『婚約破棄から始まる物語』へ転生したってか？【完】

トンプソン領

『おや、久々ぶりだな、レイモンド』


レイモンドは苦笑いを浮かべると


『ジョンも相変わらず元気そうだな。』


…ジョン？ジョン・トンプソンのジョンよね？


2人の久々の再会に驚いたように両者を見るヴィクトリアにトンプソン伯爵は楽しそうに笑う。


『ヴィクトリア、そう驚くでない。なに、レイモンドとはレイモンドがこんなに小さい頃から知っているさ。なぁ？レイモンド』


レイモンドはチラリとヴィクトリアを見ると一つ咳払いをし

『そんな事よりジョン、少し身体を伸ばしたいよ。』


徐ろにソファに横になるとトンプソンは


『アハハハ相変わらずだな、このボンボンは。まぁゆっくりするがよい。晩餐には領民から美味しいバゲットを貰ったからさっさと食べて寝ろ！』


ヴィクトリアはバゲットを受け取ると夫人の居るキッチンへと向かった。ヴィクトリアが部屋を出ていくのを見届けるレイモンドは起き上がりジョンとの再会を喜んだ。


『どうだ？進んでいるのか？』


プロジェクトの進捗を確認するレイモンドにトンプソンはにこやかに答える。


『あぁ、これもあの子のおかげだ。この静かな町に活気が溢れてきたよ。』


珍しくしみじみと語るトンプソンはキッチンを眺めている。


…。


レイモンドはテーブルに置かれる未来図を手に取り目を通してみた。想像を超えるスケールにこちらもまた驚いたようにキッチンを見つめた。


…。


二人の視線が集まるキッチンへと続く扉が急に開かれたと思えば、エプロンを付けてスープの鍋を持ったヴィクトリアが現れた。


『さぁ、自慢のミネストローネの出来上がり！バゲットといただきましょう！いま、夫人かフルーツを用意してくれてますからね』



にこやかにテーブルにセッティングしていくヴィクトリアをレイモンドは目を見開いて凝視していた。


『まぁまぁレイモンド。慣れろ。ここではヴィクトリアが毎日腕をふるってくれるんだ。そりゃレオンも初めはびっくりしてたさ。』


豪快に笑うとレイモンドをテーブルに促した。


トンプソンはスープを口に運ぶと


『これこれ。ちと個性的だがな。』


レイモンドも恐る恐る口に流し込むと


…普通に美味いな。


ヴィクトリアは嬉しそうにバゲットに手を伸ばした。


『こうして見てみると2人はなかなか似合いだな。どうだ？新婚という設定でいくか？』

！レイモンドは驚き思わずスープを吹き出した。



『な、何を言うか！妃殿下なるぞ？』

急いでふきんを取りに行くヴィクトリアを横目にトンプソンは


『なに、別に本当に結婚しろと言うのではない。あくまで設定だぞ？ここではヴィクトリアが王太子妃だと知る者は少ない。レイモンドは明日からヴィクトリアに張り付いておろう？誰がどうみても新婚だと思うのではないか？』


…だとしてもだな！


レイモンドは承服しかねる話に怪訝そうにトンプソンを見るも


『なるほど、それに乗っかるのは楽よね？』


ヴィクトリアは感心したかのように呟くとふきんでテーブルを拭きながら


『旦那さま？お行儀よく食事にしてくださいね？』


にこやかに微笑んだ。



…は？お前、先程までのしおらしさはどこへいったのだ？


レイモンドは頭を抱えながらまたもスープを口に運んだ。



…勘弁してくれよ。