追放された聖女は毎夜金貨を数える~神の加護は本物です~

葉柚

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「フレイムフラワーへようこそっ!子供たちが焼いたクッキーはいかがですか?栄養豊富なクッキーですよ。」

 いつものように籠に入れたクッキーを子供たちと一緒に売っていると、どこからともなくスーツ姿の男性が現れた。
 旅行者にも見えず、街の人のようにも見えない。
 場違い感満載な男性に私は思わず身構えた。

「私にも一つクッキーをくれないかな?」

 スーツ姿の男性はそう言ってにっこりと笑みを浮かべた。
 笑顔を浮かべてはいるが目が笑っていない。
 不審者丸出しだが、かと言ってここでクッキーを売ることを拒むのはナンセンスだ。他の旅行客が見ているからね。
 なんの落ち度もないのに、クッキーを欲しがる相手に売らないとなれば旅行客たちから不審がられるのは私たちの方だ。

「お買い上げありがとうございますっ。」

 私は無理やり笑顔を作ってスーツ姿の男性に手渡す。
 すると男性はその場で包みを開封し、クッキーを一枚口の中に放り込んで、私の方を見ながらニヤリと笑った。
 その笑みに黒いものを感じて私は一歩後ずさる。
 
「……まずぅいっ!!なんだ、このまずさはっ!!貴様っ!こんなものを売っていていいと思っているのかっ!いくら子供が作ったからと言って、こんなまずいものを売っていいわけがないっ!!」

 スーツ姿の男性はそう言って、クッキーを思いっきり吐き出す。
 私は「なぁんだ。」と心の中でつぶやいた。
 どうやらこのスーツ姿の男性は、私たちのクッキーが評判になったので、気になってやってきていちゃもんをつけてきたらしい。
 相手の魂胆がわかればこちらも怖いものはない。
 しかし、私たちが作っているクッキーにいちゃもんをつけるのはどこのどいつだろう。どっかの商店のものではないかと思うが、生憎この街の近辺にはお菓子屋さんがない。
 クッキーを売っているお店がないのだ。
 
「どうやらお客様のお口にはあわなかったようですね。失礼ですが、お客様はどこからいらっしゃったのでしょうか?この味付けが気に入らないということはフレイムフラワー近郊の諸国からいらっしゃったのではないと思いますが……。」

「ふんっ!アイスビレッジから来たものだっ!!こんなの誰の口にも合うわけがないだろうっ!!苦みにえぐみがひどいっ!こんなものを喜んで食す者などおらんわっ!!」

 スーツ姿の男性は、私の祖国のアイスビレッジ王国から来たらしい。
 アイスビレッジ王国であれば、このクッキーは美味しいと感じるはずだ。だって私が生まれ育った国なのだから。
 
「まあ、私もアイスビレッジから参りましたの。ですが、このクッキーはとても美味しいと思いますわ。ああ、こちら試食になります。よろしければいかがですか?」

 スーツ姿の男性を置いといて、私はこちらを伺うようにして見ている旅行客に声をかける。
 旅行客は引きつった笑みを浮かべて試食を拒否する。
 まあ、確かにまずいと言った相手が傍にいる以上食べてくれるわけはないよな。
 
「お姉ちゃんと一緒に作ったクッキーだものっ!まずいわけないわっ!!いらないのなら私が食べちゃうんだからっ!!」

 そう言って今まで私のスカートの裾をつかんで様子を見ていたライラがスーツ姿の男性が道に落としたクッキーを拾って土を叩くと口の中にパクっと入れた。
 
「ラ、ライラっ!!落ちた物を食べるなんて……。ばっちぃですわ。」

 落としたクッキーには雑菌がついているかもしれないのに。
 私はそう言って慌てるが、ライラはにっこりと笑った。
 
「大丈夫だよ。お姉ちゃん。いつもどおりとっても美味しいクッキーだわ。」

 ライラはそう言ってにっこり微笑んだ。そして、周りの旅行客を見る。
 
「落ちたクッキーを拾って食べたくなっちゃうくらいこのクッキーは美味しいのよ。嘘だと思うなら試食をしてみて?」

 ライラはそう言って、私の手から試食用のクッキーが入ったお皿を受け取ると旅行客の人たちに試食用のクッキーを配っていく。
 最初は視線をさまよわせていた旅行客も手渡されたクッキーの匂いにごくりと唾を飲み込んだ。
 
「い、いただきます……。ん……んんっ!?美味しいじゃないかっ!!」

「あ、ありがとう……。まあっ!!とっても美味しいわっ!!」

 旅行客の一人が試食のクッキーを食べれば、次々と気になった旅行客の人たちがクッキーを食べる。
 試食のクッキーを食べた人たちは誰もが皆、美味しい美味しいと言ってくれる。
 ライラはむふーっと得意げに胸を張って私の方を見てきた。
 私は、ライラの猫のように柔らかい毛を撫でる。

「買うわっ!」

「私もっ!!」

「俺もっ!!」

 旅行客が我先にと、クッキーを買い求めてくるので、私たちはスーツ姿の男性のことを忘れたふりをして旅行客にクッキーを売りさばいた。
 スーツ姿の男性は私たちに他の旅行客の視線を集めるのにとっても役に立ってくれた。
 おかげでいつもよりクッキーの売れ行きがよかった。
 
「ちっ……!!くそっ!!」

 スーツ姿の男性はいらいらしたように吐き捨てる。
 去って行こうとするその後ろ姿に私は声をかけた。
 
「私たちはこの街でしかクッキーを売っておりません。あなたの商売敵にはなりえませんわ。なぜ、そんなに焦っているのでしょうか?よろしければお話をお伺いさせてはいただけませんか?」

 振り返ったスーツ姿の男性に私は、聖女時代に培った慈愛に満ちた笑みで問いかけた。

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