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「どうして、私ばかりこんな目に合うのかしら。私はただ、ロイド様のお側にいたかっただけなのに……。」
アリス・バレンタイン侯爵令嬢は皇帝陛下に会うために待たされている応接室で一人涙を浮かべていた。
「どうして?」「なぜ?」そればかりが、アリス・バレンタイン侯爵令嬢の最近の口癖だ。周りには気取られないように気丈に振舞っているけれど。
本来であれば、アリス・バレンタイン侯爵令嬢が、皇太子妃となるはずだったのだ。
アリスは皇太子妃になるために、頑張ったのだ。自分の容姿を最大限に活かして重臣たちを自分の見方にと引き込んだ。
でも、肝心のロイドはアリスのことを侯爵令嬢以上には見ることはなかった。
そして最終的にはアリスはセレスティーナ・ホワイトバーン侯爵令嬢に敗れ皇太子妃になる道は閉ざされた。
幼い頃からロイドの側にはセレスティーナが居たと聞く。
ロイドと出会うのが遅かっただけで、アリスはロイドに選ばれなかったのだ。それが、アリスには悔しくて仕方がない。
皇帝陛下すらもアリスの見方についたというのに、最終的には皆の反対を押し切ってロイドはセレスティーナを選んだのだ。
「ああ、アリスよ。よく参った。」
しばらくして応接室に皇帝陛下が姿を現した。
アリスは涙をハンカチの端で拭って急いでソファーから立ち上がり、皇帝陛下に向かって最敬礼をした。
「面を上げよ。」
皇帝陛下の言葉にアリスはゆっくりと顔を上げた。
皇帝陛下はアリスの顔を見ると眉をひそめた。
「そなた、泣いていたのか?」
「いえ、そのようなことはございません。此度のことはとても名誉あること。もし泣いていたように見えるのであれば、それはうれしい涙ですわ。」
アリスは取り繕うように笑みを浮かべる。
傍から見るとそれはとても健気な少女のように見えた。
「……そうか。本来であれば、そなたが皇太子妃になる予定だったのだが。ロイドは何を血迷ったのか……。ああ、いや、セレスティーナが皇太子妃に相応しくないわけではないが、私はセレスティーナよりもアリスの方が皇太子妃に相応しいと思っていたのだよ。セレスティーナは皇太子妃としてとても良くやってくれている。それは私も知っているが、私はアリスが皇太子妃となった姿を見たかったものだ。」
「……そのような、恐れ多いこと……。」
アリスは俯いて声を震わせてみせた。
「だが、アリスほど素晴らしい淑女はいないと思っている。そのための占いの結果であったのだろう。」
「……はい。この国の占い師はとても優秀だと伺っております。」
「そうだ、な。」
「ですが……一つだけ。いつから、既婚の女性は候補から外れることとなったのでしょうか。私が、魔族の花嫁に選ばれてからいろいろと魔族の花嫁について調べて参りました。この国の代表として魔族の花嫁として、どのように振舞えばよいのかを確かめるために。そして、調べて行くうちに私は知ったのです。過去には既婚の元侯爵令嬢も選ばれたという事実がございました。私が選ばれたことはとても名誉なことだと思っております。ですが、私ではなく既に婚姻されている他の女性の方が魔族の花嫁として相応しかった場合、魔族を謀ったとしてこの国に危機が及ばないかを私は懸念しております。」
アリスは顔を伏せ、表情を隠しながら皇帝陛下に問いかける。
「それも、そうだな……フォン宰相どうであったか?」
皇帝陛下は脇で控えていた白い髭の好々爺に尋ねる。
フォン宰相は「はい。」と返事をしながら、すらすらと答えた。
「3代前の皇帝陛下が、既婚女性は除くように提案されたと記録が残っております。」
「ほぉ。して、その理由は……?」
「理由についてはいかなる文献にも載っておりませんでした。」
「そうか。巫女よ、そなたはどう思う?」
皇帝陛下は部屋の隅に佇んでいた白装束の巫女に声をかける。
占いは巫女がおこなっている。巫女とは神の代弁者のことである。
「……正式には既婚女性も候補に含めるべきかと存じます。その者が既婚ゆえに魔族の花嫁に相応しくないということであれば、占いでは別の娘が選ばれることでしょう。」
「……そうか。此度の占いは正しい結果ではなかった可能性がある、と。そう申すか?」
「……はい。恐れながら。」
皇帝陛下の問いかけに巫女は顔を上げることなく礼をしたまま答える。
その答えを聞いて、アリスは口端に笑みを浮かべた。
国王陛下はしばらく考えるように思考を巡らせた。
「既婚の者も含めて占いをやり直すのだ。さすれば、アリスの懸念も晴れるであろう。魔族の花嫁になることを快く決心してくれたこの国でのアリスの最後の些細な願いだ。そのくらいは叶えてやりたい。」
「はっ。確と承りました。」
「承知いたしました。」
「ありがとうございます。これで、私の懸念も晴れ、なんの憂いも無く魔族の花嫁を勤めることができますでしょう。」
皇帝陛下の言葉に宰相も巫女もアリスも深く礼をしながら頷いた。
皇帝陛下は思っていた。既婚の女性が魔族の花嫁として選ばれることはないだろう、と。既に他の者と婚姻しているものが占いで選ばれるはずがないだろう、と。
占いはいつでもその時の最良を示してくれるものなのだから。
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