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指切りげんまん
「三上ひよりさんですね。……少し、我々と『お話』をしていただけませんか?」
声をかけてきたのは、非番の探索庁エージェント、田中と鈴木だった。
彼らは佐藤が無視した「バグのようなユニーク職」を誰かからの依頼で、強引に解析し自分たちの手柄にしようと企んでいた。
「あ、はい。お話、ですか? 構いませんよ。……ただ、すみません。今はゴブリンたちと"約束"した『広場の掃除』をしている最中でして。それが終わってからでもよろしいでしょうか?」
ひよりは、凹みだらけの鉱石バットを傍らに立てかけ、丁寧にお辞儀をしながら微笑む。
だが、田中たちはその物腰の柔らかさを「弱さ」だと見なし、鼻で笑った。
「君に拒否権はないんですよ。……ほら、これを見てください。政府の身分証です。これに従わないのは、公務執行妨害になる可能性もありますよ?」
「……公務執行妨害、ですか? でも、せっかく約束したのに、途中で放り出すのは失礼だと思うんです。母からも、約束は守りなさいと教えられてきましたし……」
ひよりは困ったように眉を下げた。
田中は内心で舌打ちする。
「……分かりました。お兄さんたちがそこまで仰るなら、全力ですぐに掃除が終わらせて、必ず伺います。……ただ、俺も少し不安なんです。お兄さんたちがいきなり来て政府の者だとかいろいろ言われても、最近は詐欺とか物騒ですから……僕が掃除をしている間に、お兄さんたちがなにかするんじゃないかって思ってしまって……」
ひよりが、レベル13で習得したばかりの新しい感覚に従って、そっと右手の小指を差し出した。
「お互いに信頼し合いたいので……おまじない、しませんか?」
「おまじない……? ぷっ、大人にもなって指切りげんまん! いいですよ、それで納得して頂けるなら、お付き合いしましょう」
田中は(掃除が終わるのを待つわけないだろ。拘束して連れて行く)と内心で嘲笑いながら、ひよりの小指に自分の右小指を絡めた。
「約束を破ったら針千本飲ますという歌もありますが、それは可哀想ですよね。ですから、俺はそんなこと言いませんけど……。悲しいので、約束、忘れないでくださいね?」
ひよりの澄んだ瞳に真っ直ぐ見つめられ、田中は一瞬、説明のつかない寒気を感じた。
………
「よし、約束完了だ。それじゃあ三上君、俺たちはあっちで休んで――」
田中がひよりから背を向け、そのままダンジョン出口へ向かうフリをしようとした。
「掃除を待つ」という約束を破り、ひよりを出し抜こうとした、その瞬間だった。
「………………え?」
田中の視界から、色が消えた。 そして、左手の小指に、今まで感じたことのない「絶対的な喪失感」と「激痛」が走る。
「あ……あぁぁぁあ!! 俺の指が! 小指がぁぁぁあ!!?」
田中の視界では、自分の左小指が、不気味な黒い霧となって消失していた。
「田中!? お前、指が霧に……!!」
隣にいた鈴木も腰を抜かす。だが、当のひよりは、不思議そうに首を傾げているだけだ。
「あれ? 田中さん、どうしたんですか? ……あぁ、もしかして、約束を忘れそうになってしまったんですか。……ダメですよ、忘れては」
ひよりが心配そうに一歩近づく。 その瞬間、ひよりのシステムログに通知が走る。
『対象に「裏切りの意志」を感知。ペナルティを継続しますか?』
ひよりが心の中で「注意」した瞬間、田中の脳内に死よりも深い絶望感(デバフ)が叩き込まれた。
「ひ、ひぃぃぃぃ!! 嘘です!! 掃除!! 掃除を待ちます!! 何でもしますから、許してくださいぃぃぃい!」
田中は地面に額を擦り付け、脂汗と涙を流して悶絶した。
逃げ出そうとした鈴木も、一歩踏み出した瞬間に自分の左小指が霧となって消えるのを見て、その場に崩れ落ちた。
………
「よし、そこも綺麗にしてください。お兄さんたちが手伝ってくださるなんて、やっぱり『約束』しておいて良かったです」
ひよりは満足げにニコニコと笑い、傷だらけのバットを眺める。
「……やっぱり、次はもっとかっこいいヒーローのような武器……『刀』がいいなぁ」
岩陰では、赤城凛がその光景を録画しながら、恍惚とした表情で呟いていた。
