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2章
「梵珠山に、神は眠らない」10
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「理解を伴わない一方的な説明じゃ、知ったことにはならないもの」
そう答えると、声は押し黙った。
少し間を置いて、返ってきた声は少し明るい気がした。
―なるほど、君は面白い。
「人をお笑い芸人みたいに言わないでよね」
―このままの君でいてくれると、最良の結果がやってくるよ
「……どういう意味?」
―今は解らなくていいよ。
そう言うと、声の質が少し硬く、元に戻った。
―君は欲望に飲み込まれない人であり続けてほしい
そう言うと、急速に瞼が重くなり、意識が遠のく。
「……やっぱり激辛のほうも持ってきておけばよかった」
目を覚ますと、なにかにもたれかかっていた。
テーブルに伏せて眠っていたようだ。
中間報告をしていた東屋で、打っていたスマホもしっかりと握りしめていた。
「え?」
時間はあれから2時間近く経っていた。
送信済みメールも残っている。
「……夢?」
少しずつ思い出してきた。
井戸跡の穴から飛び降り、ずっと得体のしれないなにかと会話をしていたはず。
そう思って井戸跡へ向かってみるが、井戸跡は埋まっていた。
地面の雑草の生え方からも、地面が崩れて穴が開いたような形跡はみつけられない。
「本当に夢だったの?」
無意識で手を入れたポケットには、空になった目覚ましドリンクが2本入っていた。
「そうだ!デジカメと記録装置!」
その場で両方を確認する。
デジカメは動画、静止画ともに撮っていたはずのものが全く残っていない。
記録装置に至ってはエラーランプが点灯している。
……なにかがおかしい
再度報告を入れて、下山。
夕方の帰宅ラッシュ前に大釈迦を超え、西部にあるセンターへ戻れた。
「おつかれさま。どうだった?」
佐伯はいつも通り飄々としている。
「途中で具合が悪くなったのか、中間報告をした後、気を失っていたようです」
「大丈夫かい?
記録解析や報告書は明日でいいから、帰った方がいいよ?」
「お言葉に甘えたいですが、記録装置がエラー出してるしデジカメもデータ飛んでるんです」
それを聞いた佐伯は頤に手を当て
「なんか強烈な磁場に当てられたとかかね?
ほら、人も磁場で感覚が狂うとかいうし、記録データを確認すればわかるんじゃない?」
「そうですね。それだけ確認してから帰ります」
その足で解析室に向かった。
「八峰さん、今からですか?」
24時間体制なのに、遅いと文句を言う解析スタッフ
「ほら、これで24時間戦えるでしょ?」
眠気覚ましドリンクを差し出す。
「……これ、まったく眠れなくなるって評判の奴じゃないですか」
「全然効かなかったわよ、これ。
それの確認も兼ねてるから、さっさと解析お願い」
「まったく、美人さんのお願いじゃなきゃパワハラですよ」
ぶつぶつ文句を言いながら解析システムとコネクタを繋ぐ。
「あれ?記録装置内にデータがありませんよ。それも記録項目全部」
「衛星経由で送ってる方は?」
「そっちも、ほぼ通信のラグ程度の誤差で全部止まってますね。
それまでのは残ってますけど、データに異常値は見当たりません。ハードウェアの故障かな?」
「こっちのデジカメもデータ飛んでるんだけど、どう?」
デジカメとは言っても調査専用機。
やはり解析システムに繋ぐ。
「内部とメディア、両方空ですね。おまけにシステム時間も飛んでますよ。
同時に2つの機材が壊れるって、よっぽど今日、運が悪いんですかね?」
解析スタッフは苦笑いしている。
―違う。運では無く故意に消されたんだ
夢じゃない。
あれは現実だったはず。
自分の身体に残る浮遊感や会話の一つ一つ。
それらが明確に蘇ってくる。
―見られたら困る、ってことかしらね。
あの存在はまだ、世間に知られたくない。
その為の細工なのではないか?
「知りたいことはありませんか?」
震えたスマホにはまたもそのメッセージが表示されていた。
結局あなたは誰?目的は何?
それだけ返した。
”色欲対象が自制条件を満たしました。レベル3をアンロック。
system-E.V.Eとデータ共有を開始します”
またこの声?
やっぱりスマホではないし、解析スタッフにも聞こえた感じはなく、データを再確認していた。
システムイブ?なにそれ?
あと、私のことを対象と言うなら、色欲ってなによ!
人を性欲の塊みたいに言うな!
そう追加で返信してやった。
「知りたいことはありませんか?」
またスマホに届いた
”まずは先の質問に答えろ!”
