極東奪還闘争

又吉秋香

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第5話 大航海時代の到来。棄てられた農地が宝の山に

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ここウクライナには以前、20以上の国々の企業が、その肥沃な農地を求めて殺到していた。国名を挙げると、アメリカ、イギリス、ドイツ、オランダ、デンマーク、スウェーデン、セルビア、イスラエル、インドなど、欧米の企業が目立っていたのが特徴だ。

外国企業の進出が急激に増加したのが、二〇〇七年から〇八年にかけての世界食料危機のタイミングで、一大食料生産地であるオーストラリアの大干魃やトウモロコシなど穀物を原料としたバイオエタノール生産の拡大も背景に、穀物の市場価格が高騰した。

さらに世界中の投機マネーが流れ込んだことで価格高騰に拍車がかかり、食料が手に入らなくなった国や地域では暴動や政権転覆にまで発展したのだ。

この価格高騰の背景にあったのは、世界の食料が近い将来足りなくなるのではないかという危機感だろう。

国連による人口予測のうち、今後の人口増加を中程度と仮定した中位推計によると、世界の人口は二〇五〇年には九十億人を超える試算となった一方で、バイオエタノールの生産増によって食料にまわる穀物が減少するという懸念が生まれたのだ。

さらに、地球温暖化や土壌汚染、水不足の拡大で食料の生産自体が減少するという予測もあり、食料安保も安定的ではない今日では、地球上に残された農地を早急に獲得し、それを大規模に発展させ、食料を生産する源を押さえたものが利益を得る。

そう判断した欧米の企業が、世界の農地を獲得するためにランドラッシュを繰り広げているのだ。

しかし、本当に食料が足りなくなるなんてことがあるのだろうか。一次生産の現場で経営者として活動してきた立場からすると将来の食料需給を予測することは、あまりにも多くの要因がからみあっていて容易ではないと思う。

こうした議論には常に反対の立場をとる意見もあって、客観的な論拠やデータをあげて、当分世界の食料が足りなくなることはないとの主張も多く繰り広げられている。重要なのは、どちらが正しいのかこの論戦に決着を付けることではなく、食料が間もなく足りなくなるかもしれないという危機感に基づいてすでに世界が動き出しているという事実だ。

そしてその危機感が大きな潮流となるきっかけとして、○八年の食料危機は十分なインパクトを持っていたということなのだ。

それでは、なぜウクライナが注目を集めていただろうか。

それはこの国の広大で肥沃な土壌をもつ農地が、食料の生産量を大きく伸ばす可能性を秘めた、世界に残された数少ないエリアの一つだったからにほかならない。

当時は、世界の大食料生産地として知られる北米やオーストラリアでは、すでに広大な農地の多くが開発され、「穀物メジャー」と呼ばれる巨大な穀物商社がその流通を一手に握っていた。

ブラジルなど南米の国々にはまだ未開発の農地も残っていたが、外国企業の農地取得への規制を見せていた国もあったが、資金の豊富な企業にとってこの程度の規制の壁はどうとでもなるのだろう。

このウクライナと同様に環境への影響を懸念されるほど開発されている。


また、未開発の農地が大量に残されている地域としてアフリカが注目を浴びているが、流通や加工、保管などのインフラが整っておらず、開発には過大なコストがかかる。

話を戻そう。

こうした世界の農地の中でウクライナは、生産性の高い肥沃な農地が、道路や保管庫などのインフラとともに、誰にも使われずに大量に放棄されているという特殊な事情が、ランドラッシュを引き起こしたのだ

このウクライナは、旧ソ連時代にはコルホーズ(集団農場)やソフホーズ(国営農場)で大型機械を用いた大規模農業が行なわれ、国内に食料を供給していた歴史があるのである。

しかし、九一年にソ連から独立した後はウクライナの農業は構造的な不況に陥った。

その大きな理由の一つが、農地の私有化に伴う混乱だった。

ソ連時代に全て国有だった農地は、独立後から徐々に私有化が進められ、大規模農場だった農地は細かく分割され、農民一人ひとりに数へクタールずつ与えられた。

農地を所有した人々の多くは、当初、手に入れた土地で自力で農業生産に挑戦しようとしたが、与えられた農地は分割されており、小規模なものである上に、農業用機械などをそろえる資金的な余裕もない。

しかも社会主義経済のもとで、集団農場で与えられた計画に従って働くことに慣れてきた人々にとって、限られた農地を自分たちで耕して生計を立てていくことは大きな困難を伴うことだった。

こうしてウクライナの人々は次第に自力での農業をあきらめていった。

かつてソ連中に食料を供給した肥沃な農地は、その多くが、農民一人ひとりが所有したまま捨て置かれることになったのである。

今でもウクライナの大地を移動していると、時折かつての集団農場の跡をみることができる。

大型のコンバインや金属製のパイプで作られた散水機などがさびついて壊れたまま放置され、穀物の保管庫は壁や屋根がくずれて廃墟と化している。

地元の高齢者に尋ねると、多くの人が「かつてここは大きな農場だったんだ。毎年、たくさんの小麦やトウモロコシを作っていたよ。今は寂しくなってしまった」などと、旧ソビエト時代の集団農場のことを懐かしそうに語る。

一方で、こうして放置された集団農場は、これから広い農地を確保して大規模な農業生産を始めようという外国企業にとっては、まさに宝の山だ。

確実に高い生産性が見込める肥沃な土壌の農地がまとまって存在する上に、保管庫や輸送路などインフラの下地ができている。

このように、今は老朽化した脆弱なインフラではあるが、一から開発するよりも少ないコストで農業生産につなげることが可能なのだ。

こうした隠れた宝の山に気づいた外国企業は我先にと農地の確保に走り、ウクライナの農地を奪い合って、周辺の環境を変え、水資源を枯渇させ、周囲の産業構造を破壊してしまったのだ。
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