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爆弾処理
しおりを挟む俺の仕事は少し特殊なものだ。
普通の仕事よりかなりの危険を伴うことになる仕事。
下手をすれば命を失う。
俺の仕事は、爆弾処理。
俺には相棒がいる。
彼は、俺より年齢が1つ下の男だ。だが、技術ははっきり言って俺より優れている。
しかし、精神面では俺のほうが強い。つまり彼はプレッシャーに弱い。
だから俺達の爆弾処理は、彼が主な処理を、俺は彼の心の支えとなって2人で一人前の爆弾処理班となっていた。
俺達コンビは、いままでたくさんの爆弾処理をしてきた。
その経験から、2人が組めばどんな爆弾だろうと必ず解体できた。
必ず解体できる自信があった。
今回の爆弾処理も最初は楽勝だと思っていた。だが意外にも厄介だった。
はっきり言って今までのどの爆弾よりも厄介だ。
相棒のプレッシャーがいつもより酷く、1つ間違えば爆発する危険が増していた。しかしこんな時こそ俺が頑張らなくては。
爆弾を解体し始めてすでに3分ほど経っていた。相棒の額にも俺の額にも汗がにじんでいる。
今回も解体は相棒がしている。俺は彼の心が挫けないようにプレッシャーに負けないように励ます役をしている。
爆弾は大量の液体窒素爆弾で爆発すれば俺達どころか俺達の周辺もただでは済まない。幸いなことに時限タイマーない。
俺達は慎重に爆弾処理をしている。
「くそっ!なんでこんなことに!」
相棒が嘆き始めた。俺はそんな相棒に励ましの言葉を送る。
「やけくそになっちゃ駄目だ。冷静にやれば必ず上手くいく。自分の腕を信じろ」
そんな俺の言葉に相棒は
「分かってます。必ず解体して見せます」
相棒は少し、勇気がわいたようだ。
それからしばらくは何事もなく相棒は解体を進めていく。
相棒の額から汗が流れる。俺の額にも汗が伝う。
いいようのない緊張感、一歩間違えれば死、このプレッシャーは想像を絶する。だがこのプレッシャーに負けるわけにはいかない。
それは死を意味するから。相棒にもプレッシャーに負けないように励ましの言葉を送る。
「大丈夫だ。うまくいっている。順調だ。落ち着いていけ」
「はい、ありがとうございます。大丈夫です」
相棒はかなり落ち着いているようだ。
相棒は少しずつ少しずつ爆弾を解体していく
「あと少し・・・」
相棒から独り事がこぼれる。
そのとき相棒の手の汗で手に持っていた解体器具がすべり落ちた。
器具は爆弾の隙間へと入ってしまった。
「すいません!」
相棒が間髪いれず謝る。
「だ、大丈夫だ・・・。気にするな。もうそれは取れない新しい器具を使え」
それを聞いた相棒は、新しい器具を手に持ち再び爆弾の解体を始めた。
相棒は爆弾を解体しながら突然話始めた。
「もう少しで解体は終了します。ここまでやってこれたのは木村さんのおかげです」
いまさらだが俺の名前は木村という。相棒の名前は村瀬という。
「いいや、俺は何もしちゃあいないさ。村瀬のがんばりがあったからこそだ。礼を言うよ」
「礼なんて、そんな・・・。本当はこんなことにならなければ・・・」
村瀬は悔しそうな顔をしている。
「そんな顔するな、村瀬。仕方がない。少なくともお前のおかげでみんなが助かる。それでいいじゃないか」
「でもっ!!」
村瀬の声が響いた。
「いいんだ。さぁ後少し、落ち着いて解体するんだ」
しばらくの沈黙の後、村瀬は小さくうなずいた。
村瀬の眼からは涙が出てきていた。それを見た俺は村瀬に話始めた。
「村瀬、いままでありがとうな。俺はおまえのおかげでここまでやってこれた。おまえはこれからも爆弾処理班として頑張れ」
村瀬は無言のまま、涙を手で拭う
「この爆弾ウイルスに感染した者の治療法はない。だがそのままにしておけば血液が液体窒素に変わって、臓器が異様に膨らみ爆発する。その破壊力は凄まじい。それを防ぐためには身体の中の臓器を全て取り除くこと。おまえはその技術に優れている」
「俺は木村さんがいたからっ!」
涙を流しながら村瀬は言う。俺もその涙につられて眼が熱くなってきた。それを冷ますために眼から水がこぼれる。
「爆弾ウイルスに感染したものは助からない。これは仕方がなかったんだ」
村瀬が解体している爆弾は俺だった。
村瀬は俺の身体を開き、1つ1つ丁寧に臓器を切り取っていた。
麻酔はしているものの、身体から臓器がなくなっていく感覚は確かに感じることが出来た。あと俺に残っているのは心臓だけ。
「さぁ、村瀬・・・、最後の臓器を、心臓を取り除いてくれ」
それを聞いた村瀬は静かに俺の心臓を切り取り始めた。
身体から力が抜けていく。俺はこれから死ぬのだ。
「さよなら、村瀬・・・」
その言葉を言い終えた瞬間、目の前が暗くなり、意識が消えた。
俺は・・・、爆弾処理されたのだ。
~了~
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