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15. 取引
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「と、取引ですって?」
思いがけないユリアンナの言葉に警戒したのか、ミリカは目尻を釣り上げてユリアンナを睨み付ける。
小柄で愛らしい容姿のために、その姿はまるで大型犬を懸命に威嚇する仔犬のようだ。
「ええ。わたくしはミリカさんに全面的に協力するわ。だから、ミリカさんもわたくしのお願いを聞いてくださらない?」
(お願い……?まさか「アレックスを譲れ」なんて言うつもりじゃないでしょうね?)
未だ警戒を解かないミリカに、ユリアンナはさらに補足する。
「ああ、わたくしこのままアレックス殿下と結婚したいなんて思っていませんの。むしろ、王子妃にはなりたくないと言いますか……」
その言葉を聞いたミリカは、警戒を通り越して怪訝な顔をする。
「……だったら、何を取引したいの?」
「ほら……わたくしって、〝悪役令嬢〟じゃないですか。それに、貴女は〝ヒロイン〟でしょう?本来ならばわたくしは貴女を憎み、虐めるはず。だけど、現実のわたくしは目立つことも王子妃になることも望みませんから、貴女のことは虐めない。………それは、貴女にとっては都合が悪いのではないですか?」
ユリアンナの言葉に、ミリカの眉がピクリと動く。
実際問題、ミリカが攻略対象を落とすにはユリアンナの妨害イベントが重要になる。
特に、ミリカのように複数人を攻略したいのなら、尚更のこと。
「もしわたくしが貴女に意地悪をしなければ、貴女はどうするおつもりで?わたくしの罪を捏造する?………それって、『ザマァされるヒロイン』のテンプレですわよね」
口調は優雅だが、前世を持っていないと知り得ない言葉が出るあたりやはりユリアンナは転生者なのだな、とミリカは思う。
「……そうね。できれば、そんな危ない橋は渡りたくないわ」
ミリカの答えを聞いて、やはり創作と違ってヒロインに転生する人にもきちんと考える頭がありそうね、とユリアンナは思う。
「そうですわよね。ですから……わたくしが、ゲームと同じように貴女を虐めて差し上げますわ」
「なっ………!」
ミリカは驚いてその水色の瞳を見開いた。
「それをして、あなたに何の得があるっていうの!?」
なぜユリアンナがそんな提案をするのか、ミリカには皆目見当がつかない。
だってユリアンナがミリカを虐めるということは、最終的には断罪されるということなのだから。
そんなミリカの動揺を気にも留めず、ユリアンナは優雅に微笑む。
「先ほども言いましたが、わたくし王子妃になりたくありませんの。それに……実家の公爵家にも愛着がありません。ですから、断罪を受けて国外追放になりたいのです」
「…………は?」
今度は口をあんぐり開けて呆けるミリカを横目に、ユリアンナは静かに続ける。
「貴女も《イケパー》ユーザーだったのなら、ユリアンナの設定をご存知でしょう?公爵家にはわたくしを愛してくれる家族はおりません。生まれながらに貴族令嬢とはいえ前世は一般人ですから、一生こんな窮屈な生活を送りたくないのです」
「………国外追放になって、平民として生きたいってこと?」
「その通りですわ」
ミリカは今度は胡乱な目でユリアンナを見ている。
表情がコロコロ変わるのはヒロイン仕様なのかしら、とユリアンナは思う。
「………それで?あなたは何を交換条件にしたいの?断罪されたいだけなら、私にこんな取引を持ちかける必要はないでしょ?」
「わたくしが貴女にお願いしたいのは………命を助けていただきたいということです」
「は?どういうこと?」
「先ほどは一部始終を見ておりましたが、ミリカさんはアレックス殿下を攻略するつもりでしょう?アレックスルートで、ユリアンナがどんな末路を迎えるか覚えていらっしゃいますか?」
「アレックスルートで……?確かユリアンナはヒロインを罠にかけて誘拐して、暴漢に襲わせて殺そうとして……あっ」
そこまで言ったところでミリカは何かを思い出したように口を手で覆う。
「……裁判で貴族を殺そうとした罪で処刑を言い渡され、王城前広場で公開ギロチン処刑……ですわよね」
ミリカが言い淀んだ続きの言葉を、ユリアンナが引き継いで続ける。
「……なるほどね。つまり、私がアレックスを攻略しても、国外追放で済むようにしたいわけね」
納得したようにミリカが言うと、ユリアンナは返答の代わりにニコリと微笑む。
「ですから、わたくしは貴女の殺害計画以外の妨害イベントに協力いたします。貴女には、もし何らかの強制力が働いてわたくしに処刑が言い渡されたとしても、処刑が回避されるよう殿下に嘆願していただきたいのです」
ユリアンナがそう言うと、ミリカはしばらく目線を下に向けて考え込んだ後、笑顔で顔を上げる。
「……いいよ!私も、同じ転生者が処刑されるところなんて見たくないし……。その取引、乗った!」
そう言って、ミリカはニカッと笑って右手を差し出す。
ユリアンナも微笑んでその手を握り、2人はガッチリ握手を交わす。
ここに、〝悪役令嬢〟と〝ヒロイン〟の協力関係が結ばれた。
この結果がどうなるのか……分かるのは3年後のことである。
思いがけないユリアンナの言葉に警戒したのか、ミリカは目尻を釣り上げてユリアンナを睨み付ける。
小柄で愛らしい容姿のために、その姿はまるで大型犬を懸命に威嚇する仔犬のようだ。
「ええ。わたくしはミリカさんに全面的に協力するわ。だから、ミリカさんもわたくしのお願いを聞いてくださらない?」
(お願い……?まさか「アレックスを譲れ」なんて言うつもりじゃないでしょうね?)
