リアナ3 約束の王国

西フロイデ

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3 黒の王

黒の王 ⑦

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 と、衛兵が扉を開けて、書記官が盆をがちゃがちゃさせながら戻ってきた。不慣れなことを申しつけられた不満がありありと顔に出ている。「お、お茶をお持ちいたしました、陛下、閣下」
「あっ」ファニーがわざとらしく声を出す。
「ねぇこれレモンが入ってない? レモンの薄切り。僕、レモン嫌いなんだよね」
「ああ、これは大変な失礼を、閣下」デイミオンもわざとらしく言う。書記官に向かって、「閣下は桃と苺の香りがついた茶しかお召しにならんのだ。悪いが、別のものをもってきてくれ」
 そう申しつけられた書記官の失望に満ちた顔は、見ものと言えただろう。

「王でないほうが安全なら、完全に退位させたほうがよかったんじゃない?」書記官が足音に怒りをにじませて出ていくと、ファニーは話を戻した。
「まだ〈ばい〉は残ってるんでしょ? 追跡を避けるなら、念話も使えないし……お互いにつらいんじゃない?」
 デイミオンは水差しから直接水を飲み、ふーっと大きく息をついた。そして言う。「たとえ絶え間ない苦しみだけを分かち合うことになっても、〈ばい〉の絆を断つことはしない」
「ふうん……」
 ファニーは、嫌いだと言ったレモン入りの茶にふーふーと息を吹きかけて冷まし、平然と口をつけた。

 青年は頭をのけぞらせて顔を手で覆い、天井を仰いだ。
「……おまえが言った、方法だが……効果があった。良いことか悪いことかわからないが」
「良いことだよ。希望はある」ファニーは力をこめた。
 デイミオンはそっと息をつく。「……そうだな」

 ファニーはティーカップをアルコーブの端に置き、懐から古びた革の手帳を取りだした。真鍮の留め金が壊れてはずれ、紙は日に焼けて端がすりきれていた。中を開くと図も文もびっしり書き込まれていて、インクが黒々した箇所もあれば、かろうじて読める程度に色あせてしまった箇所もある。
「マリウス手稿ノート」呟いて、少年は考えこむ表情になった。
「先の大戦時、ひそかに行われていたデーグルモールたちへの生体実験……その記録がここにある。おかげで、を和らげる方法もわかった。感謝しなきゃね」
「ああ。フィルのやつ、そんなものを探していたとはな。ひとこと言ってくれれば……」
「中を見た?」
「ひと通り」
「なにか気づいたことは?」
「いや……」デイミオンはためらった。「こういう方面には詳しくないんだ」
「医術方面の知識がなくても、わかることはあるよ」ファニーは手帳をぱらぱらとめくった。「たとえば、この手帳のなかには一度も、『デーグルモール』という言葉は出てこない」
 デイミオンは宙を見て、思い返す様子になった。しばらくして「……たしかに」と言う。
「戦前は『半死者しにぞこない』と呼ばれることが多かったな。だが、それが?」
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