不・死亡遊戯の成れの果て

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5th Stage / 決闘ゲーム

第59話:5th Stage / 決闘ゲーム・6

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「……追加ルール百五十四定義、『絢爛回廊式』。五かける五の正方エリアに同色の駒が……」
「……追加ルール三百二十一定義、『スタンダードプラン』。追加ルールによらない基本の駒を……」
「……追加ルール七百十六定義、『悪しき軍拡の喜劇』。アクティブなサブボードの数が十の倍数になったとき……」
「……追加ルール九百一定義、『ワイヤーヤミー』。【隔離】状態のマス目が三つ以上隣接した上で……」

 進んでいくゲーム、お互いに宣言し続けるルール。
 シャルリロは自分がボードの中に立っているように感じた。ビルが立ち並ぶ直線区画の街を歩くように、駒が並んだ盤上を歩いていく。あらゆるルールが形を成して見えていて、どの駒が今何をすべきなのか優しく教えてくれた。
 奇妙な没入感の中で、シャルリロはいま自分がゲームを楽しんでいることを自覚する。

「……『銀河鉄道の昼』によって【星爆】にスタックが十八個蓄積して起爆、範囲内の全ての駒がこちら陣営に。これによって『アウトボーダー』が誘発して【鏖霊】と【砂楼】を左右に配置、同時に『デススキャット』で手持ちの【クローバー】を追放、代わりにビショップを入手しつつ【レプリカキング】を捨てて先ほど取った【戦車】を三つに増殖します。そのうち二つを捨てることで『サンドボード』発動、入手したビショップに八十七スタックと月のルーンを与えてから配置。以上で処理は完了、最後に追加ルール九百五十定義、『絶え間ない平穏』……」
「……ウチのターン開始時に『セブンヒット』『木より臣なり』『レイトスパーク』『煌めく夢の果てへ』『明日の栄光への賛歌』『ワンダータイム』『二度と閉じぬ扉』『カースクラック』『ヒーローバースデイ』『さんざめく津波』『君に送る俗世』が順番に発動するよ。ボードを拡大縮小した上で、新しい駒を追加……」

 もはや当初のゲームボードは原型を留めていなかった。
 中央にはテーブルを二十個ほどくっつけてつくったメインボードの島があるが、周囲の床には大量のサブボードが飛び地として広がっていた。その上には新たに定義された見慣れない駒が並んでいる。
 更にはお互いの頭上にも無数のボードが浮遊している。いちいち触って駒を動かすのは面倒なので、駒の移動は伝われば十分という方向にシフトした。ボードの通し番号を宣言したり、遠くの駒を指さしたりするだけで勝手に処理が進むシステムが導入されている。二人は両手を指揮者のように振って大量の駒を動かしていた。
 シャルリロはもちろん盤面の全てを正確に把握している。今あるボードの数は百五十四個(『液状化した伏線』によって放棄されたボード十三個を含まない)、マスは七千三百八十七個(『パンダキラー』による【封印】状態の二百一マスを含まない)、駒は千七百二十五個だ(『奇しくも酸』による【破片】と『ディスクゲイズ』による【ファントム】を含む)。

「それでようやくウチの手番で、ルークを前に五つ進めようかな。えーっと、これで追加ルールが四十三回誘発か」

 三途が指先で肘掛けを一つ叩いて宣言した。その回数はシャルリロが頭の中で弾き出した数値と一致する。お互いの処理は高速かつ正確だ。
 シャルリロが追加したルール百三十六『時計商人の夢』によって、お互いの連続思考時間は上限十秒となっている。つまりゲームの進行と無関係な空白時間を連続十秒以上作ったプレイヤーは即座に敗北となるが、その禁止に掠る気配さえ微塵もなかった。
 永遠に拡大するボード、そして無限に加わるルール。これは小さな世界の創造かもしれず、宇宙チェスとは言い得て妙だと思う。三途のルール処理が始まるのを見ながら、シャルリロの口を一つの疑問が突いて溢れた。

「このゲームに終わりはあるんでしょうか?」
「そう、それが問題なんだ。この宇宙チェスも、デスゲームそのものも」

 三途が腕を振りながら応じた。
 ルール発動時の口頭による宣言は任意で省略してもいいことになっていた。省略は元から誰も禁止していないので、それはルールによる規定というよりは特にルールがないことによる許容だ。
 とはいえ『時計商人の夢』によって十秒以上の空白が禁じられているため、ルールの処理自体を止めることはできない。会話をしたければゲームの進行と並行する必要があるが、それも二人にとってはさして難しいことではない。実際、いま口を開いている三途が同時にどのルールを処理しているか、シャルリロには手を取るようにわかる。
 『欠ける新月の縁』発動。『パストフューチャー』発動。『エッジアップ』発動。『憎し座標』発動。

「この宇宙チェスって、デスゲームの縮図みたいなもんなんだよ。自作自演で内輪のゲーム」
「と言いますと」
「この宇宙チェスもデスゲームも、参加者が自分でルールを考えてるじゃん。しかもゲームの自由度はどんどん上がっていくんだ。最初はガチガチに縛られた脱出ゲームで始まったのに、二回戦は乱闘形式だから皆勝手にチームを組んで、三回戦は嘘も吐き放題で最後は処刑合戦になったし、四回戦は正解さえ当てれば何をどう推理してもオッケー、五回戦なんか自分でいちいちルールを発案してる。結局、最初から最後までプレイヤー同士で勝手に遊んでるだけなんだよね。デスゲームなのにさ」