「……指……。一本ずつ、魂を削り取って支配する…………。あぁ、ひよりさん……あなたは、なんて……なんて罪深い人なの…………」
声をかけてきたのは、非番の探索庁エージェント、田中と鈴木だった。
彼らは佐藤が無視した「バグのようなユニーク職」を誰かからの依頼で、強引に解析し自分たちの手柄にしようと企んでいた。
「あ、はい。お話、ですか? 構いませんよ。……ただ、すみません。今はゴブリンたちと"約束"した『広場の掃除』をしている最中でして。それが終わってからでもよろしいでしょうか?」
ひよりは、凹みだらけの鉱石バットを傍らに立てかけ、丁寧にお辞儀をしながら微笑む。
だが、田中たちはその物腰の柔らかさを「弱さ」だと見なし、鼻で笑った。
「君に拒否権はないんですよ。……ほら、これを見てください。政府の身分証です。これに従わないのは、公務執行妨害になる可能性もありますよ?」
「……公務執行妨害、ですか? でも、せっかく約束したのに、途中で放り出すのは失礼だと思うんです。母からも、約束は守りなさいと教えられてきましたし……」
ひよりは困ったように眉を下げた。
田中は内心で舌打ちする。
「……分かりました。お兄さんたちがそこまで仰るなら、全力ですぐに掃除が終わらせて、必ず伺います。……ただ、俺も少し不安なんです。お兄さんたちがいきなり来て政府の者だとかいろいろ言われても、最近は詐欺とか物騒ですから……僕が掃除をしている間に、お兄さんたちがなにかするんじゃないかって思ってしまって……」
ひよりが、レベル13で習得したばかりの新しい感覚に従って、そっと右手の小指を差し出した。
「お互いに信頼し合いたいので……おまじない、しませんか?」
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「約束を破ったら針千本飲ますという歌もありますが、それは可哀想ですよね。ですから、俺はそんなこと言いませんけど……。悲しいので、約束、忘れないでくださいね?」
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………
「よし、約束完了だ。それじゃあ三上君、俺たちはあっちで休んで――」
田中がひよりから背を向け、そのままダンジョン出口へ向かうフリをしようとした。
「掃除を待つ」という約束を破り、ひよりを出し抜こうとした、その瞬間だった。
「………………え?」
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「あ……あぁぁぁあ!! 俺の指が! 小指がぁぁぁあ!!?」
田中の視界では、自分の左小指が、不気味な黒い霧となって消失していた。
「田中!? お前、指が霧に……!!」
隣にいた鈴木も腰を抜かす。だが、当のひよりは、不思議そうに首を傾げているだけだ。
「あれ? 田中さん、どうしたんですか? ……あぁ、もしかして、約束を忘れそうになってしまったんですか。……ダメですよ、忘れては」
ひよりが心配そうに一歩近づく。 その瞬間、ひよりのシステムログに通知が走る。
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ひよりが心の中で「注意」した瞬間、田中の脳内に死よりも深い絶望感(デバフ)が叩き込まれた。
「ひ、ひぃぃぃぃ!! 嘘です!! 掃除!! 掃除を待ちます!! 何でもしますから、許してくださいぃぃぃい!」
田中は地面に額を擦り付け、脂汗と涙を流して悶絶した。
逃げ出そうとした鈴木も、一歩踏み出した瞬間に自分の左小指が霧となって消えるのを見て、その場に崩れ落ちた。
………
「よし、そこも綺麗にしてください。お兄さんたちが手伝ってくださるなんて、やっぱり『約束』しておいて良かったです」
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「……やっぱり、次はもっとかっこいいヒーローのような武器……『刀』がいいなぁ」
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