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普通の子 13(完)
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とても小さな大会に参加した。海が丘高校のある町で行っているマラソン大会。老若男女問わず、誰もが楽しそうに走っている、そんな大会。
僕はそこで優勝して、地元の新聞に小さな記事になった。
その一週間後、学校に取材がきた。中学時代に優勝した時、選抜に抜擢された時、取材してくれた記者の人だった。僕の走りが好きなんだ、と褒めてくれた記者の人。彼は海が丘高校まで来て、僕を見てホッとした表情を見せた。
「心配していたんだよ。でも、また走れる様になって良かった」
記者の人は僕の事、山野谷くんの事、大体の事は知っていたそう。だから、全て話した。僕が話す事を熱心に聞いてくれ、時に怒り、時に泣き、記者の人は帰って行った。
僕の話が記事になったのは、それから一か月後。紙媒体には出来なかったそうだけど、出版社のホームページに掲載された。僕の時系列のめちゃくちゃな話がすっきりまとまっていて、とても読みやすい記事だった。
『友と共に走る』と言うタイトルだった。
その記事が世に出て一か月後、山野谷くんのご両親から「良い記事だった。今でも友達でいてくれてありがとう」と手紙を貰った。ご両親は学校や加害生徒を相手取って裁判をしている最中だった。
ねぇ、知っている?先生。
いじめはじわりじわりと広がって、加害者がどんどん増えていくんだよ。皆にジリジリと追い込まれて行くんだよ。味方がいなくて、とても苦しい。誰も助けてくれないんだよ、学校の中で、誰一人として。味方がいないんだ。叫んでも、助けてくれない。終わりが見えないんだよ。
ねぇ、知っている?先生。
先生が山野谷くんをいじめたように、今、世間が先生を叩いているよ。教師の資格がないって、お前が山野谷くんを自殺に追い込んだんだって。先生たちに投げかけられた暴言は、いじめと一緒で証拠がないね。
やっと山野谷くんに味方が出来たよ。
学校は上田先生を首にしたね。ねぇ、先生、何を怒っているの?どうして急に具合が悪くなっちゃうの?今回の事で私は傷付いています、って何?
学校は理事長と上田校長を首にした。新しい理事長は30代の孫。記者会見で山野谷くんを初めとし、過去、現在いじめの被害にあった生徒たちに謝罪した。今現在学校内で起こっているいじめについては全職員で真摯に対応する、必要であれば加害生徒には停学や退学の措置を取り、被害生徒を一番に守っていく、と誓った。もしもいじめを隠蔽しようとする職員がいれば、停職の措置も取る。
これから1人1人、理事長とその当時の担任とで被害にあった生徒と保護者の元に謝罪に回るそう。その上でいじめを黙認していた教師は今後一切担任をさせる事なく、何度でもいじめの対応を改善させる話し合いをする事を約束していた。「最悪、全ての教師がいなくなったとしても私はこの学校を1から立て直す」と新しい理事長は泣き、頭を下げた。それは今までの理事長や校長の会見より、誠意がある謝罪会見だった。
山野谷くんのご両親が起こした裁判についても、誠意ある対応をすると言った。今まで前理事長と上田校長が罪を認めず、逆切れし、なかなか進まなかったそう。
ねぇ、先生。先生が教師を辞めても、山野谷くんは返って来ないよ。
ねぇ、上田先生、山野谷くんを返してください。
前理事長と上田校長が首になった事で、学校がいじめを認め謝罪した事で、加害生徒とその保護者にも非難の目が再度向けられた様に思う。経済的には恵まれている家庭の子たちだから、他県に越したり海外に留学していたりしていった子もいたらしい。
加害生徒もその保護者も顔はもちろん名前も出なかったが、話は回る。同じ中学に居た子が、自分が傍観者だった子さえ加害生徒がどう山野谷くんをいじめたのか語り出す。私立と言っても他県から通ってくる子は少ないから、話は人から人へ回り出す。やがて学校で行った過去のいじめまで及び、様々な加害者たちがあぶり出されていった。テレビや新聞に掲載されなくても、噂は人から人へ。今はネットの隅っこにさえ、彼らのした事があぶり出されている。非難の目を向けられ、陰口を叩かれ、いじめをした事の報いを今受けている。
噂では推薦で決まっていた大学の内定を消されたり、彼女に振られたり、友達をなくしたり、喧嘩騒ぎを起こして補導された人もいた。中には引きこもってしまった人もいるそう。お互いがお互いをけなし合っている、とも聞いた。『俺のせいじゃない、アイツが最初にやったんだ。皆だっていじめてた』SNSで、現実でも、お互いを罵り合っている。
ねぇ、加害者が反省しても、泣いても、後悔しても、山野谷くんは返って来ない。
ねぇ、誰か僕の大事な友達を返してください。
