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第二章 剣の達人は異世界でもモンスターを切りまくるようです

第19話:剣の達人は異世界でもモンスターを切りまくるようです・12

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「あの子供二人はどうしたのかな? パーティー会場ではだいぶ懐かれていたようだけども」
「彼女たちは神庭カンバ家のお子さんです。保護して頂いた方が安全でしょうから、もうそちらに帰しましたよ。ここには私しかいません」
「ああ、あの没落旧家の神庭邸。それならなおさら都合がいい。今日は交渉に来たんだ。僕たち二人と君の三人で組まないか? 君も知っての通り、異世界転移には三枠ある。四人以上になれば転移は失敗するが、逆に三人までならペナルティは生じない。だから三人まではむしろ積極的に組むべきだと僕は思う。協力すれば生き残る確率が上がるし、排除しなければならない人数も減る。僕たちは協調できる。合理的に行こうよ」
「それには同意しますが、全員の中から私を選ぶ理由は何ですか?」
「まさにそういう質問をすぐに返せるところさ。実に冷静で実利に聡い。理李くんもそれなりに頭が回るようだが、自ら先陣を切って目立ってしまうあたりが頭でっかちで経験不足だ。その点、君は範囲攻撃であの場を一旦流し、即座にここで籠城する手堅い戦略を選択している。そういう判断能力を買っている」
「では私があなたたちと組むメリットは何ですか? はっきり言って、こちらから見れば一番胡散臭いのがあなたたちです。パーティー会場では二人の世界に浸っているばかりでしたし、そのせいでチート能力も不明瞭なところが多いですから」
「はは、手厳しいね。だがますます気に入ったし、君が僕たちと組むべき理由もそこにある。僕たちはカップルとして異世界で仲良く暮らしたいだけなんだ。君も快適な住環境を整える穏当なチート能力『建築ビルド』を選択しているあたり、異世界でゆったり自由気ままに暮らしたいと思っている方だろう? つまり僕たちは揃ってスローライフ系異世界転移の派閥なんだ」
「嗜好が似通っているだけでは組む理由としては薄くありませんか? 違う適性を持っている方が隙が無いとも考えられるでしょう、特に殺伐とした状況では」
「僕たちは転移後の暮らしを重く見ているということさ。転移先の異世界はいまや一つしかない。つまりこの戦いのために組むということは、同じ異世界で暮らす同志を選ぶということでもあるんだ。だったら価値観が似通っていてお互いに協力できそうな者を選ぶべきだと思わないか? 『創造クリエイト』の切華くんや『龍変化ドラゴナイズ』の龍魅くんのような無双系チート能力を持つ武闘派と組むよりも、穏やかな暮らしを愛するスローライフ派で組んだ方が長期的に見て有益だと考える」
「一理ありますね。もし私たちが組めばそれでもう上限の三人に到達します。他は全員皆殺しにする想定ですか?」
「そうだね。この三日間は誰もなりふり構わないということは君もわかっているだろう。悲しいことだが、可能な限りは殺した方がいいと思ってる。交渉で済むならそれに越したことはないけれど、まあ望み薄だろうね」
「組んだあとの戦略は?」
「積極的に打って出るよりは、この要塞に籠城して迎撃するのが良いと思う。人数が減ってくるまでは潜伏して、終盤になってから一網打尽にするのもいいかもしれないね」
「あなたたちのチート能力は『無敵インビンシブル』と『爆発エクスプロージョン』でしたよね? 迎撃は具体的にどうやってするつもりですか?」
「その手札はまだ伏せさせておいてほしいな。僕たちのチート能力は僕たちにとっても生き残るための要石なんだ。協力できるという確信が得られるまでは開示したくない」
「それもそうですね。理解します」

 灯は一旦会話を切って考える。
 灯は事務職勤務ではあったが、人手不足で窓口に出たり営業をこなしたりすることも珍しくなかった。一世一代の買い物である不動産売買で切った張ったの交渉を繰り広げてきたのだ。それは多大なるストレス源ではあったが、おかげで交渉から他人の性質を掴むことにかけては人並み以上に詳しいつもりだ。
 話している感じ、涼の感触は悪くない。穏やかに理知的な人物であり、頭でっかちな正論を並べるだけではなく心情についても理詰めで考慮できるタイプだ。この手のタイプは少なくとも利害が一致している限りはかなり信用できる。逆に言えば、利害が一致し続けるようにコントロールし続ける必要はあるが。
 ずっと憮然とした表情で黙っている穏乃にも話を振ってみる。

「穏乃さん、あなたはどう思っているのですか?」
「もちろん涼と同じ考えよ。そうでなければここに来ないでしょ」

 穏乃は指に髪を巻きつけながらそっけない態度で答える。
 灯は苦笑する。夫が張り切って交渉をこなしている横で、妻は全く任せきりでつれないというケースは珍しくない。もっともそれは暗に夫を信頼していることの表れでもあり、表面的な空気の悪さの割には深いところでは絆が深い熟年の夫婦にありがちな振る舞いだ。
 灯は少し溜めたあと、改めて口を開いた。

「しばらく考えさせてください。時間に余裕があるわけではないにせよ、籠城に他人を招き入れるリスクが小さくないこともわかるでしょう」
「もちろんだ。ただし、僕たちとてずっと保留しておくわけにもいかない。優先順位としては君が一番だが、君が迷っているうちに痺れを切らして他の誰かと組んでしまっても恨まないでくれたまえ」
「それは私が言い慣れているセリフですね。大変人気の物件ですのですぐにでも他の方が購入されてしまうかもしれません、ってね」
「はは、この手の駆け引きは君の方が得意だったかな? とはいえ、これは決まり文句ではなく本心だ。まあ、気が向いたらいつでも連絡をくれたまえ。手土産のクッキーはここに置いておく。僕と穏乃で焼いたものだ」
「美味しいですか?」
「君がもう少し間の抜けた相手だったら『とても美味しいから是非に』と言うところだが、正直に言えばそれほど美味しくないよ。だが、わざわざお金を払うほどでもないものを食べる機会は却って貴重だろう? それほど美味しくないから是非に、というところだね」
「なるほど、承知しました。ありがとうございます」

 地面に小さな紙袋を置いて二人は去っていった。
 やはり涼は抜け目ない。あえて社交辞令を外した本心を滲ませて相手の信頼を得ようとする言い回しも交渉の場ではスタンダードなものだ。
 二人がセンサーの検知圏外に去ったことを確認し、紙袋をレーザーで焼き払った。チート能力によって配備されたレーザー砲が手土産を一瞬で焼き尽くし、焦げ跡だけが地面に残る。
 そこで後ろから柔らかい声がかかる。

「ごはんできた?」
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