『婚約破棄から始まる物語』へ転生したってか?【完】

mako

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マリアという子どもの正体

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項垂れるアン王女を他所にアレクセイはルドルフに語る。


『マリアの言葉には訛りがあった。それも珍しい訛りであると。恐らく各地の訛りが混ざっていると。そこから普段マリアが口遊む歌が各国の音楽であることから、マリアの母は踊り子なのではないか…と。』


これにはハロルドも目を見開いた。



…見てきたのかよ。当たっている…。


『これはヴィクトリアが私に報告した話だよ。伊達にトンプソン領に通い詰めていただけあるだろ?』


ハロルドは驚きの表情でヴィクトリアを見た。


『踊り子の子ども。それでいて常日頃、見張りが付く身分。そこまでくればもう簡単だよね?貴国の国王陛下は踊り子には目が無い。そこから先は結論まで時間は掛からなかったよ。ってかこれがどういう事かわかる?君たちとの決定的な違いだろ?』


…。


…。


『だからね?君たちは身を案じてそれらを排除してきた。だけどハロルド殿下はその排除した者らに力を注ぎ王族としての使命を果たせさせる様に尽力してきたんだ。それも立太子するずっと前からだ。どちらが王太子として統率者として相応しいのか一目瞭然だろ?』


ルドルフもまた放心しその場に座り込んだ。


『私は、私は生まれながら此処で父上の背中を見て育ってきたのだ。兄上が好き勝手放浪している間…私は』

慰めの一言があっても良いこの状況でアレクセイは


『本当だよ。国王陛下の背中から何を学んだの?学んだつもりじゃ意味ないからね?君が自己満足している間、放浪していた兄は君たちに排除された者に手を差し伸べ、各国と太いパイプを繋いでいたんだよ。』


堪らず立ち上がったアン王女は



『お兄様は努力を重ねていらっしゃいましたわ!』


『だから何?』


目を見開いたアン王女は


『貴方、血も涙もない王太子だわ。メープル王国が不憫でならない!お兄様は民の為に日々力を注いでいらっしゃるのに。』


『王族だもの民の為に力を注ぐは当たり前だよね?それに例え一生懸命だとしても結果が出せていない以上、王族のお荷物だよ。だってそれだけの特権を生まれながら与えられし身分だからね?責任は果たさないと。』


大きく伸びをしたアレクセイは今更ながらの話をさせられ少し不機嫌になりつつあった。

『で?どうするの?これ。』


アレクセイは2人を指差すとハロルドに問うた。


ハロルドが頭を逡巡させているとルドルフが力なく口を開いた。床に座り込みまるで何かを乞うみたいに…


『ヴィクトリア様。』




…え?この空気で私?


ヴィクトリアは心の声を押し込めルドルフに微笑んだ。


『貴女がトンプソン領に通い詰めていたのは兄上と密会する為では無かったのですか?』

『は?』


思わず我も忘れて地のままのトーンで発した言葉にヴィクトリアは自分でも驚きを隠せなかった。


『あのさ、もう疲れ果てたんだよ。不機嫌になってきた所に不機嫌なる話題は謹んでくれよ!』


睨みつけるアレクセイの横でヴィクトリアは隣国王太子妃の仮面を装着していた。


『サンライズ王国との架け橋だけでなく私は我が国の橋を大切に思ってます。あそこの橋は近年放置されたままでしたので危惧しておりましたの。そしてやっと完成したならば一人でも多くの人にあそこを利用してもらいたかっただけですのよ?

先ほども殿下がおっしゃいましたがどこの国も忍びで他国で働く者がおります。その者がいつでも祖国に帰れるように、祖国への唯一の架け橋となるのですもの。誰だって家族の居る国を離れ職務といえど身分を偽り遠く離れた異国の地に行きたい者などおりませんわ。国の為に、メープル王国の為に懸命に働いて下さる者への微力ながらせめてもの誠意ですわ。』


美しく微笑むヴィクトリアの横顔にアレクセイは真っ赤になるとその後方でハロルドもまた顔を赤らめていたのである。


ルドルフは静かに目を閉じると

『私は何を見てきたのか…噂話を鵜呑みにし兄上とヴィクトリア様を軽蔑し、このような…このような…』

眉間を寄せ絞り出す言葉を受けたアレクセイは黙ってハロルドに目配せをするとヴィクトリアと共に謁見の間を後にした。












    
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