愛するということ【完】

mako

文字の大きさ
18 / 61

会談

しおりを挟む
エレノアにとってのゴール!
それは長い長い廊下の奥にある、重厚感溢れる扉の前で待つウィリアムを捉えたのである。


エレノアは思わず先程の衛兵をノックアウトした笑顔をウィリアムに向けた。それほどまでに長い廊下であったのだ。ゴールの喜びのスマイル。

テオドールはエレノアを軽く睨むと

…衛兵でもあるまいしそんなもので殿下がノックアウトされるか!


…!されてるよ(泣)



テオドールは俯き真っ赤になるウィリアムを見て頭を抱えた。





エレノアがウィリアムの腕に手を通すとその扉は静かに開かれた。

出迎える皇太子の隣にはあのどこぞやらの王女が他所行きの笑顔で微笑んでいる。

ウィリアムとエレノアは礼を取ると促されたテーブルに付いた。緊張すべき所であろうがエレノアは無駄にフカフカの椅子に興味を取られていた。


皇太子と王太子の小難しい話しにわけもわからず相槌をうつステファニーに対しエレノアはまだ椅子のクッションを何度も確かめている。

しばらくすると皇太子のアルビオンがお茶を手にし和やかな雰囲気と変わったのを確認するとエレノアもようやく椅子から目の前の2人に興味を移した。


『相変わらずだな。ノア。』

アルビオンの言葉にウィリアムは一瞬驚きをみせたが目の前のステファニーは明らかに動揺している。

それはそうだ。昨日の醜態がある。エレノアが何を話すのか一語一句逃さぬようにエレノアを見つめる。


『御無沙汰しておりますわ。』

エレノアの返しにアルビオンは

『貴女の為に用意したのだ、ほら食べろ!』

目の前のショコラを指し示すとウィリアムは

『エレノア、殿下とは親しいのかな?』

紳士的な微笑みにエレノアではなく目の前のステファニーがノックアウト。


『親しいと言いますか…あの…』

アルビオンを伺いながら言葉を濁すエレノアにアルビオンは

『なに、過ぎた事だ。実はな、私はアミュレットに長く求婚し続けてておりよく通っていたのだ。』


!驚くウィリアムとステファニー、後ろに控えるテオドールさえもひっくり返りそうになっている。


『いやいやノアにではないぞ?アミュレット第1王女のリネット王女にだ。』

慌てて付け加えアルビオンにあからさまに怪訝そうな表情を向けるウィリアム。

『アミュレットはとても愛の深い素晴らしい国だ。だからこそリネット王女は私の熱心な求婚にも靡かなかったのだろうね。まあ、昔の話だが。』

そう言うとアルビオンは隣の婚約者であるステファニーの肩に手を回した。

『あの頃の跳ねっ返りが見事なまでの変貌だな、ノアは。皆でよく愛について話したものだ。』


…愛?エレノアとウィリアムの対局にある愛。それを語り合うなどどうゆう事か?
ウィリアムはもちろんテオドールも不思議そうにエレノアを見た。


『愛にも色々ございますわ。家族への愛。友人への愛。異性への愛。ペットへの愛。我らに仕える者たちへの愛もあれば、民への愛もありますもの。それらの比重は皆それぞれ異なりましょうが…』


美しく凛と語るエレノアに見惚れていると
アルビオンが懐かしそうに言う。


『そうだ、その愛の比重でアミュレットの王女、特にノアは真実の愛以外の愛の比重が多すぎて嫁ぐ事は難しいと悩んでおったな?』


『そうでしたわね。王族に生まれて何の役にも立てないと嘆いておりましたのが昨日の事のようですね!』


『ハハハ!そうだな。だがアミュレットは政略結婚は必要ないとお父上が常に言っておったではないか?』


…。


2人にしかわからない話しにウィリアムは呆然とするも、ステファニーはその呆然とするウィリアムを見つめて顔を赤らめていた。

その様子を客観的に見つめるテオドールはそのおかしな状況に眉間にシワを寄せていた。




しびれを切らしたウィリアムはアルビオンに

『遅れましたが、ご婚約おめでとうございます。』


アルビオンは小さく頷くと


『ビシャリン公国のステファニー公女だ。この度ご縁があり帝国に迎える事になった。』


…?ビシャリン公国?ウィリアムはもちろんエレノアもテオドールも知らない公国である。


『ご挨拶が遅れました。ステファニー・ビシャリンでございます。』

昨日とは打って変わって可愛らしく微笑むステファニーにエレノアは目の前ではあるが瞳を何度もパチクリさせていた。

…怖っ。


ウィリアムは完璧な王子様スマイルで

『ウィリアム・ヴェルヘルトです。』


エレノアはステファニーの恐ろしさに今更ながら身震いがしたが、ここはあくまで初対面を装い


『お初にお目にかかります。エレノア・ヴェルヘルトでございます。以後お見知り置きを。』

昨日に引き続き2回目の自己紹介である。流石のエレノアも引き攣りながらの笑顔を送った。


こうしてヴェルヘルトと帝国の会談は終わりをむかえ明日からの自由時間である。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

完璧すぎると言われ婚約破棄された令嬢、冷徹公爵と白い結婚したら選ばれ続けました

鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎて、可愛げがない」  その理不尽な理由で、王都の名門令嬢エリーカは婚約を破棄された。  努力も実績も、すべてを否定された――はずだった。  だが彼女は、嘆かなかった。  なぜなら婚約破棄は、自由の始まりだったから。  行き場を失ったエリーカを迎え入れたのは、  “冷徹”と噂される隣国の公爵アンクレイブ。  条件はただ一つ――白い結婚。  感情を交えない、合理的な契約。  それが最善のはずだった。  しかし、エリーカの有能さは次第に国を変え、  彼女自身もまた「役割」ではなく「選択」で生きるようになる。  気づけば、冷徹だった公爵は彼女を誰よりも尊重し、  誰よりも守り、誰よりも――選び続けていた。  一方、彼女を捨てた元婚約者と王都は、  エリーカを失ったことで、静かに崩れていく。  婚約破棄ざまぁ×白い結婚×溺愛。  完璧すぎる令嬢が、“選ばれる側”から“選ぶ側”へ。  これは、復讐ではなく、  選ばれ続ける未来を手に入れた物語。 ---

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

婚約破棄されたので隣国に逃げたら、溺愛公爵に囲い込まれました

鍛高譚
恋愛
婚約破棄の濡れ衣を着せられ、すべてを失った侯爵令嬢フェリシア。 絶望の果てに辿りついた隣国で、彼女の人生は思わぬ方向へ動き始める。 「君はもう一人じゃない。私の護る場所へおいで」 手を差し伸べたのは、冷徹と噂される隣国公爵――だがその本性は、驚くほど甘くて優しかった。 新天地での穏やかな日々、仲間との出会い、胸を焦がす恋。 そして、フェリシアを失った母国は、次第に自らの愚かさに気づいていく……。 過去に傷ついた令嬢が、 隣国で“執着系の溺愛”を浴びながら、本当の幸せと居場所を見つけていく物語。 ――「婚約破棄」は終わりではなく、始まりだった。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

私のための戦いから戻ってきた騎士様なら、愛人を持ってもいいとでも?

睡蓮
恋愛
全7話完結になります!

アンジェリーヌは一人じゃない

れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。 メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。 そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。 まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。 実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。 それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。 新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。 アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。 果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。 *タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*) (なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

処理中です...