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第3章 白亜の大神殿
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ディアストラの街は夜も寝静まることを知らない。冒険者たちが集う街の一角では酒場や娼館が明々と灯をともし、にぎやかな声が響いていた。そんな冒険者街の一角の宿屋の一階、狭い酒場で二人の男が顔を突き合わせるように酒を飲んでいた。
「残念だが、養女になることは断られたよ」
奥のテーブル席で酒をすすっていたウィルフレッドはジーンに告げた。
「そうでしたか……」
「まあ、それも成長の証と思えば、それはそれで嬉しいがな」
ウィルフレッドは軽く肩をすくめて見せた。ジーンは小さく頷いて、
「あの子も十六歳ですからね。もう子ども扱いできる歳じゃありませんね」と応じた。
ウィルフレッドは酒を一口飲んでから、また口を開く。
「冒険者登録をしてみたいと言っていた」
ジーンは頷いて応じた。
「以前からそんな素振りはありましたからね」
「まあ、できることはしてやるつもりだ。冒険者としての心得くらいなら、儂にも教えてやれるだろう」
「私にも何かお手伝いが出来れば」
そう口にしてから、ジーンはしまった、と思った。ウィルフレッドはティナの親代わりになりたいのだ、ただ、手助けがしたいわけではなかった。しかし主人はそれには気づかずに、
「うむ、それならば、頼みたいことがある」と続けた。「兄のレナードを探してやって欲しい。おそらく鍛治工房を当たれば手がかりがあるだろう。ドワーフと人間のハーフはそれほど多くはない、おそらく情報はすぐに得られるだろう」
「お安いご用で」とジーンは応じた。
一方、ウィルフレッドに冒険者になることを認められたティナは、宿屋の寝室で穏やかな眠りについていた。その枕元すぐ近くで、魔剣が静かな唸りを立てている、まるで歌のように。その低い歌声に誘われるかのように、ティナは夢の中へと沈み込んでいった。
ティナは夢の中で焚き火のゆらめく炎を見ていた。時折ぱちぱちとはぜる音がして、少し煙が目にしみる。身体の大きさは自分のものではないのに、妙にしっくりとしている。おそらくは近くに置いている見慣れた剣のせいだろう。その剣は非常に長く、刃は幅広く、そして重い。その魔力のゆえに、自分にしか扱えないことを知っている。
つまり、これは自分自身なのだろうという気がした。体格は全く別物だというのに。
「なあ」と彼女は口を開いた。
自分の口が動いているというのに、声は全くの別人のものだ。若い男性の声のように思えた。
焚き火の向こうで別の若い男が顔を上げる。整った顔立ち、白銀色の髪を引っ詰めて結び、尖った耳が特徴的だ。
エルフだ、と彼女は思った。幼い頃に祖父を訪ねて工房にエルフが来たことがあった。エルフとドワーフは不仲だなどと言われるが、それは昔の対魔王の戦いの時に、離間を企てられたからだと祖父に聞いた覚えがある。要するに実際はそんなに不仲というわけでもないのだろう。
エルフの若い男性は焚き火の向こうで彼女を……いや、声の主の若い男を見やる。
「なあ、ソリス、エレノア、この旅が終わったら、お前らきちんと結婚しろよ」と声の主が続けた。
どうやら声の主は友人とその恋人に言っているらしい。焚き火の向こう、エルフの隣にいた若い人間の女性が肩を揺らすように笑った。
「大きなお世話」
彼女は大柄で筋肉質な体付きをしていた。黒いショートヘア、激しさを秘めた目、日焼けした肌。勝気な表情で声の主を一瞥し、焚火に目を落とした。
しかしエルフの方は神妙な顔つきで、声の主を見つめている。
「この調子だ」
「惚気ているのかよ?」と声の主は軽く笑う。「安心させてくれよ。明日は多分最下層まで行くことになる。どんなトラップがあるかわからない。無事に帰れるかどうかも」
「不吉なことは言うんじゃないよ!」と女がぴしゃりと言った。「大丈夫。あたしら三人で最下層まで潜って、そして三人で生還する。わかった?」
