見習い料理人はテキトー料理で今日も人々を魅了する

葉柚

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「普通の平原みたいに見えたんですけど。なんかまずかったですか?」


「まずいもなにも、あの平原は天使の楽園っていう名がついているんだ。」


「は、はあ?」


そっか、あの綺麗で美しい平原は天使の楽園っていうのか。知らなかったけど、たいそうな名前がついていたんだな。

死霊の谷を越えた先にある平原の名前が天使の楽園か。隣り合っているのに随分名前が両極端だなぁ。


「リューニャ。天使の楽園ってきいたことないのか!?」


「え、ええ。今、初めて聞きました。」


「マジか・・・。」


師匠はショックを受けたようにその場にうずくまってしまった。

オレ、なんか変なこと言ったか?

ただ、天使の楽園を知らないって言っただけなのに。

冒険者でもないんだから、そこらの地名を知るわけもないのだ。

死霊の谷だって、最初は死霊の谷なんて名前がついていることすら知らなかった。あるとき、親切な冒険者が教えてくれたんだ。ここは死霊の谷だって。

そういえば、あの時の冒険者もなぜか苦笑してたなぁ。

なぜだろう。ま、いっか。過ぎたことだし。


「天使の楽園ですって!?」


「あ、シラネ様お帰りなさい。朝食ができてるよ?」


「あら。いただくわ。って、それより天使の楽園って聞こえたんだけど!!」


師匠がうずくまってしまってからしばらくして、シラネ様が両手に袋を持って帰ってきた。

ってか、シラネ様。ここ、あなたの家じゃなくてオレの家なんだから、入っていいかどうかくらい聞いてよ。

でも、そんなことシラネ様に言えないのでグッとこらえる。それよりも天使の楽園のことが気になるし。


「え、あ、うん。シラネ様。天使の楽園って知ってる?師匠が天使の楽園って聞いたら黙っちゃって・・・。」


「天使の楽園ってあの天使の楽園!?死霊の谷を越えたところにある幻の天使の楽園のこと!?」


おっと。なんだか、変な形容詞がついたぞ。

『幻の』ってどういうことだろうか。


「幻?」


「そうよ!天使の楽園に行くためには条件があるのよ。その条件に当てはまらない人は天使の楽園には絶対に足を踏み入れることができないのよ。あんた、そんなことも知らなかったの?」


「いや。だって、オレ冒険者じゃないから。美味しい食材を探していただけだし・・・。」


「だからって・・・。ん?ちょっと待って。食材を探してってことは、あんた幻の天使の楽園に行ったことがあるの!?」


さっきからシラネ様はキャンキャンと吠えている。小さな犬が吠えているみたいで可愛いんだけど、耳元で吠えられるとちょっと耳が痛いんだよな。


「うん。そこで魔トマトの群生を見つけたんだ。そこのシラネ様に用意した朝食にあるトマトが天使の楽園ってところで採れた魔トマトだよ。」


オレはそう言って、シラネ様用の朝食を指さした。


「こ、これが・・・。ごくっ・・・。」


魔トマトを見たシラネ様は生唾を飲み込んだ。うん。美味しいもんね。魔トマト。


「うん。食べてみて。とっても美味しいから。」


「い、いただくわ。話はそれからよ。」


シラネ様は急に静かになって、魔トマトを口に頬張った。

とたんに、ピタリと動きを止めるシラネ様。

あまりのおいしさにビックリしているのかな。

魔トマトは調理しなくても、そのまま一口大に切って食べるだけでもとっても美味しいのだ。

一部では高価な値段で取引をされるとか。でも、魔トマトの実はもいでから3日のうちに食べないと途端に美味しくなくなってしまうと言われている。

だから、長期保存はできないし、長期の輸送もできない。まあ、加工すれば長期保存も長期の輸送も可能なんだけどね。ただ、生より加工品の方が味が落ちるらしい。


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