僕は毎日泣いている、山野谷くんがこの世を去ってから、ずっと。
これからもずっと。きっとそれは変わらない。
普通の子(完)
僕はそこで優勝して、地元の新聞に小さな記事になった。
その一週間後、学校に取材がきた。中学時代に優勝した時、選抜に抜擢された時、取材してくれた記者の人だった。僕の走りが好きなんだ、と褒めてくれた記者の人。彼は海が丘高校まで来て、僕を見てホッとした表情を見せた。
「心配していたんだよ。でも、また走れる様になって良かった」
記者の人は僕の事、山野谷くんの事、大体の事は知っていたそう。だから、全て話した。僕が話す事を熱心に聞いてくれ、時に怒り、時に泣き、記者の人は帰って行った。
僕の話が記事になったのは、それから一か月後。紙媒体には出来なかったそうだけど、出版社のホームページに掲載された。僕の時系列のめちゃくちゃな話がすっきりまとまっていて、とても読みやすい記事だった。
『友と共に走る』と言うタイトルだった。
その記事が世に出て一か月後、山野谷くんのご両親から「良い記事だった。今でも友達でいてくれてありがとう」と手紙を貰った。ご両親は学校や加害生徒を相手取って裁判をしている最中だった。
ねぇ、知っている?先生。
いじめはじわりじわりと広がって、加害者がどんどん増えていくんだよ。皆にジリジリと追い込まれて行くんだよ。味方がいなくて、とても苦しい。誰も助けてくれないんだよ、学校の中で、誰一人として。味方がいないんだ。叫んでも、助けてくれない。終わりが見えないんだよ。
ねぇ、知っている?先生。
先生が山野谷くんをいじめたように、今、世間が先生を叩いているよ。教師の資格がないって、お前が山野谷くんを自殺に追い込んだんだって。先生たちに投げかけられた暴言は、いじめと一緒で証拠がないね。
やっと山野谷くんに味方が出来たよ。
学校は上田先生を首にしたね。ねぇ、先生、何を怒っているの?どうして急に具合が悪くなっちゃうの?今回の事で私は傷付いています、って何?
学校は理事長と上田校長を首にした。新しい理事長は30代の孫。記者会見で山野谷くんを初めとし、過去、現在いじめの被害にあった生徒たちに謝罪した。今現在学校内で起こっているいじめについては全職員で真摯に対応する、必要であれば加害生徒には停学や退学の措置を取り、被害生徒を一番に守っていく、と誓った。もしもいじめを隠蔽しようとする職員がいれば、停職の措置も取る。
これから1人1人、理事長とその当時の担任とで被害にあった生徒と保護者の元に謝罪に回るそう。その上でいじめを黙認していた教師は今後一切担任をさせる事なく、何度でもいじめの対応を改善させる話し合いをする事を約束していた。「最悪、全ての教師がいなくなったとしても私はこの学校を1から立て直す」と新しい理事長は泣き、頭を下げた。それは今までの理事長や校長の会見より、誠意がある謝罪会見だった。
山野谷くんのご両親が起こした裁判についても、誠意ある対応をすると言った。今まで前理事長と上田校長が罪を認めず、逆切れし、なかなか進まなかったそう。
ねぇ、先生。先生が教師を辞めても、山野谷くんは返って来ないよ。
ねぇ、上田先生、山野谷くんを返してください。
前理事長と上田校長が首になった事で、学校がいじめを認め謝罪した事で、加害生徒とその保護者にも非難の目が再度向けられた様に思う。経済的には恵まれている家庭の子たちだから、他県に越したり海外に留学していたりしていった子もいたらしい。
加害生徒もその保護者も顔はもちろん名前も出なかったが、話は回る。同じ中学に居た子が、自分が傍観者だった子さえ加害生徒がどう山野谷くんをいじめたのか語り出す。私立と言っても他県から通ってくる子は少ないから、話は人から人へ回り出す。やがて学校で行った過去のいじめまで及び、様々な加害者たちがあぶり出されていった。テレビや新聞に掲載されなくても、噂は人から人へ。今はネットの隅っこにさえ、彼らのした事があぶり出されている。非難の目を向けられ、陰口を叩かれ、いじめをした事の報いを今受けている。
噂では推薦で決まっていた大学の内定を消されたり、彼女に振られたり、友達をなくしたり、喧嘩騒ぎを起こして補導された人もいた。中には引きこもってしまった人もいるそう。お互いがお互いをけなし合っている、とも聞いた。『俺のせいじゃない、アイツが最初にやったんだ。皆だっていじめてた』SNSで、現実でも、お互いを罵り合っている。
ねぇ、加害者が反省しても、泣いても、後悔しても、山野谷くんは返って来ない。
ねぇ、誰か僕の大事な友達を返してください。
僕は毎日泣いている、山野谷くんがこの世を去ってから、ずっと。
これからもずっと。きっとそれは変わらない。
普通の子(完)
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