皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚

文字の大きさ
8 / 170

しおりを挟む

「皇太子殿下はいらっしゃるかしら。異世界からの迷い人のマコト様を案内してきたのだけれども。」

エドワード様の執務室の前で立っている近衛騎士に声をかける。
いくらエドワード様の婚約者でも許可がないと部屋の中には入れないから、一度こうやって近衛騎士に声をかけるのだ。
私が現れたことに驚きながらも名前も知らない近衛騎士は、職務に忠実に中にいる次期宰相に声をかけてくれたようだ。
ややあって、執務室の扉が大きく開いた。

「レイチェル嬢、どうしたんだい?さあ、中に入って?」

エドワード様は人前では私のことを「レイ」ではなく「レイチェル嬢」と呼ぶ。なんでも愛称は特別だから二人だけの時にしか呼ばないということだ。
そして、それは私にも言い含められている。

「エドワード様、先ほど道に迷っているマコト様とお会いしたのです。連れて参りました。余計なことでしたか?」

「ありがとう。レイチェル嬢。マコト、案内のものが遅れてしまったようで、すまなかったね。」

エドワード様は私ににっこりと微笑んでから、マコト様の方に視線を向けた。
夢みたいに、エドワード様はマコト様に興味を持たれるのかしらと、少し不安になりながら二人を見つめる。
ただ、エドワード様はいつもの人好きのする笑みを浮かべており、他の人との違いがよくわからない。

「私の方こそすみません。お約束の時間に遅れてしまうかと思い、皇太子宮で会う方々に尋ねていけばいいと思って迎えに来てくださる方を待たずに出てきてしまいました。」

「そうか。こちらの落ち度なのに気を使わせてしまったな。すまない。」

「いえ。」

マコト様の対応も、エドワード様の対応も見る限り普通である。
よかった。やっぱり夢は夢だったのかしら。

「では、今後について少し話をしようか。レイチェル嬢も一緒に話を聞くかい?」

私も一緒にとエドワード様に確認されるが、ゆっくりと首を横に振った。
だって、執務の邪魔をしてはまずいもの。それに、私が聞いていい内容かどうかもわからない。
現にエドワード様を補佐している次期宰相のアルフレッド様は苦い顔をしているし。

「私はご辞退させていただきますわ。」

「そうか。残念だな。レイチェル嬢が側にいれば、執務が捗るし、良い息抜きになるのだがな。」

エドワード様は心底残念そうに呟いてくる。だが、その言葉を否定するようにアルフレッド様の「コホンッ」という咳をする声がきこえた。

「失礼ですが、殿下。レイチェル様がいらっしゃると殿下はレイチェル様ばかり構われ執務が滞ってしまいますが?」

アルフレッド様はその綺麗な顔に、怒りを滲ませる。
うっ。確かにエドワード様はいつも私を側におくと私に構ってばかりでいつもアルフレッド様に怒られていたような気がする。

「気のせいだよ。」

と、エドワード様は言うが気のせいではないよね。
ここは、やっぱり私は辞退すべきだろう。

「では、私は失礼いたしますわね。」

「ああ。名残惜しいよ、レイチェル嬢。執務を終わらせてすぐに部屋に行くから待っていてね。」

エドワード様にそう言われて執務室を後にした。
やっぱり、私と同じようにエドワード様もマコト様のことを気に入られてしまうのかな。そして、私よりマコト様を優先させるようになるのだろうか。
先ほど会った感じだとまだわからないが、マコト様は少し話しただけでも気さくないい人であることがわかった。だからこそ、心配でもある。
トボトボと部屋へ帰りつき、ソファーにゆったりと座る。すると、侍女のサリーがやって来てローズヒップティーを持ってきた。

「レイチェル様、ローズヒップティーにございます。本日は隣国のレコンティーニ王国のローズヒップティーでございます。」

「ありがとう。」

サリーが淹れてくれたローズヒップティーを飲みながら思案する。もし、エドワード様が夢と同じくマコト様を優先するようになってしまったら私はどうしたらいいのかと。
私はマコト様を苛めずにすむのだろうかと。
しおりを挟む
感想 269

あなたにおすすめの小説

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

10回目の婚約破棄。もう飽きたので、今回は断罪される前に自分で自分を追放します。二度と探さないでください(フリではありません)

放浪人
恋愛
「もう、疲れました。貴方の顔も見たくありません」 公爵令嬢リーゼロッテは、婚約者である王太子アレクセイに処刑される人生を9回繰り返してきた。 迎えた10回目の人生。もう努力も愛想笑いも無駄だと悟った彼女は、断罪イベントの一ヶ月前に自ら姿を消すことを決意する。 王城の宝物庫から慰謝料(国宝)を頂き、書き置きを残して国外逃亡! 目指せ、安眠と自由のスローライフ! ――のはずだったのだが。 「『顔も見たくない』だと? つまり、直視できないほど私が好きだという照れ隠しか!」 「『探さないで』? 地の果てまで追いかけて抱きしめてほしいというフリだな!」 実は1周目からリーゼロッテを溺愛していた(が、コミュ障すぎて伝わっていなかった)アレクセイ王子は、彼女の拒絶を「愛の試練(かくれんぼ)」と超ポジティブに誤解! 国家権力と軍隊、そしてS級ダンジョンすら踏破するチート能力を総動員して、全力で追いかけてきた!? 物理で逃げる最強令嬢VS愛が重すぎる勘違い王子。 聖女もドラゴンも帝国も巻き込んだ、史上最大規模の「国境なき痴話喧嘩」が今、始まる! ※表紙はNano Bananaで作成しています

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

処理中です...