「ああ」と頷くのに、なぜか声の主の心は重い。まるで、何か秘密を抱えているかのように。
ティナは明け方に目を覚ますと、まだ薄暗いことに気づいて、もう一度眠りに落ちていった。
「残念だが、養女になることは断られたよ」
奥のテーブル席で酒をすすっていたウィルフレッドはジーンに告げた。
「そうでしたか……」
「まあ、それも成長の証と思えば、それはそれで嬉しいがな」
ウィルフレッドは軽く肩をすくめて見せた。ジーンは小さく頷いて、
「あの子も十六歳ですからね。もう子ども扱いできる歳じゃありませんね」と応じた。
ウィルフレッドは酒を一口飲んでから、また口を開く。
「冒険者登録をしてみたいと言っていた」
ジーンは頷いて応じた。
「以前からそんな素振りはありましたからね」
「まあ、できることはしてやるつもりだ。冒険者としての心得くらいなら、儂にも教えてやれるだろう」
「私にも何かお手伝いが出来れば」
そう口にしてから、ジーンはしまった、と思った。ウィルフレッドはティナの親代わりになりたいのだ、ただ、手助けがしたいわけではなかった。しかし主人はそれには気づかずに、
「うむ、それならば、頼みたいことがある」と続けた。「兄のレナードを探してやって欲しい。おそらく鍛治工房を当たれば手がかりがあるだろう。ドワーフと人間のハーフはそれほど多くはない、おそらく情報はすぐに得られるだろう」
「お安いご用で」とジーンは応じた。
一方、ウィルフレッドに冒険者になることを認められたティナは、宿屋の寝室で穏やかな眠りについていた。その枕元すぐ近くで、魔剣が静かな唸りを立てている、まるで歌のように。その低い歌声に誘われるかのように、ティナは夢の中へと沈み込んでいった。
ティナは夢の中で焚き火のゆらめく炎を見ていた。時折ぱちぱちとはぜる音がして、少し煙が目にしみる。身体の大きさは自分のものではないのに、妙にしっくりとしている。おそらくは近くに置いている見慣れた剣のせいだろう。その剣は非常に長く、刃は幅広く、そして重い。その魔力のゆえに、自分にしか扱えないことを知っている。
つまり、これは自分自身なのだろうという気がした。体格は全く別物だというのに。
「なあ」と彼女は口を開いた。
自分の口が動いているというのに、声は全くの別人のものだ。若い男性の声のように思えた。
焚き火の向こうで別の若い男が顔を上げる。整った顔立ち、白銀色の髪を引っ詰めて結び、尖った耳が特徴的だ。
エルフだ、と彼女は思った。幼い頃に祖父を訪ねて工房にエルフが来たことがあった。エルフとドワーフは不仲だなどと言われるが、それは昔の対魔王の戦いの時に、離間を企てられたからだと祖父に聞いた覚えがある。要するに実際はそんなに不仲というわけでもないのだろう。
エルフの若い男性は焚き火の向こうで彼女を……いや、声の主の若い男を見やる。
「なあ、ソリス、エレノア、この旅が終わったら、お前らきちんと結婚しろよ」と声の主が続けた。
どうやら声の主は友人とその恋人に言っているらしい。焚き火の向こう、エルフの隣にいた若い人間の女性が肩を揺らすように笑った。
「大きなお世話」
彼女は大柄で筋肉質な体付きをしていた。黒いショートヘア、激しさを秘めた目、日焼けした肌。勝気な表情で声の主を一瞥し、焚火に目を落とした。
しかしエルフの方は神妙な顔つきで、声の主を見つめている。
「この調子だ」
「惚気ているのかよ?」と声の主は軽く笑う。「安心させてくれよ。明日は多分最下層まで行くことになる。どんなトラップがあるかわからない。無事に帰れるかどうかも」
「不吉なことは言うんじゃないよ!」と女がぴしゃりと言った。「大丈夫。あたしら三人で最下層まで潜って、そして三人で生還する。わかった?」
「ああ」と頷くのに、なぜか声の主の心は重い。まるで、何か秘密を抱えているかのように。
ティナは明け方に目を覚ますと、まだ薄暗いことに気づいて、もう一度眠りに落ちていった。
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