未だ警戒を解かないミリカに、ユリアンナはさらに補足する。
「ああ、わたくしこのままアレックス殿下と結婚したいなんて思っていませんの。むしろ、王子妃にはなりたくないと言いますか……」
その言葉を聞いたミリカは、警戒を通り越して怪訝な顔をする。
「……だったら、何を取引したいの?」
「ほら……わたくしって、〝悪役令嬢〟じゃないですか。それに、貴女は〝ヒロイン〟でしょう?本来ならばわたくしは貴女を憎み、虐めるはず。だけど、現実のわたくしは目立つことも王子妃になることも望みませんから、貴女のことは虐めない。………それは、貴女にとっては都合が悪いのではないですか?」
ユリアンナの言葉に、ミリカの眉がピクリと動く。
実際問題、ミリカが攻略対象を落とすにはユリアンナの妨害イベントが重要になる。
特に、ミリカのように複数人を攻略したいのなら、尚更のこと。
「もしわたくしが貴女に意地悪をしなければ、貴女はどうするおつもりで?わたくしの罪を捏造する?………それって、『ザマァされるヒロイン』のテンプレですわよね」
口調は優雅だが、前世を持っていないと知り得ない言葉が出るあたりやはりユリアンナは転生者なのだな、とミリカは思う。
「……そうね。できれば、そんな危ない橋は渡りたくないわ」
ミリカの答えを聞いて、やはり創作と違ってヒロインに転生する人にもきちんと考える頭がありそうね、とユリアンナは思う。
「そうですわよね。ですから……わたくしが、ゲームと同じように貴女を虐めて差し上げますわ」
「なっ………!」
ミリカは驚いてその水色の瞳を見開いた。
「それをして、あなたに何の得があるっていうの!?」
なぜユリアンナがそんな提案をするのか、ミリカには皆目見当がつかない。
だってユリアンナがミリカを虐めるということは、最終的には断罪されるということなのだから。
そんなミリカの動揺を気にも留めず、ユリアンナは優雅に微笑む。
「先ほども言いましたが、わたくし王子妃になりたくありませんの。それに……実家の公爵家にも愛着がありません。ですから、断罪を受けて国外追放になりたいのです」
「…………は?」
今度は口をあんぐり開けて呆けるミリカを横目に、ユリアンナは静かに続ける。
「貴女も《イケパー》ユーザーだったのなら、ユリアンナの設定をご存知でしょう?公爵家にはわたくしを愛してくれる家族はおりません。生まれながらに貴族令嬢とはいえ前世は一般人ですから、一生こんな窮屈な生活を送りたくないのです」
「………国外追放になって、平民として生きたいってこと?」
「その通りですわ」
ミリカは今度は胡乱な目でユリアンナを見ている。
表情がコロコロ変わるのはヒロイン仕様なのかしら、とユリアンナは思う。
「………それで?あなたは何を交換条件にしたいの?断罪されたいだけなら、私にこんな取引を持ちかける必要はないでしょ?」
「わたくしが貴女にお願いしたいのは………命を助けていただきたいということです」
「は?どういうこと?」
「先ほどは一部始終を見ておりましたが、ミリカさんはアレックス殿下を攻略するつもりでしょう?アレックスルートで、ユリアンナがどんな末路を迎えるか覚えていらっしゃいますか?」
「アレックスルートで……?確かユリアンナはヒロインを罠にかけて誘拐して、暴漢に襲わせて殺そうとして……あっ」
そこまで言ったところでミリカは何かを思い出したように口を手で覆う。
「……裁判で貴族を殺そうとした罪で処刑を言い渡され、王城前広場で公開ギロチン処刑……ですわよね」
ミリカが言い淀んだ続きの言葉を、ユリアンナが引き継いで続ける。
「……なるほどね。つまり、私がアレックスを攻略しても、国外追放で済むようにしたいわけね」
納得したようにミリカが言うと、ユリアンナは返答の代わりにニコリと微笑む。
「ですから、わたくしは貴女の殺害計画以外の妨害イベントに協力いたします。貴女には、もし何らかの強制力が働いてわたくしに処刑が言い渡されたとしても、処刑が回避されるよう殿下に嘆願していただきたいのです」
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「……いいよ!私も、同じ転生者が処刑されるところなんて見たくないし……。その取引、乗った!」
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ユリアンナも微笑んでその手を握り、2人はガッチリ握手を交わす。
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