上 下
20 / 49
第七章 残酷なプロポーズ

私は理樹さんとは結婚出来ません

しおりを挟む
「亜紀、ありがとう、亜紀にも聞いて欲しいから座って」

亜紀は俺の言葉に不思議そうな表情を見せた。

「俺は婚約を破棄した」

「お前、正気か」

健は俺に食ってかかった。

「俺は正気だ」

健の顔色が変わった。

「これからどうするんだ」

「どうもしない、取引はこのまま続けてくれると約束してくれた」

「本当か」

俺は亜紀の方へ視線を移し、言葉を続けた。

「亜紀、俺と結婚してくれ」

婚約者の問題が片付いたから、亜紀は喜んでくれると鷹を括っていた。

しかし、亜紀の口から出てきたのは信じられない言葉だった。

「理樹さんとは結婚出来ません」

「どうしてだ、婚約者の件は問題ない、会社も倒産することはないんだ」

「ごめんなさい」

亜紀はそう言って奥の部屋に入ってしまった。

何故だ、何が原因なんだ。

俺は亜紀の部屋の前に行き、声をかけた。

「亜紀、俺は諦めないから、また会いに来る」

そう言って健のマンションを後にした。

私は涙が溢れて止まらなかった。


東條財閥の御曹司、東條理樹とは結婚出来るわけがない。

東條理三郎、理樹さんのお父様と私は面識がある。

亜紀ちゃんといつも可愛がってくれた。

おじ様と私も懐いていた記憶がある。

理樹さんが産まれた日、私はおじ様に言われた。

「亜紀ちゃん、こいつは俺の息子だ、東條理樹、絶対に亜紀ちゃんを幸せにすると約束する、だから大人になったら理樹と結婚して、俺と親父さんを支えてくれ」

九歳の私は訳も分からず頷いていた。

可愛い弟が出来た位にしか考えていなかった。

そんな矢先、事件は起きた。

おじ様の右腕として働いていた父が、おじ様を裏切り、企業秘密を良からぬ連中に漏らしてしまった。

どうして父はそんな事をしたのか、事の真相は幼い私には理解出来なかった。

ただ一つはっきりしたことは、それ以来、おじ様にも理樹さんにも会えなくなったことだった。

大人になったら結婚すると約束したが、それぞれ別々の道を歩く事になったのだ。

私の父は十年前に他界した。

何故、おじ様を裏切ったのか、私にはわからないまま、おじ様とはずっと会っていない。

理樹さんが帰った後、健さんが私に言葉をかけた。

「驚いたな、仕事の面倒なことは全て僕に任せっきりだったのに、どうやって取引先の社長を説き伏せたのか考えられないよ」

私は何も返す言葉がなかった。

「亜紀、理樹のプロポーズを受けるの?」

「お受け出来ません」

「だって、婚約者のことは心配しなくていいんだよ、会社だって倒産は免れたんだし」

私は何も言えずに俯いていた。

「亜紀、理樹の親父さんと亜紀のお父さんの事件の事を気にしているの?」

私は驚きを隠せなかった。

健さんがおじ様と父の事件の事を知っているなんて……

「理樹にはっきり言った方がいいよ、亜紀を諦めさせる為に」

そんな事言えない、おじ様を裏切ったのは父でも、私はその父の娘。

そんな私と理樹さんの結婚をおじ様が許すわけがない。

理樹さんだって、どんな風に思うか、裏切り者の娘と冷たい視線を向けられたら、私は生きていけない。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

耳なし洋一

ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

ガールフレンドのアリス

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

幾星霜の呪いの子 ~下町駆け込み寺の怪異譚~

ミステリー / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:5

ねこになりたいわたしたち

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

最愛の人は11歳年下でした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:22

処理中です...