『婚約破棄から始まる物語』へ転生したってか？【完】

久々の王宮

事の経緯を聞いたアレクセイは開口一番


『何故、お前たちが新婚なのだ？』


…は？


固まる２人。口を聞いたのはレイモンド。


『新婚ではなく、そういう設定ですが？』


アレクセイは眉間にシワを刻み


『当たり前だ。何故そういう設定なのだ？と聞いている。』


…？


『殿下、今拘るのはそこではありません。』


レイモンドがため息を落とすとアレクセイはキョトンとし


『金のこと？何が問題なの？我が国においては朗報じゃない？トンプソン伯爵は少しばかり面倒事が増えたけれども結果としてプロジェクトも進んでいるしトンプソン領の未来は明るいじゃない？何をそんなに危惧するかな？』



統率者となるアレクセイの一言に２人は返す言葉もなくなった。



それからしばらくしてからエドワードが一人の男を伴い王宮へと報告に上がった。


『エド、どうであった？』


王太子夫妻の座る豪華絢爛な椅子の後方から待ち切れないレイモンドが声を上げた。


『レイ、落ち着け。エドワードも今来たばかりじゃないか。さぁエドワードご苦労であったな。』


ヴィクトリアは初めて見るエドワードはいかにもエリートといった雰囲気ではなくどちらかといえば…申し訳ないがオタク？のような雰囲気であった事に何だか少しばかり嬉しくなった。



『はい、あれは故意に隠されたものではありません。トンプソン領に金山が発見されたということです。』



アレクセイは一つ頷くと


『良かった。面倒事であれば進んでいるプロジェクトの足を引っ張る懸念があったが大丈夫そうだな。で、エドワード。これから先申請やら管理などで忙しくなる。それを狙う者も出てくるであろうな。』


黙って頷くレイモンドとは裏腹にエドワードは軽い口調で


『私はトンプソン伯爵令息ですから、喜んで精進しますよ』


にこやかに笑うエドワードにヴィクトリアは

…本当に分かってるのかしら


ヘラヘラとした表情から一変させたのは隣で頭を垂れる男をアレクセイの前に促した時であった。

エドワードは男を隣に促すと


『殿下、ご報告です。

ほら、前へ』



男は恐る恐る歩みを進め緊張の面持ちで顔を上げた。

『良い申してみよ。』


『はい、私はトンプソン領のカイザルと申します。私の妹がその、発見された金を持ち出したようで…こうして、その、お返しにやって参りました。トンプソン伯爵にお返しに上がりましたら王宮へと…！』


モゴモゴと口籠る中、男は視線の先のヴィクトリアを捉えたのである。驚き腰を抜かして座り込んだ男をエドワードは苦笑いで支えると代わりに頭を垂れた。


『妹の名は？』


アレクセイが短く問うと男は瞬きを繰り返しヴィクトリアを見つめながら


『マ、マリアと言います。』


ヴィクトリアはそっと目を閉じた。


この国では金山は王所有となる。その金山から産出された物は全て王宮管理の元適性に処理されていく。それを中抜きするは厳罰がくだされるは周知の事。


『カイザルと言ったか？お前もおかしな事を言う。正式に金山と登記されるのはこれからだ。だからお前の妹とやらが掘り出した物体は金ではない。そう案ずるな。例えそれが金だとしても金ではない。私がそう言うのだから金ではないのだ。よいな？』


アレクセイは差し出され金をエドワードに戻すと

『マリアへ頼む。』


驚きの余り固まった男と同様にここにもまた一人固まり口をポカンと開けた者がいた。


そう、もちろんヴィクトリアである。


エドワードは一つ頷くと微笑みながら


『父上の言う通りでした。私はここに来て良かった。レイモンド！これからも頼むな！』


嬉しそうに男を連れて出て言った。