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愛情からの怒り
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アレクセイはアナスタージアの離宮へ渡った。
『お疲れ様、アレク』
小さく微笑んだアナスタージアにアレクセイはいつものように抱きしめる。
いつものようにソファに腰を下ろし、他愛のない話をしながらふとアレクセイがアナスタージアに問う。
『アナ、例のハンカチは出来上がった?』
アナスタージアは一瞬、動きを止めたが
『まだ練習の練習なのですよ』
アナスタージアはお茶を静かに口にする。
アレクセイはソファから立ち上がり、
『練習の練習でもよいから見せてよ』
『まだ駄目なのです。きちんとした物をお渡ししたいもの。』
困った顔のアナスタージア。
『レイモンドは店に並んでいそうだと言ってたよ。随分練習したんだね。』
『まだ途中なの‥』
俯くアナスタージアに
『こんなにあるのに?』
バスケットに入り切らない程の白いハンカチを手に取るアレクセイ。
『アナ、私にくれないの?』
アレクセイは怒りを覚えた。何でもまずは自分に話してくれると思っていたはずが、レイモンドはアナスタージアの気持ちを理解できていたのに、自分は分からなかった事が。
ヴィクトリアに呼び付けられた事もレイモンドから聞いた。
それと同事に目の前のハンカチを見て驚愕した。
本当にヴィクトリアから貰ったハンカチと瓜二つ。
申し訳ないが前に見たアナスタージアの刺繍はお世辞にも上手くは無かった。それはそれで愛おしかったが目の前の無数にあるハンカチは並べて見ると努力の過程がよくうかがえた。
『アナスタージア‥』
久々に愛称ではなく名を呼ばれたアナスタージアはアレクセイを見上げる。
『何か話す事は?』
キョトンとするアナスタージアに、アレクセイはまた怒りの感情が湧き上がるのが分かった。
『アナ、君はご両親の様な2人になりたいと言っていたであろう?』
話の見えないアナスタージアは言葉につまる。
『‥』
『ヴィクトリアからハンカチを貰ったよ』
アレクセイはじっとアナスタージアの目を見て話す。
『そうですか‥』
アナスタージアは俯きながら答える。
『ほら、アナのとそっくりだろ?アナはどうしてくれないの?側妃だから?
それにどうしてヴィクトリアに呼び付けられた事を私に話さない?アナ。何でも話してくれるのでは無かったのかな?』
アレクセイは返ってこないアナスタージアからの言葉を黙って待っていた。
『ヴィクトリア様はとても刺繍がお上手で、私お部屋に呼ばれて見せて頂いた時には、驚きどうしたらこんなに美しく刺せるのかを観察しておりましたの。私にとっては有意義な時間で、部屋に戻って無我夢中で何度も何度も刺繍を刺しましたわ。そうしましたら、こんなになってしまいまして‥でもとても上手く刺せたハンカチを眺めながら気づいたのです。ヴィクトリア様と同じものであることに。』
『だから私にくれないんだ?』
じっと目を離さないアレクセイに
『いいえ、その。』
アナスタージアはソファから立ち上がり、バスケットではなく奥の引き出しから一枚のハンカチをアレクセイに手渡した。
『‥何、これ。最高なんだけど?』
アレクセイは手の中にあるハンカチを見つめた。
ヴィクトリアと同じ白いハンカチに王家の紋章。その下にはA♡Aとある。
俯くアナスタージアに
『どうして隠してるの?もっと早くにちょうだいよ』
『いえ、それは私のでして‥アレクのはこれ‥』
まだ途中のハンカチがあった。
『何で何で、こっちでいいからちょうだい。それをアナのにすれば良い。』
『ダメなのです。これは祈祷をしてもらってあるハンカチなので、これでなくてはならないの。』
アナスタージアは真面目で几帳面。何度も何度も練習して本番として祈祷をお願いしていた一枚をアレクセイのハンカチとしていたのだ。
『‥アナ。君は隠してた訳じゃなかったの?ヴィクトリアに酷い事言われて我慢してたのじゃなかった?』
またもや、キョトンとするアナスタージア。
『ごめんごめん、私は勝手に誤解して勝手に怒ってたんだね。』
アナスタージアは驚いた様に
『怒ってらしたのですか?』
『だってアナは何にも話してくれないもん。ってアナにとっては話すような事でも無かったって事か。本当君は斜め上をいくね。じゃあ、このバスケットのハンカチ全部もらっていくね!』
『え!駄目駄目。そこにはまだ絵にもなっていないものも混ざってますわ!』
『紋章だと思わなければいいさ。』
