席には限りがございます!  ~トラックに轢かれてチート能力を手に入れた私たちは異世界転移を目指して殺し合います~

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第一章 厨二病少女は最強能力で異世界を支配するようです

第4話:厨二病少女は最強能力で異世界を支配するようです・2

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「うおおお」

 扉の先は夜の立食パーティー会場だ。
 窓から差し込む月光が豪奢な料理の数々を照らしている。瑞々しい野菜の原色が鮮やかなサラダ、大きく艶やかに反った蒸し海老、丸々と太った鶏肉の焼き物、目線の高さまで聳え立つチョコレートケーキ、エトセトラエトセトラ。
 足つきの銀皿に並んだ食事のどれもが自らが主役だと胸を張る。たくさんの香りが混ざり合いながら、決して衝突することなく大らかな饗宴の波に調和していく。
 大きなガラス窓の向こうは鬱蒼と茂った森だ。高所にある会場からたくさんの木々を見下ろせるが、緑はどこまでも続いていて終わりがない。電線や電波塔のような人工物の気配もなく、ただひたすらに原始の風景が続いている。
 料理の周囲では十一人の女性たちが思い思いに過ごしていた。
 年齢や風貌はまちまちだ。上はきっちりとスーツを着こなす社会人風の女性から、下は小学生らしき子供まで。食事を乗せた皿を片手に雑談に興じている者、壁際のソファーで眠っている者、一人で物思いに耽っている者。
 聞こえる声のトーンはどれも明るく、場に漂う空気はすっかり緩んでいる。これから異世界で自分の願いが叶うとなれば浮足立つ気持ちはよくわかる。

「ん?」

 花梨の目を引き付けたのは近くのテーブルに集まっている四人組だった。
 花梨と同じ年頃の少女たちがにこやかに話している。車椅子に乗った少女が身振りを交えて穏やかに笑い、髪を後ろで一つに結んだ長身の少女がきりとした表情で応じた。その隣では頭に大きなリボンを付けた背の低い少女が後ろに手を組んでニコニコと話を聞いている。
 そして最後の一人、黙ってサラダを口に運んでいるのは細い眼鏡をかけた少女だ。拗ねたような表情はよく見覚えがある。中学校からの知り合いの姿に思わず声が漏れた。

「理李ちゃん?」
「花梨!」

 眼鏡の少女、雨之アメノ理李リリもこちらを見て驚きの声を上げた。

「久しぶりだね」
「そうだな。随分長いこと調子が悪かったみたいだが」
「あーその、まあね……」

 声をかけたはいいが、続ける言葉に迷う。まともに会話をするのは一年ぶりだ。
 高校一年生の間、花梨の精神は荒み切っていた。学校を頻繁に休んで姉が入院する病院に通い、たまに登校したところでとても友人と談笑できる状態ではない。元は明るく元気な性格だったと知っている人も多いだけに、クラスでも腫れ物に触る扱いをされていた。
 ただ、チート能力『蘇生リザレクション』を得て原因が解消した今となってはもう過去の話だ。一年の長い暗黒期を払拭するように、努めて明るい声で明るい話題を振る。

「あ、そうだ。理李ちゃんにもチート能力を貰ったんだよね? 理李ちゃんは何にした? 私は『蘇生リザレクション』なんだけど」
「『反射カウンター』だ。あらゆる攻撃をそのまま跳ね返す、物理も精神もだ。撃たれれば銃弾を、切られれば斬撃を、心を攻められれば精神汚染を返す。もちろん私は無傷のまま」
「へー、すごいね。それってどうして……あいやその、言いたくなかったら言わなくてもいいんだけど……」

 迂闊な切り返しをしてしまい、またもごもごと口ごもる。
 理李が今ここにいるということは、花梨と同じように四月一日零時にトラックに轢かれたということだ。つまり凄惨な死に方を自分で選んでまで異世界に行きたい事情があったことになる。
 チート能力を得た動機はそのまま自殺した理由や生前の身の上に直結してくるわけで、しばらくぶりに再会しての話題としては重すぎるかもしれない。

「別に隠したいわけじゃないが……今は明るい場だし、出会い頭にそこまで聞くのは止した方がいいだろう。お前が一年間で色々あったように、私にとっても軽く喋るには一年間は長すぎた。あまり考えなしに口を開くな」
「あは、そうだよね……」

 正論を受けて頬をかくが、理李はあまり気にする様子もなく軽く頷くだけで応じた。
 強めの言葉を浴びせられはしたが、本気で怒っているわけではないのはよく知っている。理李はいつもぶっきらぼうで歯に衣着せない物言いをする。そのせいで友達は多い方ではなかったし、中学時代によく話していた相手も花梨くらいのものだった。

「私は別に構いませんよ。他人のチート能力は気になるでしょうし、あえて触れないのも会議室の大きな象を無視するようなものですから」

 花梨をフォローする穏やかな声は理李の隣から発せられた。

「私たちは同じように噂を信じて自殺を選んだ似た者同士です。今更よそよそしくするのも水臭いでしょう。私はプライベートを話して距離を縮めたいと思っていますよ」
「ってあれ、ひょっとして生徒会長?」
「はい、元生徒会長の綾小路アヤノコウジ小百合サユリです」

 車椅子の少女が微笑む。長く輝くストレートヘアの向こうで穏やかな目が揺れた。
 清廉な白い服の上に羽織った高級そうなシルクのカーディガンとひざ掛けが彼女の優美な雰囲気を引き立てている。相変わらず嫌味にすらならないほどにお嬢様だ。

「一年生の廿楽花梨です……今って一年生かな? 四月一日付けで進級してれば二年生だけど、死んでるのに加算するのも変な感じ」
「幸いにもこうして天国で引き続き活動していることですし、無事繰り上がって二年生ということで良いのではないでしょうか。私も今年度からは三年生で生徒会長を退任する予定でした」

 花梨との個人的な面識はないが、小百合のことは鍵比良高校の生徒なら誰でもよく知っている。綾小路家は御原市で最も大きな敷地を持つ名家であり、小百合はそれにふさわしい一人娘だ。
 成績は常に学年トップ、生徒はもちろん先生からも厚い信頼を寄せられている。いつも大勢に囲まれていて見るたびに車椅子を押している人が違っているほどだ。こうして近くで話しているだけでもスターに特有の華やかなオーラが伝わってくる。

「そして私のチート能力は『身体強化ストレングス』です。とにかく強い身体を得る能力。握力や脚力は無限、何年続けて活動しても体力が切れることはなく、皮膚は鋼のように何も通しません。わかりやすいでしょう? 生まれた時から下半身不随で困ったことばかりでしたから、頑丈で完璧な身体を願ったのです」
「えっ、そうなんだ……まあそうだよね」

 正直なところ、小百合が身体強化を願ったというのは花梨にとってはかなり意外だ。
 花梨は小百合のことを身体のハンデなど物ともせずに生きている人間だと思っていた。少なくとも傍から見ている限りでは障害を補って余りあるほどの才能や人格を持っているように見えたし、それを否定する人はいないだろう。
 それが内心では異世界転移に賭けて自殺するほど思い詰めていたとは。花梨の驚きを察知したのか、小百合は気を悪くする様子もなくフォローする。

「それなりに幸福な人生を歩んでいたとは思っています。しかし、足は動かないよりは動いた方がいいですよ。どうにもならないから諦めて受け入れていただけで、どうにかできるのであれば諦める理由はありません」
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