リアナ3 約束の王国

西フロイデ

文字の大きさ
54 / 58
4 逃亡、西へ

Drink My Blood ②

しおりを挟む
 空はまぶしいばかりの快晴で、空気はすでに冬の冷たさだった。呼吸をすると、身体から出て言った空気が白いもやになる。リアナはその行方を目で追った。
 広く整備された街道は、大きな町をいくつか経由してエランド山脈へ続くものだ。竜族の信仰対象である〈御座所〉のひとつがあるので、山の中腹から麓までの道も巡礼路として整えられている。フィルとリアナは荷運び竜ポーターに乗って一日目の道程をはじめた。

 巡礼路はオフシーズンとはいえ、まだそれらしい旅行者はちらほらいて、ときおりすれ違った。リアナと同じような格好をした女性もいる。逃亡の旅と思えばつらいが、巡礼の旅と思えば多少は心慰められそうだ。考えてみると〈隠れ里〉を出てから王城に入って一年近くになるが、フロンテラやイーゼンテルレなど南のほうへ行くことが多く、西と北にはまったく出かけたことがない。母の生地という北部領に行ってみたいと思っていたこともあったが、メドロートがああいう亡くなり方をした今となっては、その気持ちもくじけかけていた。

 刈り入れの終わった畑は寒々しく、ところどころにヒースが紅葉しているほかは色味に乏しかった。街道の脇はすでに固い霜の層ができている。凍てついた湿地から鷺たちが飛びたっていく。フィルの荷運び竜ポーターがときおり彼女の前に出ては、安全を確認してまた背後に戻る。同じような光景がくり返された。
 あまり心浮き立つ眺めとはいえそうにない。やむを得ないこととはいえ、レーデルルと離れているという事実が思ったよりも心に重くのしかかっていた。羽毛も抜けきらない幼竜のころからずっと一緒だった相棒だ。かしこいだが、主人と離れて〈ばい〉も遠くなっては、不安に感じているに違いない。
 おまけに、城を出てしばらく復活していた体調が、また悪化しはじめている。身体が重く、だるく、ときおり視界がぼんやりと曇った。デイミオンが与えてくれた薬の効果が切れはじめているのではないかと不安になる。フィルにそう言うと、「あれは、長期保存できない薬なので、もってこれませんでした」と返ってきて、リアナはがっかりした。
 デイミオンに会いたい。
 ああいう状況で別れてしまったので、彼と再会したのが夢だったような気がする。城で軟禁されているあいだ、周囲の現実からも遠かったし、自分という存在への意識がとても薄くなっていて、百年でもああして氷の世界に座っていられそうな気がした。思い返すとおそろしい感覚だ。
 どうしてあんなふうになってしまったのかわからない。アエンナガルで〈霜の火〉と白竜の力を使いすぎたのかもしれない。もしかして、自分はずっとこのままなのかもしれない。
 それでも、今はフィルを信じてニザランに向かうしかない。漠然とした希望でも、ないよりましだった。それに、どれほどデイミオンのそばにいたかったとしても、モンスターのように暗闇に閉じ込められるなんてもう二度とごめんだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...