『アレク!』
こうして大量のハンカチを持ち帰るアレクセイであった。
『お疲れ様、アレク』
小さく微笑んだアナスタージアにアレクセイはいつものように抱きしめる。
いつものようにソファに腰を下ろし、他愛のない話をしながらふとアレクセイがアナスタージアに問う。
『アナ、例のハンカチは出来上がった?』
アナスタージアは一瞬、動きを止めたが
『まだ練習の練習なのですよ』
アナスタージアはお茶を静かに口にする。
アレクセイはソファから立ち上がり、
『練習の練習でもよいから見せてよ』
『まだ駄目なのです。きちんとした物をお渡ししたいもの。』
困った顔のアナスタージア。
『レイモンドは店に並んでいそうだと言ってたよ。随分練習したんだね。』
『まだ途中なの‥』
俯くアナスタージアに
『こんなにあるのに?』
バスケットに入り切らない程の白いハンカチを手に取るアレクセイ。
『アナ、私にくれないの?』
アレクセイは怒りを覚えた。何でもまずは自分に話してくれると思っていたはずが、レイモンドはアナスタージアの気持ちを理解できていたのに、自分は分からなかった事が。
ヴィクトリアに呼び付けられた事もレイモンドから聞いた。
それと同事に目の前のハンカチを見て驚愕した。
本当にヴィクトリアから貰ったハンカチと瓜二つ。
申し訳ないが前に見たアナスタージアの刺繍はお世辞にも上手くは無かった。それはそれで愛おしかったが目の前の無数にあるハンカチは並べて見ると努力の過程がよくうかがえた。
『アナスタージア‥』
久々に愛称ではなく名を呼ばれたアナスタージアはアレクセイを見上げる。
『何か話す事は?』
キョトンとするアナスタージアに、アレクセイはまた怒りの感情が湧き上がるのが分かった。
『アナ、君はご両親の様な2人になりたいと言っていたであろう?』
話の見えないアナスタージアは言葉につまる。
『‥』
『ヴィクトリアからハンカチを貰ったよ』
アレクセイはじっとアナスタージアの目を見て話す。
『そうですか‥』
アナスタージアは俯きながら答える。
『ほら、アナのとそっくりだろ?アナはどうしてくれないの?側妃だから?
それにどうしてヴィクトリアに呼び付けられた事を私に話さない?アナ。何でも話してくれるのでは無かったのかな?』
アレクセイは返ってこないアナスタージアからの言葉を黙って待っていた。
『ヴィクトリア様はとても刺繍がお上手で、私お部屋に呼ばれて見せて頂いた時には、驚きどうしたらこんなに美しく刺せるのかを観察しておりましたの。私にとっては有意義な時間で、部屋に戻って無我夢中で何度も何度も刺繍を刺しましたわ。そうしましたら、こんなになってしまいまして‥でもとても上手く刺せたハンカチを眺めながら気づいたのです。ヴィクトリア様と同じものであることに。』
『だから私にくれないんだ?』
じっと目を離さないアレクセイに
『いいえ、その。』
アナスタージアはソファから立ち上がり、バスケットではなく奥の引き出しから一枚のハンカチをアレクセイに手渡した。
『‥何、これ。最高なんだけど?』
アレクセイは手の中にあるハンカチを見つめた。
ヴィクトリアと同じ白いハンカチに王家の紋章。その下にはA♡Aとある。
俯くアナスタージアに
『どうして隠してるの?もっと早くにちょうだいよ』
『いえ、それは私のでして‥アレクのはこれ‥』
まだ途中のハンカチがあった。
『何で何で、こっちでいいからちょうだい。それをアナのにすれば良い。』
『ダメなのです。これは祈祷をしてもらってあるハンカチなので、これでなくてはならないの。』
アナスタージアは真面目で几帳面。何度も何度も練習して本番として祈祷をお願いしていた一枚をアレクセイのハンカチとしていたのだ。
『‥アナ。君は隠してた訳じゃなかったの?ヴィクトリアに酷い事言われて我慢してたのじゃなかった?』
またもや、キョトンとするアナスタージア。
『ごめんごめん、私は勝手に誤解して勝手に怒ってたんだね。』
アナスタージアは驚いた様に
『怒ってらしたのですか?』
『だってアナは何にも話してくれないもん。ってアナにとっては話すような事でも無かったって事か。本当君は斜め上をいくね。じゃあ、このバスケットのハンカチ全部もらっていくね!』
『え!駄目駄目。そこにはまだ絵にもなっていないものも混ざってますわ!』
『紋章だと思わなければいいさ。』
『アレク!』
こうして大量のハンカチを持ち帰るアレクセイであった。
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