追放された聖女は毎夜金貨を数える~神の加護は本物です~

葉柚

文字の大きさ
38 / 44

36




「サラス・ヴァーディさぁああんっ!!はあ、はあ、はあ。」

「……大丈夫でしょうか?えっと……あなたは、確か……。」

「……はあ、はあっ。あ、はい。私、ミリーナです。」

 走って来たミリーナさんは、そう息を弾ませながらそう言った。
 ミリーナさん。金髪碧眼でちょっと童顔な彼女は、役所の職員の一人である。
 先日、役所に行ったときに会ったが、名前までは知らなかった。
 落ちそうな丸い眼鏡をくいっと指で押さえながら、ミリーナさんは人より大きい目で私を見つめてきた。
 
「どうされましたか?」

 こんなに慌てて私に声をかけてくるということは、何かがあったのだろう。
 私はそう思って問いかけた。
 ミリーナさんは息を整えながら声を出す。
 
「あの……ですね。サラス・ヴァーディさん。」

「はい。なんでしょう。」

「「「「「サラス・ヴァーディさぁあああああんっっっっ!!!!」」」」」

「ふぇええええっ!!?」

 ミリーナさんが息を整えながらなにやら話し出そうとすると、遠くから何人もの人たちが私の名前を叫びながら駆け寄ってきた。
 どの人も役場で見た人々だ。
 
「あーーーっ!ミリーナ抜け駆けする気っ!?」

「汚いぞ。ミリーナ君。」

「ほんとうだわぁ。」

「あうぅぅ……。」

 駆け寄ってきた人たちは口々にそう言いながらミリーナさんを責め立てる。
 ミリーナさんと違って他の人たちは息を乱していない。どれだけ肺が強いんだろう。
 ミリーナさんは皆さんの勢いに圧倒されて「あうぅぅ……。」と声にならない声を上げている。

「皆さん、ちょっと落ち着いてください。私は逃げませんから一人ずつゆっくり要件を教えてください。」

 必殺聖女スマイルを炸裂させ、人々を静かにさせる。
 なんて便利なんだ聖女スマイル。
 おとなしくなった役所の人たちを一列に整列させる。そして、一人一人から事情を聞き出そうとするが……。
 
「先着順なんてずるいっ!?私が最初よ。」

「そうだ。私が一番先だ。」

「私よ。私が、サラス・ヴァーディさんに相談してみましょうって言ったんだからっ。」

「でもっ、一番先に来たのは私ですっ!」

 またしても騒ぎ出し始めてしまった。
 なぜ、そんなに順番を競っているのだろうか。
 私は再度聖女スマイルを浮かべて騒いでいる役所の人たちに声をかけた。
 
「なにを揉めるようなことがあるのです。我先にと言う理由はなんでしょうか?」

「街の経済を良くするためのアイデアを皆で出す必要があるんですっ!より良いアイデアをだした人には金一封が。」

 ミリーナさんはそう教えてくれた。
 より良いアイデアを……って、それで皆して私に相談しにくるとは……。
 私は思わず頭を抱えてしまった。
 あとは役所の人たちが知恵を出し合ってこの街の経済を発展させていけば良いと思ったのに……。まさか、私に相談しにくるとは。
 これは、相談料をもらわないといけないわね。金一封出るみたいだし。
 
「あなた方の事情は良くわかりましたわ。ですが、競い合って私に相談する必要はないのではないでしょうか。皆さまの意見をそのまま形にすれば良いのです。皆さまの中には街をより良く発展させたいという思いがありますでしょう?それを形にすれば良いのです。一人の考えにとらわれず、皆さまの自由な発想を練り上げればそれは至高の領域に達することでしょう。私一人の意見よりも、皆さまが知恵を出されて相談しあった方がより良いものが産まれると私は信じております。」

