さん!そう言ってわたしはひいおじいちゃんちに帰った。

風の音でよく聞こえなかったが、門番さんはさよならって言っていたような気がした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ここまでお読みいただきありがとうございました。
ホラーにしておいて全然ホラーじゃないじゃん、は私が1番思っていることと思います。

【ネタバレ注意】

ということで補足としては

まずは、母親は1度は刺されたもののその時点ではまだ助かっていた、という点です。
迷わずに日和が救急車を呼んでいれば助かっていた命ではあったが、母はあいつに傷を付けられ殺されかけるくらいなら、と自分で最期を決めました。

そして赤崎家の門番が1人だったという点について

門番は家主の痛みが共有されます。
それは、精神面でも物理面でも。
家主が悲しければ門番も悲しいし家主が何か怪我をすれば同じように門番も怪我をします。

なら、家主が自殺を図ったら。
門番も同じように自殺を図り結局は門番は家に1人ずつという構図ができます。
2人1緒にさせようと最初は思って書いていましたが終わって気づいたらこうなってました。

自殺した時点で日和は人間に対しての希望がなくなり自分が人間であることを恥じていました。

そして門番となっていた母はただいまと言ってくれる娘をいつも嬉しく思っていました。

凪絆に関しては本当にお前誰やねんの気持ちで書いていました。年齢的には幼い女の子だと思っていて下さい。祖父は死にましたの青年の娘ちゃんです。

時系列もあやふやな突発的なショートでしたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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