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「驍、キスして」

俺は琴葉にキスをする。

琴葉は目を閉じて、唇を少し開け俺とのキスを味わう仕草をする。

「驍、ギュッとして」

俺は琴葉をギュッと抱きしめた。

琴葉は何かを感じてくれたのか、甘いため息を漏らす。

なんて可愛いんだ。
琴葉はまるで俺が見えているかのような行動を取る。

俺は琴葉の首筋から胸へ唇を移して行く。

琴葉は背中をのけぞり、俺の耳元に唇を押し当て「驍、大好き」と囁いた。

俺は触れた感触は全くない。

琴葉も触れられた感触は感じないだろう。

でも琴葉は気持ちが高揚して感じてくれた様子がありありと伺える。

俺は何もしてやれない。

琴葉は俺への気持ちを自分自身で最高潮に達した。

そんな琴葉の姿を満足して見ている俺は、気持ちだけが高揚していた。


琴葉、おはよう、もう、黄泉の国へ行かなくちゃ。

「もう、時間が来てしまったんだね」




琴葉は俺に抱きつき、泣いていた。

「驍、一緒に行きたい」

俺だって離れたくないよ、でも約束は約束だ。

「死神さんが迎えに来るの?」

いや、俺が死神の所へ行く。

「驍、いや、行かないで」

俺は琴葉を抱きしめた。

琴葉、俺達は一緒にはいられない。
「いやよ、驍がいない世の中で生きていけない」

琴葉は泣きじゃくりながら俺の腕を必死に掴もうとしていた。

「驍、行かないで、行かないで、驍、いや、いやあ」

俺は徐々に意識が遠のいていった。

琴葉、琴葉。

俺は黄泉の国へと旅立った。

「驍、驍」

琴葉はうなだれて泣いていた。

しばらくして、琴葉はその場を離れた。

まるで夢遊病者のようにふらふらと……
外に出て私は空を見上げた。

驍、あなたはこの空のどこかで、いつも私を見てくれているのね。

私をずっと見守っていてね。

驍、あなたをずっと愛しています。

琴葉、俺もお前だけを愛している。

                    END

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