婚約破棄から始まる物語【完】

国際会議の準備

メープル王国では国際会議で各国王族を迎える準備が着々と進んでいる。

10日間にものぼる長い日程の間、会議はもちろん、その後もアレクセイは各国王族との個別の時間も用意されている。

会議から最終日の夜会までの間、各国王族のもてなしはメープル王国貴族らに割り当てられることになっていた。

シルビア・ランドルト候爵令嬢の候爵家はダリス大王国のもてなしを任されている為、その間はシルビアの公爵夫人教育は一時休止となる。


候爵家はランドルト候爵と令息のアーノルド、令嬢のシルビアでそれぞれダリス大王国のフリードリヒ第一王子を担当することになっていた。


シルビアも５日目の孤児院視察と最終日の王宮バラ園散策を担当することになり、準備に追われている。

『シルビア、抜かりはないな？』


ランドルト候爵は念入りにスケジュールを確認しながら問う。

『お任せ下さい、お父様。』

シルビアは警護の数や、休憩の時間配分など丁寧にチェックしている。

候爵は満足気に頷く。

どこの家門も力量を試される国際会議、王国はピリピリした雰囲気の中、国際会議を迎える事になった。



一方の王宮では、国際会議の中核を担う為、一段と緊張モードが増している。


『レイ、個別日程の段取りは大丈夫か？』

アレクセイが最終確認を行いながら問う。

『あぁ、大丈夫だ。夜会はアナスタージアが確認しているから大丈夫だし、後は‥問題無さそうだ。』

２人で最終確認を終え、一息をついた。


ソファになだれ込むように寝そべるアレクセイは思い立ったように

『ところで、シルビア嬢はどこの担当だ？』

レイモンドは書類を確認しながら、

『ダリス大王国のようですね。』


『ようですねってお前、知らなかったのか？』

レイモンドは不思議そうに

『え？アレクも知らなかったから聞いたのだろう？』


アレクは起き上がり


『いやいや、私はそこまでは知らないけれど、お前は仮にも婚約者だろう？』

『婚約者と言ってもこれはそれぞれの家門が担当だから、ランドルト候爵が付いているからね。』


『いやいやそういう言ではなくて‥』

アレクセイはやれやれと言うふうに息を吐く。

レイモンドは怪訝そうに

『なに？おもむろに溜息なんてついて。』

アレクセイは呆れた表情で

『えっと？ダリス大王国って今回第一王子のフリードリヒ殿だろ？』

『そうだね。』


『彼は王子様のお手本の様な男だよ？気にならない？』

『‥』


『フリードリヒ殿は完全無欠の王子様だろ？シルビア嬢だってあれだけの美貌だよ？』


レイモンドはアレクセイの言いたい事を理解したように首を縦に振り

『ダリス大王国は王族同士の聖なる力を求める国だよ？アレクの思う様な展開にはならないよ～』

‥まぁ、なったらなっただけどね。

『なったらなったなんて思ってないよね？』

アレクセイはレイモンドを小さく睨んだ。

『アハハハ、そんなことより明日からだよ。もっと悩むべき事は他にあるだろう？』


そう言って、執務室を後にした。


‥さあ、明日からは忙しくなる。