婚約破棄から始まる物語【完】

メープル王国の日常

ヴィクトリアは今日も朝から朝食をしっかり満腹まで頂き、友人を招きお茶会をし、その後はオーダーしていたドレスが出来上がってきたので、それに合わせた宝石を取り寄せていた。

そんな幸せな時間に現れたのはメープル王国王妃であるヴィオランテであった。ヴィクトリアは滅多に顔を合わせる機会のないヴィオランテに驚きながらもカーテシーをする。

ヴィオランテはヴィクトリアは見ようともせずに部屋に入るとソフィアに腰を下ろした。

戸惑うヴィクトリアと侍女たちをよそに、ヴィオランテは自分の連れてきた侍女にお茶を用意させるとヴィクトリアにも促した。

『‥』

仕方なくソフィアに腰を下ろしお茶に手を伸ばすとヴィオランテが口を開く。

『毎日、楽しそうで何よりだわ。』

ニコリともせずにヴィクトリアを見据える。


『‥』


『貴女は王太子妃教育も途中で投げ出しておいて、その割にはお元気そうなのね？』


『‥』



『貴女の唯一のお仕事はどうなっているのかしら？』

唯一とは子づくりの事であろう。

『それは‥その、アレクが‥』

俯きながらヴィオランテを見上げると、

『あら？お話しもまともに出来ないのかしら？』

『‥』

ヴィクトリアは小さく震える。
悔しい、伯爵令嬢だからって馬鹿にされている。
そう感じたヴィクトリアは唇を噛んだ。


『伯爵令嬢だとかそんな事関係ないわ。今の貴女はメープル王国の王太子妃よ。

陛下も私も貴女に過度な期待は寄せていないの。でもね、限度というものがあるわ。あなたは王太子妃の仕事を何だと思ってるのかしら？

美しいドレスも宝石も貴女の自己満足の為にあるのではなく、王太子妃としての威厳を保つ為のもの。
お茶会は社交の一環としての情報収集であり、仲良しの雑談会では無いの。』


『‥』

ヴィクトリアは王太子妃教育以来の耐え難い時間に辟易としていた。

そしてヴィオランテもまた辟易としている。
我が子の失態によりステファニーを失い、その代償として目の前のヴィクトリアは王太子妃として長い目で見守るつもりでいたが、いつまでたっても成長すらしないヴィクトリアを前にそれ以上の言葉は見つからなかった。


ヴィオランテはヴィクトリアの部屋を出ると外の風に当たりたくなりバラ園まで足を運んだ。
その途中でレイモンドを見つけると、レイモンドに声を掛けた。


『レイ、王太子妃はどうなってるのかしら？』

困った表情のヴィクトリアにレイモンドは察した様に苦笑いをしながら


『悪いお方では無いのですがどうも頭ん中が空っぽというか、お花畑でして‥』


ヴィオランテは顔を歪め

『どうするつもりなの？』


『どうしましょうか？』


‥

２人は何事も無かったかの様にすれ違い、お互い歩みを進めた。