 私に丸投げしないで、みんなで話し合ってほしいという気持ちを込めて伝える。
 役所の人たちは目を潤ませながら私の話に相槌を打つ。
 
「そうね。そうだわ。サラス・ヴァーディさんに頼り切りではいけないわね。」

「ええ。そうね。私たちでも意見を出してみましょう。」

「ああ。そうだな。私たちの意見がこの街を発展させる。とても良いことだと思う。」

「そうね。これは私たちにしかできないことだわ。」

 どうやら、私への丸投げは辞めてくれたらしい。
 それぞれが希望に満ちた笑みを浮かべている。これはとても良い兆候だ。
 人に頼ってばかりでは何も成長しない。
 人に頼って得た成功はそこで成長をストップさせてしまいそれ以上の結果を出すことはできない。
 自ら考えて動いた先にこそ本当の成功が待っている。
 まあ、先人のアドバイスをもらうのは大切だけどね。
 
「ええ。そうです。あなた方が協力しあってこの街を発展させていくのです。それが、あなた方の使命なのですわ。」

 少々大げさに芝居がかったように告げると、皆満足したようだ。
 
「ありがとう。サラスさん。」

 口々に私に感謝の言葉を捧げる皆さん。

 でも、私は感謝の言葉が欲しいのではなくて、謝礼が欲しいのです。口には出せませんが。
 アドバイスをしたのですから、誰か謝礼を……。金一封でるのでしょう?
 
「助かったよ。サラスさん。このことは忘れない。」

「ええ。見ててください。この街を私たちの手で発展させてみせますわ。」

 そう言って唐突にやってきた役所の人たちは私に感謝の言葉だけを残して、颯爽と去って行った。
 まるで嵐が去った後のようななんとも言えない気持ちになる。
 けれど、自分に言い聞かせる。
 これは、この街が発展するのに大切なことなのだから、と。たまには無料奉仕してもいいではないか、と。まだまだこの街の人たちは経済的に寂しいのだから、と。
 
 サラス・ヴァーディ。負けません。
 いつか必ず大量の金貨を得てみます!
 神様に誓って!!
 
 ついでに土地と建物の購入について聞けばよかったと思ったのは嵐が去った後のことだった。
 

感想 0

あなたにおすすめの小説

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

醜い傷ありと蔑まれてきた私の顔に刻まれていたのは、選ばれし者の証である聖痕でした。今更、態度を改められても許せません。

木山楽斗
恋愛
エルーナの顔には、生まれつき大きな痣がある。 その痣のせいで、彼女は醜い傷ありと蔑まれて生きてきた。父親や姉達から嫌われて、婚約者からは婚約破棄されて、彼女は、痣のせいで色々と辛い人生を送っていたのである。 ある時、彼女の痣に関してとある事実が判明した。 彼女の痣は、聖痕と呼ばれる選ばれし者の証だったのだ。 その事実が判明して、彼女の周囲の人々の態度は変わった。父親や姉達からは媚を売られて、元婚約者からは復縁を迫られて、今までの態度とは正反対の態度を取ってきたのだ。 流石に、エルーナもその態度は頭にきた。 今更、態度を改めても許せない。それが彼女の素直な気持ちだったのだ。 ※5話目の投稿で、間違って別の作品の5話を投稿してしまいました。申し訳ありませんでした。既に修正済みです。

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?

今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。 しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。 が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。 レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。 レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。 ※3/6~ プチ改稿中

聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。 「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」 と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

「お前がいると息が詰まる」と追放された令嬢——翌週から公爵家の予定が全て狂った

歩人
ファンタジー
クラリッサは公爵家の日程管理を一手に担う令嬢。前世の社畜経験を活かし、行事計画、来客対応、予算管理まで完璧にこなしていた。 だが婚約者ヴィクトルは言った。「お前がいると息が詰まる。もっと華やかな女がいい」 追放されたクラリッサが去った翌週、公爵家の予定が全て狂い始める。 舞踏会の招待状は届かず、外交晩餐会の料理は手配されず、決算書類は行方不明。 一方クラリッサは、若き領主の元で「定時退社」という夢を叶えていた。 「もう、残業はしません」