機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds

るろうに

文字の大きさ
35 / 35

ep.9-2 Days

しおりを挟む
 正月。本来ならばめでたい三が日も、今年はどこか重々しい雰囲気が漂っていた。

 それもそのはずで、フロンティア人による襲撃の理由はおろか、そもそも異世界の存在自体が世間には未公表であり、あの事件自体が目下『謎のロボット災害』として扱われているからだ。

 ただ、私にとってこのお正月はそれ以上に重大な意味を持っているような気がした。

「おーい、杏子ー!」
「杏子ちゃーん!」

 紺のコートを羽織り寒さに順応した私と弟を、遠くから呼ぶ声がする。私は釣られるように声の方を向いた。

「葵!ユズ!こっちこっち!」

 神社の境内を2人が駆ける。葵は私と似たような洋服を着ているが、ユズはしっかりとした和服を着込んでいる。

「春翔くん、こんにちは。わたしは杏子ちゃんのクラスメイトの聖堂優月です。ユズって呼んでね」
「こ……こんにちは」

 見慣れないレモンイエローの髪に弟は少したじろいだ。

「お姉ちゃんの学校って意外と自由なの?」
「うん?まあ……そこそこね」

 まさかiARTSのことなんて言えるわけもなく、私は言葉を濁した。

「杏子ちゃんの弟くん、初めて見たけど可愛いね!」
「うんうん、杏子とは正反対」
「ちょっと、それどういう意味?」

 私のちょっとムスッとした表情に2人は余計に笑みを浮かべる。

「あはは、じゃあまず手水舎だっけ?」
「そ。それでお賽銭入れて深くお辞儀して……」
「でもこうして一緒に初詣できるの初めてねえ」

 そんな会話を混ぜながら、私たちは本殿へと向かった。そこそこ人気のある神社なだけあって、人も多い。

「そういえば、葵とユズ、小銭は用意した?」
「もちろん、私は5円」
「わたしは50円」
「あっちゃあ……どっちもないや」
「まあ大事なのは気持ちだから」

 葵に言われるままに、私は100円玉を賽銭箱に投じた。深くお辞儀し、拍手し、お祈りする。いつもの形だけど、重要な儀式。

 私はそっと目を閉じた。

 ――どうか、みんなが無事でいられるように。

 ありきたりだけど、いまの私にとってはこれ以上ない願いのように感じた。

 ――私に、世界を守るだけの力があったらいいのに……。

 参拝が終わり、おみくじを引く。200円ぐらいのいちばんシンプルなもの。

「おみくじ見せ合おうよ!」
「いいねえ、やろうよ」

 葵の調子に乗せられ、私はおみくじの紙を差し出した。

「わたしは中吉!」
「私は小吉だったなあ」
「僕も小吉」
「わ……私は……」

 私は自分の手元に握られた紙に視線を落とした。

 結果は、凶だった。

「あっちゃあ、凶かあ」
「わたしたちの中でいちばん頑張ってるのにねえ」
「まあ、私らしいっちゃ私らしいかも……」

 ――でも。

「凶なら、ここから上がれるってことじゃない?」
「出た、杏子のポジティブ思考」
「わたしは嫌いじゃないよ、そういうの」

 優月がくすっと笑う。

 私たちは境内の一角にあるおみくじ結び所へ向かった。枝に白い紙が幾重にも揺れている。その1本を選び、ぎゅっと結ぶ。

「悪いことはここに……っと」

 帰りの電車の中。同じく参拝客で満たされた車内で、祈願の暴露会が開催された。

「杏子はなにを祈ったの?」
「みんなの無事……かな」
「私は成績向上!」
「わたしはもっと友達が増えるようにって」
「友達かあ」

 優月らしい回答に私はふふっと笑った。三者三様だけど、それぞれ大事な願いだ。

「そういえば、弟くんはなにを祈ったの?」
「僕は……」
「僕は?」
「お姉ちゃんが頑張らなくていいようにって」

 弟の回答が私の心にズンときた。

 ――頑張らなくていいように……。

「春翔……お姉ちゃん、そう見えるかなあ?」
「うん……最近バイトとかやってるし、すごく忙しそうだなって」

 うん、の一言。それだけで十分だった。隠しているつもりでも、いちばん近くにいる家族には伝わってしまうのだろう。

「春翔くん、優しいね」
「うん、いい弟くんを持ったね」

 電車は正月の街並みをゆっくり、それでも確かに前に向かって走った。まるで私たちのように。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処理中です...