謡う魔剣と少女の物語

たまぞう

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第2章 奴隷の兄妹

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 日が傾きかけたころに屋敷に旅人のような風体の若い男が訪ねてきた。騎士見習いのカイルだった。
「騎士団の先駆け伝令です!」と公爵の前で跪いた。「公爵様、ミスリル盗掘、および密売の咎により、ハフナーを捕らえるため百人隊がこちらに向かっております。速やかに現地に赴き、検分にご同席くださいますよう、お願いいたします」
「了解した」と公爵は立ち上がった。「この屋敷にも証人となる者たちが捕らえてある。ハフナーの農園の捕り物が終わったら、こちらにも兵士を回してほしい」
「承知いたしました」とカイル。
「カイル? どうしてここに?」とティナが尋ねると、
「詳しくは後で話すよ」と応じた。
 カイルは公爵とウィルフレッドを伴い、慌ただしく屋敷を出て行った。ティナはジーンとともに居残りでハフナーの手下たちの見張りに回った。
「カイルが来るなんて、びっくりしたよ」
 ジーンは笑みを見せて、
「騎士見習いですからね。今回の捕り物には兄君も来ているのかもしれませんね」と応じた。
「なるほどね」とティナ。彼女は手持無沙汰の様子で、捕らえた小悪党たちを眺めた。話し相手になっていたダニーとメアはその場にいない、ロイスとアンナが兄妹を伴って、早速仕事の説明のために屋敷の案内をしているのだ。ティナはどうやら、少々退屈しているようだ、とジーンは苦笑した。
「あの二人も働き口が見つかってよかったですよね」とジーン。
「うん、そうだね」とティナは微笑み、「でも、まさか旅の途中でこんなことが起こるなんてね」
 ジーンはその言葉に笑って、
「まあ、その剣が引き寄せたのかもしれませんね」とティナの背に背負われた剣を示す。
 ティナはちらりと背後を見やり、
「本当に不思議な剣だよね」と応じた。
「……そういえば、城壁を鮮やかに飛び越えましたよね? 身体強化の術でも身に着けているんで?」
 ティナはきょとんとした顔を見せる。
「ええ? いやー、以前、カイルの訓練を教練場に覗きに行ったことがあって、そこで壁を飛び越える練習をしている騎士がいたから、あたしにもできるかもって……」
 ジーンは困ったような笑みを浮かべた。
「いや、普通、できませんや」と肩をすくめた。「カイル様もまだ練習途中のはずですよ?」
「……そうなの?」
「はい」と言ってジーンは笑った。「身体に力を巡らせるイメージで、その力を必要なところに瞬発的に送り込むんです。例えば脚なら壁を飛び越えたり、腕なら一時的に重い物を持ったり。そういうイメージを自分の中で練りこむというか……」
「あー、なんとなくわかるかも。そうやって練習すると、もっとうまくできるようになる?」
「ええ。壁の飛び越えなんかも楽にできるようになりますよ」
 ティナはぱっと微笑んだ。
「それいいね! 練習してみるよ、どうもありがとう」
 ジーンはにっこりと笑った。本来ならそんな簡単な説明だけで習得できるものではないはずだ。それが証拠に彼自身も幼い頃から厳しい父親に訓練されてようやく身につけたのだから。しかしティナは楽し気に身につけてしまう。ある種の天賦の才なのかもしれない。
「……カイル様の訓練をご覧になりに行ったので?」
「うん、剣の練習の話を聞いてたら、ちょっと面白そうだなって」
「強くなりたいので?」と慎重にジーンは尋ねた。
「うん!」と彼女は快活に答える。「爺ちゃんはあたしに鍛冶仕事を教えてくれなかったから、自分の道は自分で切り開かないとね」
 ジーンは彼女の話を聞きながら、確かにボスコークが孫に鍛冶の技を教え込まずに、わざわざバーグマンに剣を学ばせたことを不思議に思っていた。彼女自身は知っているのかどうかはわからないが、そのために相当な金額をバーグマンに預けていることも彼は知っていた。
 ティナがバーグマンのところに通うようになったのは五、六歳かそこらだったはずだ。これは騎士の家柄の跡継ぎが初めて師匠を迎える年頃と大差がない。
 ボスコークは本気で彼女に剣を学ばせたかったのだろう。
 もしかしたら、この魔剣を彼女に託すつもりだったのだろうか?
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