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「サラス・ヴァーディさぁああんっ!!はあ、はあ、はあ。」
「……大丈夫でしょうか?えっと……あなたは、確か……。」
「……はあ、はあっ。あ、はい。私、ミリーナです。」
走って来たミリーナさんは、そう息を弾ませながらそう言った。
ミリーナさん。金髪碧眼でちょっと童顔な彼女は、役所の職員の一人である。
先日、役所に行ったときに会ったが、名前までは知らなかった。
落ちそうな丸い眼鏡をくいっと指で押さえながら、ミリーナさんは人より大きい目で私を見つめてきた。
「どうされましたか?」
こんなに慌てて私に声をかけてくるということは、何かがあったのだろう。
私はそう思って問いかけた。
ミリーナさんは息を整えながら声を出す。
「あの……ですね。サラス・ヴァーディさん。」
「はい。なんでしょう。」
「「「「「サラス・ヴァーディさぁあああああんっっっっ!!!!」」」」」
「ふぇええええっ!!?」
ミリーナさんが息を整えながらなにやら話し出そうとすると、遠くから何人もの人たちが私の名前を叫びながら駆け寄ってきた。
どの人も役場で見た人々だ。
「あーーーっ!ミリーナ抜け駆けする気っ!?」
「汚いぞ。ミリーナ君。」
「ほんとうだわぁ。」
「あうぅぅ……。」
駆け寄ってきた人たちは口々にそう言いながらミリーナさんを責め立てる。
ミリーナさんと違って他の人たちは息を乱していない。どれだけ肺が強いんだろう。
ミリーナさんは皆さんの勢いに圧倒されて「あうぅぅ……。」と声にならない声を上げている。
「皆さん、ちょっと落ち着いてください。私は逃げませんから一人ずつゆっくり要件を教えてください。」
必殺聖女スマイルを炸裂させ、人々を静かにさせる。
なんて便利なんだ聖女スマイル。
おとなしくなった役所の人たちを一列に整列させる。そして、一人一人から事情を聞き出そうとするが……。
「先着順なんてずるいっ!?私が最初よ。」
「そうだ。私が一番先だ。」
「私よ。私が、サラス・ヴァーディさんに相談してみましょうって言ったんだからっ。」
「でもっ、一番先に来たのは私ですっ!」
またしても騒ぎ出し始めてしまった。
なぜ、そんなに順番を競っているのだろうか。
私は再度聖女スマイルを浮かべて騒いでいる役所の人たちに声をかけた。
「なにを揉めるようなことがあるのです。我先にと言う理由はなんでしょうか?」
「街の経済を良くするためのアイデアを皆で出す必要があるんですっ!より良いアイデアをだした人には金一封が。」
ミリーナさんはそう教えてくれた。
より良いアイデアを……って、それで皆して私に相談しにくるとは……。
私は思わず頭を抱えてしまった。
あとは役所の人たちが知恵を出し合ってこの街の経済を発展させていけば良いと思ったのに……。まさか、私に相談しにくるとは。
これは、相談料をもらわないといけないわね。金一封出るみたいだし。
「あなた方の事情は良くわかりましたわ。ですが、競い合って私に相談する必要はないのではないでしょうか。皆さまの意見をそのまま形にすれば良いのです。皆さまの中には街をより良く発展させたいという思いがありますでしょう?それを形にすれば良いのです。一人の考えにとらわれず、皆さまの自由な発想を練り上げればそれは至高の領域に達することでしょう。私一人の意見よりも、皆さまが知恵を出されて相談しあった方がより良いものが産まれると私は信じております。」
私に丸投げしないで、みんなで話し合ってほしいという気持ちを込めて伝える。
役所の人たちは目を潤ませながら私の話に相槌を打つ。
「そうね。そうだわ。サラス・ヴァーディさんに頼り切りではいけないわね。」
「ええ。そうね。私たちでも意見を出してみましょう。」
「ああ。そうだな。私たちの意見がこの街を発展させる。とても良いことだと思う。」
「そうね。これは私たちにしかできないことだわ。」
どうやら、私への丸投げは辞めてくれたらしい。
それぞれが希望に満ちた笑みを浮かべている。これはとても良い兆候だ。
人に頼ってばかりでは何も成長しない。
人に頼って得た成功はそこで成長をストップさせてしまいそれ以上の結果を出すことはできない。
自ら考えて動いた先にこそ本当の成功が待っている。
まあ、先人のアドバイスをもらうのは大切だけどね。
「ええ。そうです。あなた方が協力しあってこの街を発展させていくのです。それが、あなた方の使命なのですわ。」
少々大げさに芝居がかったように告げると、皆満足したようだ。
「ありがとう。サラスさん。」
口々に私に感謝の言葉を捧げる皆さん。
でも、私は感謝の言葉が欲しいのではなくて、謝礼が欲しいのです。口には出せませんが。
アドバイスをしたのですから、誰か謝礼を……。金一封でるのでしょう?
「助かったよ。サラスさん。このことは忘れない。」
「ええ。見ててください。この街を私たちの手で発展させてみせますわ。」
そう言って唐突にやってきた役所の人たちは私に感謝の言葉だけを残して、颯爽と去って行った。
まるで嵐が去った後のようななんとも言えない気持ちになる。
けれど、自分に言い聞かせる。
これは、この街が発展するのに大切なことなのだから、と。たまには無料奉仕してもいいではないか、と。まだまだこの街の人たちは経済的に寂しいのだから、と。
サラス・ヴァーディ。負けません。
いつか必ず大量の金貨を得てみます!
神様に誓って!!
ついでに土地と建物の購入について聞けばよかったと思ったのは嵐が去った後のことだった。
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