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ep.9-4 Days
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いまにも氷の結晶を降らしそうな分厚い曇天の下、冬休み明けの教室は悲喜こもごもで忙しない。進路希望やら理系文系の選択やら、人生を左右する話がいともたやすく飛び交う。
「うちの高校、早すぎると思うんだよね」
「ん?なにが?」
私の疑問に、葵は席から振り向きながら「し・ん・ろ」と1音ずつ言う。
「いやあのさあ?確かに大事だよ?就職か大学かっていうのは。でも、16歳の乙女に決めさせるのはどうなのよ?」
「確かに……」
「でも、わたしはいいと思うなぁ。勉強に余裕ができて」
「ユズはそれでいいかもしれないけどさぁ……」
葵が少し呆れた顔をする。まるでこちらの苦労も知ってほしいと言いたげな顔だ。
「結局、勉強しなさいってことかぁ」
「杏子ちゃんと葵ちゃんは進路とかって決まったの?」
「「全然」」
私と葵の声が妙にシンクロする。
「ユズは?決まってるの?」
「わたしは……メカニックかなぁ?」
「メカニック?どうしてまた」
「わたしが戦いから退いても、後の子を助けられるように、って言ったら大袈裟かな?」
「へぇ……そこまで考えてるんだ」
私は自分の掌を広げて見た。
――私も、この記憶を活かせたら……。
そう思った時、チャイムと共に先生が教室に入ってきた。喧騒が一気に止む。先生の脇には、封筒が挟み込まれている。起立、礼のいつものルーチンが行われる。
「今日から3学期です。高校1年としては最後の学期ですが、気を抜かずに頑張るように」
お決まりの文句。普通なら、この後は体育館に向かうように言われるだろう。
だが。
「それと、今日は転校生を紹介します」
先生がそう言うと、教室内の誰もが互いに顔を見合わせた。いつもなら噂が立つのに、今回はなにも話題にならなかったからだ。
「入って」
「はい」
やがて入ってきたのは、ひとりの男子だった。
メガネはしているものの、見覚えのある男子。
昨日、ゲーセンで会った子。
「自己紹介してください」
「神谷智です。よろしく」
その男子は、無愛想に挨拶をした。その表情はどこかダルそうで、でもどこか腹が据わっているように見えた。
昼休みになると、当たり前のように神谷の周りに人が湧いた。いろんな質問が飛び交う。
私はその様子を遠巻きに眺めながら、弁当の白米を口に入れた。
「あの子、わたしたちと昨日遊んだ……」
「うん。多分」
「知ってたのかな?わたしたちがここの生徒ってこと」
「じゃないかな?私の名前も知ってたし」
「話しかけてみる?」
ユズが小声で言うのを、私は少し躊躇ってから拒否した。
「なんか目立ちそうだしヤだ。それに……」
「それに?」
「……ううん、なんでもない」
私は口をつぐんだ。
私には分かる。
彼の目は、覚悟の決まっている目だと。迂闊に触れてはいけない、なにかを持っている目だと。
神谷の話題はiARTSへ移動する車内でも続いた。授業が終わるといつの間にか消えていた彼とは、誰も会話できなかったらしい。
「にしても、ゆっくり来ていいってなんだろうね」
私は渡辺さんからのメールをスマホに映しながら言った。画面には『今日は焦らないで来てもいいからね』と書かれている。
「なにかサプライズでもあるんじゃない?誕生日とか」
「誰の?」
「それは、杏子ちゃんのとか」
「私の誕生日は5月だよ」
私は自分にまつわる説を否定しながら、車窓を眺めた。相変わらずのトンネルと流れるライトが、なんとなくゆったりと感じた。
iARTS本部のエントランスに着くと、白衣姿の渡辺さんが手を振っていた。ちょっとだけ表情が柔らかい。
「おはよう、杏子っち、ユズっち」
いつの時間帯も変わらない挨拶に、私たちは軽く会釈を返した。
「今日はさあ、2人に見せたいものがあるんだよね」
「もしかして、新しいドールユニットですか?」
「それもあるんだけどさぁ」
そう言葉を濁す渡辺さんの先導のもと、整備区画へ降りる私たちを"それ"が出迎えた。
新たなドールユニットの、脚部と胴体だ。濃い青色を纏っている。
「どう?驚いたでしょ?」
「これは、前に見た……」
「そそ。新しいドールユニット、"青麟"よ」
――青麟……。
私は聞き慣れない単語を頭の中でなぞった。
「これが完成すれば戦力は格段に増える。あなたたちの戦いにも余裕ができる」
得意げに語る渡辺さんに、優月がそっと手を上げ質問する。
「それで、パイロットはもう決まったんですか?」
「まあ、決まってはいるんだけど。これが特殊でね」
「特殊?」
「普通はドールユニットの操縦は選ばれた人間しかできないの。勾玉を通じて、機体と"適合"した人間しかね。杏子っちもユズっちももともとその素質があったわけ。でも今回はちょっと違う」
「違う、と言うと……?」
「今回は人工的に適合率を高めてる。もともと素質がゼロってわけではなかったけど、2人よりもかなり低かった人間をね。もちろん承諾の上、どころか本人たっての希望の上でね」
渡辺さんは濃青の機体を見上げながら語った。
――私の、素質……。
やっぱり、前世絡みなのだろうか?そんな思考を巡らしていると、とある人物が頭に浮かんだ。
神谷智。
「もしかして、その人物って……」
「あっ、知ってたりする?じゃあ隠す必要もないか」