そう返信した途端、スマホがまた震えた。
今度はアプリのプッシュ通知。
「ご当選のお知らせ」
ネット銀行アプリからで、宝くじが当たったらしい。
「……もう驚かないわ」
思わず口をついて出た。
当選金額は10桁だった。
そう答えると、声は押し黙った。
少し間を置いて、返ってきた声は少し明るい気がした。
―なるほど、君は面白い。
「人をお笑い芸人みたいに言わないでよね」
―このままの君でいてくれると、最良の結果がやってくるよ
「……どういう意味?」
―今は解らなくていいよ。
そう言うと、声の質が少し硬く、元に戻った。
―君は欲望に飲み込まれない人であり続けてほしい
そう言うと、急速に瞼が重くなり、意識が遠のく。
「……やっぱり激辛のほうも持ってきておけばよかった」
目を覚ますと、なにかにもたれかかっていた。
テーブルに伏せて眠っていたようだ。
中間報告をしていた東屋で、打っていたスマホもしっかりと握りしめていた。
「え?」
時間はあれから2時間近く経っていた。
送信済みメールも残っている。
「……夢?」
少しずつ思い出してきた。
井戸跡の穴から飛び降り、ずっと得体のしれないなにかと会話をしていたはず。
そう思って井戸跡へ向かってみるが、井戸跡は埋まっていた。
地面の雑草の生え方からも、地面が崩れて穴が開いたような形跡はみつけられない。
「本当に夢だったの?」
無意識で手を入れたポケットには、空になった目覚ましドリンクが2本入っていた。
「そうだ!デジカメと記録装置!」
その場で両方を確認する。
デジカメは動画、静止画ともに撮っていたはずのものが全く残っていない。
記録装置に至ってはエラーランプが点灯している。
……なにかがおかしい
再度報告を入れて、下山。
夕方の帰宅ラッシュ前に大釈迦を超え、西部にあるセンターへ戻れた。
「おつかれさま。どうだった?」
佐伯はいつも通り飄々としている。
「途中で具合が悪くなったのか、中間報告をした後、気を失っていたようです」
「大丈夫かい?
記録解析や報告書は明日でいいから、帰った方がいいよ?」
「お言葉に甘えたいですが、記録装置がエラー出してるしデジカメもデータ飛んでるんです」
それを聞いた佐伯は頤に手を当て
「なんか強烈な磁場に当てられたとかかね?
ほら、人も磁場で感覚が狂うとかいうし、記録データを確認すればわかるんじゃない?」
「そうですね。それだけ確認してから帰ります」
その足で解析室に向かった。
「八峰さん、今からですか?」
24時間体制なのに、遅いと文句を言う解析スタッフ
「ほら、これで24時間戦えるでしょ?」
眠気覚ましドリンクを差し出す。
「……これ、まったく眠れなくなるって評判の奴じゃないですか」
「全然効かなかったわよ、これ。
それの確認も兼ねてるから、さっさと解析お願い」
「まったく、美人さんのお願いじゃなきゃパワハラですよ」
ぶつぶつ文句を言いながら解析システムとコネクタを繋ぐ。
「あれ?記録装置内にデータがありませんよ。それも記録項目全部」
「衛星経由で送ってる方は?」
「そっちも、ほぼ通信のラグ程度の誤差で全部止まってますね。
それまでのは残ってますけど、データに異常値は見当たりません。ハードウェアの故障かな?」
「こっちのデジカメもデータ飛んでるんだけど、どう?」
デジカメとは言っても調査専用機。
やはり解析システムに繋ぐ。
「内部とメディア、両方空ですね。おまけにシステム時間も飛んでますよ。
同時に2つの機材が壊れるって、よっぽど今日、運が悪いんですかね?」
解析スタッフは苦笑いしている。
―違う。運では無く故意に消されたんだ
夢じゃない。
あれは現実だったはず。
自分の身体に残る浮遊感や会話の一つ一つ。
それらが明確に蘇ってくる。
―見られたら困る、ってことかしらね。
あの存在はまだ、世間に知られたくない。
その為の細工なのではないか?
「知りたいことはありませんか?」
震えたスマホにはまたもそのメッセージが表示されていた。
結局あなたは誰?目的は何?
それだけ返した。
”色欲対象が自制条件を満たしました。レベル3をアンロック。
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またこの声?
やっぱりスマホではないし、解析スタッフにも聞こえた感じはなく、データを再確認していた。
システムイブ?なにそれ?
あと、私のことを対象と言うなら、色欲ってなによ!
人を性欲の塊みたいに言うな!
そう追加で返信してやった。
「知りたいことはありませんか?」
またスマホに届いた
”まずは先の質問に答えろ!”
そう返信した途端、スマホがまた震えた。
今度はアプリのプッシュ通知。
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