謡う魔剣と少女の物語

たまぞう

文字の大きさ
31 / 38
第3章 白亜の大神殿

しおりを挟む
 ディアストラの街は夜も寝静まることを知らない。冒険者たちが集う街の一角では酒場や娼館が明々と灯をともし、にぎやかな声が響いていた。そんな冒険者街の一角の宿屋の一階、狭い酒場で二人の男が顔を突き合わせるように酒を飲んでいた。
「残念だが、養女になることは断られたよ」
 奥のテーブル席で酒をすすっていたウィルフレッドはジーンに告げた。
「そうでしたか……」
「まあ、それも成長の証と思えば、それはそれで嬉しいがな」
 ウィルフレッドは軽く肩をすくめて見せた。ジーンは小さく頷いて、
「あの子も十六歳ですからね。もう子ども扱いできる歳じゃありませんね」と応じた。
 ウィルフレッドは酒を一口飲んでから、また口を開く。
「冒険者登録をしてみたいと言っていた」
 ジーンは頷いて応じた。
「以前からそんな素振りはありましたからね」
「まあ、できることはしてやるつもりだ。冒険者としての心得くらいなら、儂にも教えてやれるだろう」
「私にも何かお手伝いが出来れば」
 そう口にしてから、ジーンはしまった、と思った。ウィルフレッドはティナの親代わりになりたいのだ、ただ、手助けがしたいわけではなかった。しかし主人はそれには気づかずに、
「うむ、それならば、頼みたいことがある」と続けた。「兄のレナードを探してやって欲しい。おそらく鍛治工房を当たれば手がかりがあるだろう。ドワーフと人間のハーフはそれほど多くはない、おそらく情報はすぐに得られるだろう」
「お安いご用で」とジーンは応じた。

 一方、ウィルフレッドに冒険者になることを認められたティナは、宿屋の寝室で穏やかな眠りについていた。その枕元すぐ近くで、魔剣が静かな唸りを立てている、まるで歌のように。その低い歌声に誘われるかのように、ティナは夢の中へと沈み込んでいった。

 ティナは夢の中で焚き火のゆらめく炎を見ていた。時折ぱちぱちとはぜる音がして、少し煙が目にしみる。身体の大きさは自分のものではないのに、妙にしっくりとしている。おそらくは近くに置いている見慣れた剣のせいだろう。その剣は非常に長く、刃は幅広く、そして重い。その魔力のゆえに、自分にしか扱えないことを知っている。
 つまり、これは自分自身なのだろうという気がした。体格は全く別物だというのに。
「なあ」と彼女は口を開いた。
 自分の口が動いているというのに、声は全くの別人のものだ。若い男性の声のように思えた。
 焚き火の向こうで別の若い男が顔を上げる。整った顔立ち、白銀色の髪を引っ詰めて結び、尖った耳が特徴的だ。
 エルフだ、と彼女は思った。幼い頃に祖父を訪ねて工房にエルフが来たことがあった。エルフとドワーフは不仲だなどと言われるが、それは昔の対魔王の戦いの時に、離間を企てられたからだと祖父に聞いた覚えがある。要するに実際はそんなに不仲というわけでもないのだろう。
 エルフの若い男性は焚き火の向こうで彼女を……いや、声の主の若い男を見やる。
「なあ、ソリス、エレノア、この旅が終わったら、お前らきちんと結婚しろよ」と声の主が続けた。
 どうやら声の主は友人とその恋人に言っているらしい。焚き火の向こう、エルフの隣にいた若い人間の女性が肩を揺らすように笑った。
「大きなお世話」
 彼女は大柄で筋肉質な体付きをしていた。黒いショートヘア、激しさを秘めた目、日焼けした肌。勝気な表情で声の主を一瞥し、焚火に目を落とした。
 しかしエルフの方は神妙な顔つきで、声の主を見つめている。
「この調子だ」
「惚気ているのかよ?」と声の主は軽く笑う。「安心させてくれよ。明日は多分最下層まで行くことになる。どんなトラップがあるかわからない。無事に帰れるかどうかも」
「不吉なことは言うんじゃないよ!」と女がぴしゃりと言った。「大丈夫。あたしら三人で最下層まで潜って、そして三人で生還する。わかった?」
「ああ」と頷くのに、なぜか声の主の心は重い。まるで、何か秘密を抱えているかのように。

 ティナは明け方に目を覚ますと、まだ薄暗いことに気づいて、もう一度眠りに落ちていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。 王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。 だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。 行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。 冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。 無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――! 王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。 これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうぞお好きになさってください

みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。 婚約者の第一王子殿下は言った。 「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」 公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。 「好きになさればよろしいわ」

処理中です...