梵珠山に、神は眠らない ―八峰 遥の豪運―

事業開発室長

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1章

「梵珠山に、神は眠らない」4

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ツアーから帰って数日が経つが、私はまだ不思議な体験の余韻から抜け出せずにいた。
夢で何度も見た白い光の玉、現実に見た火の玉。
そして途切れた記憶。

夢と現実の境界がどこにあるのか。

ある朝、スマートフォンにまたも当選通知が届いた。

「まいにちMoon 新郷村超常現象ツアー ご当選のお知らせ」

「……今度はツアーなの?」
自販機のあたりに続き、美術館、遺跡、その他諸々の幸運。

そして今回の懸賞ツアー。

日常の中に、不自然なほどの幸運が入り込んでいる。
流石にここまで重なると、単なる偶然とは思えなかった。

ツアー日程は9月上旬。
八戸駅に集合し、専用バスで青森県新郷村へ向かう。
現地ではキリストの墓伝説や大石神ピラミッドを巡り、 
間木ノ平グリーンパークでグランピング。

1泊2日、至れり尽くせりで地元の超常現象や伝承を体験できる。

「これはもう、ご褒美ツアーだよね」

そう呟きつつも、知らぬ間に期待が膨らんでいた。
近場ではあるが、グランピングなんて贅沢なことはしたことが無い。

当日、八戸駅に降り立つと空は高く澄み、少し早い秋の気配が漂う。
集合場所には年齢も性別もバラバラな参加者が集まっていた。

「ようこそMoonツアーへ」
スタッフの明るい声に迎えられ、私はバス後方の席に座る。

バスの中では、スタッフが新郷村の謎や過去の体験談を披露していた。
「この村にはキリストの墓だけでなく、迷ヶ平という場所があります。
そこはエデンの園、なんて話もありますし、
のちほど向かう大石神ピラミッドもあります」

隣の女性が手を上げて質問。

「キリスト様の墓、ってご本人を見た人いるんですか?」

バスの中に笑い声が充満した。

「流石に2000年も前ですから、見た人が居たらきっと神様でしょうね。
ただ、子孫と言われる人もいますし、実際に彫りが深く鼻が高いですよ。
それと子供が生まれると魔除けに額に十字を書く風習もあります」

流石に「まいにちMoon」のディープな読者は知ってて当たり前なのだろうが、
当の女性は感心しきり、だった。

「ご存じでしたか?」
小声で尋ねられる。

「ええ、よく本誌記事に載ってますからね」
そう答える。


新郷村に到着し、バスを降りると流石に山の中だけあってか空気がひんやりと変わった。
ガイドの案内でまず「キリストの墓」と呼ばれる丘へ向かう。

綺麗に整備された坂を上ると正面に建物が顔を出し、思っていたより明るい雰囲気が漂う。

「ここに眠るのは本当にキリストなのか?
隣はイスキリの墓だとか言うけど、どっちがどっちなんだい?」

参加者のひとりが冗談めかすと、ガイドは真顔で答える。

「本当かどうかは誰にも分かりません。
ただ、誰も埋葬者がキリスト様かもしれない墓を暴くなんてことはできません」

ただただ納得するしかない。
徳川埋蔵金だって、家康の墓の下、なんて言われてるのに
日光東照宮が世界文化遺産に登録されちゃったのもあって掘り返せないらしいし。
世界の謎がだんだん暴かれづらくなってきてる気もするけど、気のせいか。

昼食後、大石神ピラミッドを見学する。
キリストの墓とは違い、多少整備はされているものの、結構険しい角度の斜面を丸太を使った
階段を昇っていくので、人数がそこそこ居るから時間がかかること。

太陽石だとか鏡石だとか、方位石に関しては綺麗に割れたほぼ等間隔の隙間にロマンが見える気がする。

見晴らしがよく、山並みが見える。
「なんでも鏡石はどこかの山からの光を反射してたとかなんとか。
でも、その山がどこかは誰も知らないんですけどね」
参加者の笑い声がこだまする。

バスは新郷温泉館に向かって少し早い入浴をし、その後間木ノ平へと向かう。
風呂上がり、背後に気配を感じて振り向くが、誰もいない。

夜のキャンプ場は、9月とは言え山の中だし風呂上がりの身には寒い。
幸い、グランピングはいたれりつくせり。
薪ストーブが焚かれ、美味しい食事が次々と出てくる。
おかげで寒いと思っていた身体も、食べ終わるころにはうっすらと汗をかくほど温まった。

夜更け、イベントは盛り上がっていたがふと夜空を見上げる。

キャンプ場は明るいものの、澄み切った空だけに満天の星が瞬く。

そのときポケットのスマートフォンが震えた。
画面には「知りたいことはありませんか?」という不気味な通知。

知りたいこと?
ここ最近の幸運は本当に運なの?

またもスマートフォンが鳴動した。

「知りたいことは”ここ”にあります」

―なるほど、迷惑メールか。
そう思い、中身も見ずにテントに戻った。
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