『婚約破棄から始まる物語』へ転生したってか?【完】

mako

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今までは知らん

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ヴィクトリアは口角をキュッと上げると

『お直しをお願い出来るかしら?』


ズラリと並んだ、ヴィクトリアが揃えたであろう色とりどりのドレスを指差すとミランに微笑みを送った。ミランは分かりやすく瞬きをすると


『お直しですか?新しく誂えるのではなくて?』


見た所まだ真新しいドレスが山のように並んでいるクローゼットを注意深く眺め1枚1枚を丁寧に分け

『そうね、仕立て屋と宝石商も呼んで下さるかしら?』


ミランの後ろに控えるサラとイライザは急ぎ部屋を出て手配に向かった。





慌ただしく走り回る王太子妃付けの侍女らとズラリと並ぶ宝石商らを横目に王太子であるアレクセイの側近レイモンドは辟易としながら執務室へ足早に戻りソファになだれ込んだ。


『レイ、どうした?』


アレクセイは執務の手を止めると側近のなだれ込んだソファの対面へと足を運んだ。

『我々が朝から執務に追われているというのにあの女ときたら…また今回はえらく沢山の商人を呼び付けてるよ。』


あの女というだけで王太子であるアレクセイも側妃としてヴィクトリアに代わり執務を行うアナスタージアもすぐに頭を抱えた。

アレクセイはバツが悪そうに目の前の2人に申し訳無さそうに視線を流すと


『1度ヴィクトリアと話してみるよ。あの女を妃にしたのは私の責任だからね。ヴィクトリアがあんなだからアナスタージアが側妃となり代わりに私を支えてくれているというのに、これじゃあ申し訳が立たないよ。』


アナスタージアは小さく微笑むと


『私の事は構いませんわ。』


『いやいや、構うべきだよ。そもそもねあれほど完璧なステファニー様を捨ててまで娶った妃であろう?王太子教育もままならず毎日贅沢三昧。いくらなんでも酷いだろ?』


レイモンドは大きくため息を付くと、早々にアレクセイを連れてヴィクトリアの部屋へと向かった。






『ですから!新しく誂えるのではなくて、これらの物をいくらで売れるのかを査定して欲しいと言ってるの!』


目を丸くする商人らを前にヴィクトリアは何度も同じ事を繰り返している。


…何なの?何も難しい事を言ってる訳じゃないのに!みんなアホなのかしら?


ヴィクトリアは後ろに並ぶ王宮の服飾担当らを手招きすると


『貴女たちはこちら側のドレスの手直しをしてほしいの。ほらこのギラギラと輝く石を取っ払って…後胸元も少し詰めて何とかもう少しその、ほら?わからない?』


ヴィクトリアがモゴモゴと話すと横にいたミランが

『気品を出したい?』


ヴィクトリアは驚いたようにミランを見ると


『そう!それよ。これらはあまりにも品位を欠いているわ。できる?そして取っ払った宝石もまたいくらで売れるかしら?』


ヴィクトリアは今度は宝石商に詰め寄ると宝石商はドレスを手に取り、石を丁寧に査定し恐る恐るヴィクトリアを見ると

『本当によろしいのですか?これらはかなり希少価値の高いものですよ?』


ヴィクトリアは興味なさげに

『そう。でも構わないわ。だけどそれなりの金額で引き取って貰うわよ?だからこそ幾つもの宝石商に来てもらってるのよ?』


 ヴィクトリアの言葉に目を丸くお互いに視線を合わす宝石商らの後方から戸惑いを隠せないアレクセイとレイモンドがこちらを見つめていた。



『何をしている?』


声を発したアレクセイにヴィクトリアは平然と


『ご覧の通りでございますわ。不要な物を引き取って頂きますの。』

アレクセイとレイモンドはズラリと並べられたドレスを前に怪訝そうな表情で

『見た所まだ未使用な物が多そうですが、また新しく誂えると?』


レイモンドの言葉にヴィクトリアは先程から何度も話している内容に辟易としながら


『ですから、新しく誂えるとは言っておりません!不要な物を引き取って頂き、それ以外はお直しをお願いしてますの!』


あからさまにため息を落とすヴィクトリアに更に


『お直しって、2度と同じドレスを着ないと言われる妃殿下がですか?』


レイモンドは不機嫌丸出しでヴィクトリアを見た。敵意丸出しのレイモンドにヴィクトリアは少し頭を巡らせた。


…こいつが側近であっちが王太子か…。名札をつけろ!名札を。



『そんな前の事は知りません。』


顔を背けるヴィクトリアに尚も


『知らない事はないでしょう?』


レイモンドは被せるように言うと今度はミランが


『妃殿下は記憶を無くされておりまして…』


…正確には記憶は有るわ。麻子としての記憶はね。ヴィクトリアの記憶は知らないけどね。


ヴィクトリアは開き直り


『ですから以前の事を引き合いに出されても困りますの。今のお話しでご理解頂けます?』


いきなりの事実を前にアレクセイとレイモンドは驚きながらも2人で目配せをすると、その日は執務室へ戻る事にした。


…。


…。



その後ろ姿を見送るとヴィクトリアはくるりと振り返り


『さあ、どこが一番高値で引き取ってくれるのかしら?』


もはややり手のビジネスマンであった。

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