 『逆巻く魚群』発動。『永代の朝食』発動。『ミディアムハート』発動。『ライズライン』発動。

「それどころか、きっとデスゲームが始まる前から皆で協力してたんだと思う。例えば各ステージのゲームタイトルを考えてたのってたぶんシャルリロでしょ。『鎖絡み舞う爆心地』『棺に迷う脳幹』『狼が沈む月面』『館に眠る怪奇断片』なんて完全にシャルリロのネーミングセンスだもんね」
「ええ、全て認めましょう」
「だよね。そんで禁断の果実を作ったのはたぶんウチの不死性イモータリティ。リングカーネーションはオブジェクトに記憶をセーブして、それが破壊されたときにロードする。だからデスゲームの真相を適当な果物にセーブして、食べた人にロードされるように仕込んでたんだと思う。ウチがそれを覚えてないのは、それを仕込んだ記憶さえ果物の中にまとめて封印したから」

 『煮え滾る寒波』発動。『迫る刑務の焦燥』発動。『サマーストリーム』発動。『サマーストリーム』発動。『深海に浮かぶ果実』発動。『ステートアングル』発動。『鹿殺しの極み』発動。『腐れ契約』発動。『クラッシュダム』発動。『屍に積もる雪』発動。『スカーペーパー』発動。『ダストジャンク』発動。『地層響きの幼体』発動。

「きっと本当の目的は、ゲームに勝つことじゃなくてゲームを続けることなんだ。その気になれば不死者のデスゲームなんて永遠に終わらないし、このチェスだってそう。本気で勝とうとしてるなら『三秒後に自分はゲームに勝つ』みたいなルールを作ればそれで終わるのに。お互いに勝たないルールばっかり千個以上も作って、なかなかゲームに勝てないフリしてる」
「……」
「デスゲームは続けるために続けられてる。だからデスゲームに終了条件があるとしたら、それは単になんだ。ウチの推理が正しければ、それはもうほとんど達成されてると思う。あとはほんの少し確認するだけで終わるよ。このデスゲームも、宇宙チェスも」

 『千年の都潜り』発動。『嚥下する禿鷹』発動。『キメラムーン』発動。『活鱧から溺死まで』発動。『滞納損の信頼』発動。『ヘルサルベージ』発動。『ディーディーディーディー』発動。『狭間からの発券』発動。『走り去る太陽』発動。『挙がらない右手』発動。『サードタップ』発動。『千年越しの休戦』発動。『サマーストリーム』発動。『サマーストリーム』発動。『サマーストリーム』発動。『旅程の二度弾き』発動。『都市を舐める凌辱』発動。『軋む官僚機構』発動。『虫の嗚咽』発動。『クローズドスター』発動。『ザグジグ』発動。『首絞め大動脈』発動。

「さて、これでウチの手番が終わって追加ルール千二百三十九定義、『アフタークエスト』。各プレイヤーはターン開始時にクイズを四つ出題しなければならない」
「それだけですか?」
「それだけ。とにかくクイズを出す義務が生じるだけで、回答の正否とかはゲームには何も影響しないよ」
「いいでしょう」

 シャルリロは僅かに目を閉じ、十秒以内に最後の質問を考える。
 これは確認作業でしかなかった。きっと三途はもうデスゲームの真相に辿り着いているだろう。彼女が言うように、デスゲームの中には大量のヒントが散りばめられていて、最後の真相はいずれわかることでしかないのだから。
 シャルリロだって決して終わりたくはないが、続けても仕方がないものを続けても仕方がないのだ。足元の石を踏みしめるように、四つの質問を絞り出した。

「デスゲームの会場は?」
「ない」
「デスゲームの観客は?」
「いない」
「デスゲームの黒幕は?」
「不死者八人」
「デスゲームの目的は?」
暇潰しキルタイム

 全ての答えを聞き届け、シャルリロは隣の木箱に手を突っ込んだ。

「ところで一つ訂正すると、さきほど言及していた『勝敗を直接決めるルール』は既に存在しています。お互いにまだ使っていないだけで」
「そんな追加ルールあったっけ。気付かなかったなんてことはないと思うんだけど」
「追加ルールではありません。誰でも知っているチェスの基本ルールですよ。ただし勝つ方ではなく負ける方ですが」

 箱の中からあの赤くて丸い果実を引っ張り出し、三途に向けて放りながら宣言する。

投了しますリザイン。君の勝ちです」

 赤い果実をキャッチして苦笑する三途。これでデスゲームの勝者が決まった、しかしそれが何だというのか?

「虚しいもんだね。アンタが投了したってことは、デスゲームを続行する意味がなくなったってことなんだから。勝った瞬間に勝った意味がなくなっちゃった」
「しかし真相に独力で到達したこと自体は君自身の成果では? それはデスゲーム上での評価項目ではないかもしれませんが」
「気休め言わないで、ウチはゲーマーなんだから。だよ、こんなもん。リンゴだけにね」

 禁断の果実を齧り、そして三途は概ね予想通りの真相を知った。
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