渡辺さんが手招きをすると、青麟の足元からその人物が歩き寄ってきた。
「紹介します、神谷智くん。iARTS初の、人工適合者よ」
「うちの高校、早すぎると思うんだよね」
「ん?なにが?」
私の疑問に、葵は席から振り向きながら「し・ん・ろ」と1音ずつ言う。
「いやあのさあ?確かに大事だよ?就職か大学かっていうのは。でも、16歳の乙女に決めさせるのはどうなのよ?」
「確かに……」
「でも、わたしはいいと思うなぁ。勉強に余裕ができて」
「ユズはそれでいいかもしれないけどさぁ……」
葵が少し呆れた顔をする。まるでこちらの苦労も知ってほしいと言いたげな顔だ。
「結局、勉強しなさいってことかぁ」
「杏子ちゃんと葵ちゃんは進路とかって決まったの?」
「「全然」」
私と葵の声が妙にシンクロする。
「ユズは?決まってるの?」
「わたしは……メカニックかなぁ?」
「メカニック?どうしてまた」
「わたしが戦いから退いても、後の子を助けられるように、って言ったら大袈裟かな?」
「へぇ……そこまで考えてるんだ」
私は自分の掌を広げて見た。
――私も、この記憶を活かせたら……。
そう思った時、チャイムと共に先生が教室に入ってきた。喧騒が一気に止む。先生の脇には、封筒が挟み込まれている。起立、礼のいつものルーチンが行われる。
「今日から3学期です。高校1年としては最後の学期ですが、気を抜かずに頑張るように」
お決まりの文句。普通なら、この後は体育館に向かうように言われるだろう。
だが。
「それと、今日は転校生を紹介します」
先生がそう言うと、教室内の誰もが互いに顔を見合わせた。いつもなら噂が立つのに、今回はなにも話題にならなかったからだ。
「入って」
「はい」
やがて入ってきたのは、ひとりの男子だった。
メガネはしているものの、見覚えのある男子。
昨日、ゲーセンで会った子。
「自己紹介してください」
「神谷智です。よろしく」
その男子は、無愛想に挨拶をした。その表情はどこかダルそうで、でもどこか腹が据わっているように見えた。
昼休みになると、当たり前のように神谷の周りに人が湧いた。いろんな質問が飛び交う。
私はその様子を遠巻きに眺めながら、弁当の白米を口に入れた。
「あの子、わたしたちと昨日遊んだ……」
「うん。多分」
「知ってたのかな?わたしたちがここの生徒ってこと」
「じゃないかな?私の名前も知ってたし」
「話しかけてみる?」
ユズが小声で言うのを、私は少し躊躇ってから拒否した。
「なんか目立ちそうだしヤだ。それに……」
「それに?」
「……ううん、なんでもない」
私は口をつぐんだ。
私には分かる。
彼の目は、覚悟の決まっている目だと。迂闊に触れてはいけない、なにかを持っている目だと。
神谷の話題はiARTSへ移動する車内でも続いた。授業が終わるといつの間にか消えていた彼とは、誰も会話できなかったらしい。
「にしても、ゆっくり来ていいってなんだろうね」
私は渡辺さんからのメールをスマホに映しながら言った。画面には『今日は焦らないで来てもいいからね』と書かれている。
「なにかサプライズでもあるんじゃない?誕生日とか」
「誰の?」
「それは、杏子ちゃんのとか」
「私の誕生日は5月だよ」
私は自分にまつわる説を否定しながら、車窓を眺めた。相変わらずのトンネルと流れるライトが、なんとなくゆったりと感じた。
iARTS本部のエントランスに着くと、白衣姿の渡辺さんが手を振っていた。ちょっとだけ表情が柔らかい。
「おはよう、杏子っち、ユズっち」
いつの時間帯も変わらない挨拶に、私たちは軽く会釈を返した。
「今日はさあ、2人に見せたいものがあるんだよね」
「もしかして、新しいドールユニットですか?」
「それもあるんだけどさぁ」
そう言葉を濁す渡辺さんの先導のもと、整備区画へ降りる私たちを"それ"が出迎えた。
新たなドールユニットの、脚部と胴体だ。濃い青色を纏っている。
「どう?驚いたでしょ?」
「これは、前に見た……」
「そそ。新しいドールユニット、"青麟"よ」
――青麟……。
私は聞き慣れない単語を頭の中でなぞった。
「これが完成すれば戦力は格段に増える。あなたたちの戦いにも余裕ができる」
得意げに語る渡辺さんに、優月がそっと手を上げ質問する。
「それで、パイロットはもう決まったんですか?」
「まあ、決まってはいるんだけど。これが特殊でね」
「特殊?」
「普通はドールユニットの操縦は選ばれた人間しかできないの。勾玉を通じて、機体と"適合"した人間しかね。杏子っちもユズっちももともとその素質があったわけ。でも今回はちょっと違う」
「違う、と言うと……?」
「今回は人工的に適合率を高めてる。もともと素質がゼロってわけではなかったけど、2人よりもかなり低かった人間をね。もちろん承諾の上、どころか本人たっての希望の上でね」
渡辺さんは濃青の機体を見上げながら語った。
――私の、素質……。
やっぱり、前世絡みなのだろうか?そんな思考を巡らしていると、とある人物が頭に浮かんだ。
神谷智。
「もしかして、その人物って……」
「あっ、知ってたりする?じゃあ隠す必要もないか」
渡辺さんが手招きをすると、青麟の足元からその人物が歩き寄ってきた。
「紹介します、神谷智くん。iARTS初の、人工適合者よ」
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