たまたま王太子妃になっただけ【完】

初夜からの執務

一生分の神経を使ったオリヴィアはベッドに潜り込んだら秒で夢の中であろうが、今宵はそうもいかない。オリヴィアとて理解している。


湯浴みを済ませると美しく磨かれスザナは嬉しそうにオリヴィアの部屋の奥にある、隣のアレクセイとの部屋を繋ぐ扉の鍵をこの日初めて外した。


『では、素敵な夜を。』


無常にもスザナは振り返る事なく部屋を出ていくと扉がガチャンと閉められた音だけが響き渡っていた。


…。



王女のプライドを保つよう背筋を伸ばすもオリヴィアは自身が震えているのが分かった。目を閉じて瞑想していると神経が研ぎ澄まされ王宮内に響く生活音が遠くで聞こえる。先程まで開催された夜会の名残のように庭からも人々の声が入ってくる。すると近い所で扉が開かれた音が聞こえた。オリヴィアが大きな瞳を開いた。


『オリヴィア、お疲れだね。』


相変わらずの笑顔でアレクセイがガウン1枚で入ってきた。


『さあ、明日からは執務も一緒だからね。何でも聞いてくれて構わないから。』


そう言うとアレクセイはベッドに入ると


『オリヴィアもさあ、おいで。寝るよ。』



…。…引っ掛けかしら？


考え込むオリヴィアを見てアレクセイは吹き出した。


『スザナの言う通り面白い程顔に出るんだね。怖がらなくても大丈夫だから、さあ、寝よう。』


…。

オリヴィアは初対面で感じたアレクセイと目の前に居るアレクセイの言動があまりに乖離しすぎていて混乱していた。



『全く、頑固だね、我が妃は。』

アレクセイはベッドから起き上がりオリヴィアを抱えるとベッドに寝かせ自分もオリヴィアな腕枕をすると驚く程早く寝息を立てた。


…本当に寝てるわ。

…どうして？ってかいいの？おつとめは？私のここに来た役割って…寝ていいの？


オリヴィアは一晩中頭を悩ませ眠りについたのは朝日が登っだ後であった。



目を覚ますと隣のアレクセイは居ない。シーツも冷えていることから朝早くに起きていることがオリヴィアにも分かった。


オリヴィアが寝室を出て私室に戻ると既にスザナが待っていた。


『おはようございます。昨夜はお疲れ様でした。』


…。

オリヴィアは罪悪感から俯くと


『妃殿下、照れなくても大丈夫ですよ。殿下は昨日は無理をさせたからゆっくり寝かせておくようにとの事でございましたから。』


…余計に罪悪感だわ。


『殿下は？』


『既に執務室ですよ。』


…。


オリヴィアは同じ王族として自分を恥じた。こうして朝早くから国の為に執務を行うアレクセイに不信感を勝手に抱いていた自分を恥じたのである。


オリヴィアは珍しく自分の意思をスザナに話した。


『今日は朝食はいらないわ。すぐに執務に取り掛かるから準備をお願い。』


スザナは一瞬驚きを見せたがすぐに笑顔となり侍女を集めた。


初めて案内された執務室にはオリヴィアに仕える者が既に執務を行っていた。

『おはようございます。お早いですね。私は妃殿下にお仕えさせて頂きますレオナルドと申します。』


レオナルドは笑顔で語ると一連の執務内容を話しだした。オリヴィアとて王女である。何とかなりそうな内容に安堵しながら


『一連の流れは把握したわ。至らない所もあると思うの。よろしくお願いしますね。』


オリヴィアは早速執務に取り掛かった。



レオナルドはもちろん、オリヴィア自身も驚いた程オリヴィアは仕事が早い且つ正確であった。



…なかなか性に有ってるかも。


面白い程捗る執務は午前中にはほとんど終わっていた。


『妃殿下、お国では執務を担当されていたのですか？』

驚いたレオナルドに


『いいえ、全く。貴方の指導が素晴らしいのね。』


…指導って何もしてねえけどね？


レオナルドは心の中でつぶやいた。