『婚約破棄から始まる物語』へ転生したってか？【完】

ステファニーとの再会

ヴィクトリアには大きな仕事が２つあった。先ずは一つ目。

トンプソン領の橋を使うであろう国々への営業である。もちろん隣国だけではない。遠く離れた国々も定期的に帝国へ出向く際にはどこかの橋を使わなければならない。営業職の経験がこんな所で活かせるとは嬉しい誤算である。

水を得た魚の様にヴィクトリアは社交を繰り広げていた。

ある程度まで来ると今宵の重大案件へとヴィクトリアは腹を括ったのである。

宴の主役であるステファニーに声を掛けるのはある意味危険と隣合わせ。誰もが注目するは必須。ヴィクトリアはそれでも尚ステファニーの元へと足を進める。


…超えなければならない。逃げては駄目。

ゆっくりと息を吐くとステファニーの前で優雅に膝を折った。


「この度はおめでとうございます。少しよろしいですか？」



ヴィクトリアは緊張の面持ちでステファニーを見るもステファニーは少しばかり驚きを見せるも笑顔で頷いた。


「では夜風にでも当たりましょうか。」

前を行くステファニーを追い会場の視線に耐えながらバルコニーへ出た。


「ステファニー様、私からのお祝いなど聞きたくもないでしょうが…」


前置きをしながら尚も


「その節は誠に申し訳ありませんでした。」


今のヴィクトリアにとっては知ったこっちゃない三角関係。しかし現時点でメープル王国の王太子妃となっているのは確かである。ヴィクトリアは自分が言えた義理ではない祝の詞を重ねて詫びた。


ステファニーはまっすぐにヴィクトリアを見つめ首を振った。


「どうぞ顔をお上げになって。私こそお礼を言わなければならないわ。だってこうしてレオナルドと結ばれたのは貴女のおかげでもあるもの。」


ヴィクトリアはゆっくりと顔を上げると

「それは結果論です。」


「でも感謝してますの。私とアレクセイ殿下は政略結婚。生まれながら私に人権なんてものは無かった。ただお人形のように言われるがまま。そんな人生から逃げる機会を頂いたのよ。アレクセイ殿下の真実の愛とやらがまだ何となくだけれど少しは分かった気がするの。」


「真実の愛…」


「そう貴女がたのようにね。」


「…」


ヴィクトリアはそれ以上返す言葉を見つけられずに居た時、助け舟の如くその声は後ろから掛けられた。


「流石、商会の娘のような営業力だったね！」


ヴィクトリアが振り返ると!





何とトンプソン伯爵領で出会ったハロルドが正装で微笑んでいる。装いこそ立派だが中身はそのまま。


…！


金魚のように口をパクパクさせているヴィクトリアを横目にハロルドはステファニーへ礼を取る。

「この度はおめでとうございます。」


ステファニーは微笑み膝を折ると


「ハロルド殿下ご無沙汰しております。」


…で、殿下ぁ？



ヴィクトリアは声を忘れステファニーとハロルドを交互に見た。



「あら、お知り合いでしたの？」


ステファニーの問に答えるはハロルド。


「知り合いって言えば知り合いか？」



ヴィクトリアを見るもヴィクトリアは未だ思考回路は停止中。


そこへロマニア王国国王であるレオナルドがやって来るとすかさずステファニーの腰をホールドし

「やぁ、久々だな。ハロ、元気にしていたか？そろそろお前も落ち着かないとお父上が案じておられたぞ？」

ハロルドはいつものように


「ひどいな。せっかく遠くから駈けつけた友への第一声がそれか？」


…と、友？


ヴィクトリアはかなり諸外国について短い時間ではあるが頭に詰め込んだ。今回だってその成果は十分すぎた。なのに何故？この男は？どこの王太子？


呆然と見つめるヴィクトリアにハロルドは


「そんなに見つめられては照れるよ。」


我に返ったヴィクトリアは頭をブンブンと横に振りすかさず目の前のレオナルドに膝を折った。


「この度はおめでとうございます」


ヴィクトリアは頭を垂れてレオナルドの次の言葉を待つも…



レオナルドはフレディックやステファニー同様目を丸くし固まっている。


「ハハハハ、流石は夫婦だね。同じ反応だよ！ってかどうして驚くのさ？」



我に返ったレオナルドは急いで礼を述べヴィクトリアの頭を上げさせた。

ハロルドはヴィクトリアに笑顔を向けると


「ほら、君が珍しく着飾っているからみんなびっくりしてるよ？私も初めは何度も自分の目を疑ったらね（笑）」


…違う意味で驚いていらっしゃるんだけどね。


ヴィクトリアは苦笑いを浮かべながらハロルドを見た。