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清掃
世田谷ダンジョン2層。
ひよりが再びこの場所に戻ってきた時、待たせていた2匹のゴブリンは、驚きで目を丸くした。 昨日まで、どこか迷いがあったはずの「親分」の瞳から、一切の揺らぎが消えていたからだ。
「……待たせてごめんね。もう、大丈夫だから」
ひよりの声は、以前よりもさらに澄んで、そして静かだった。 腰に下げた『鬼灯』の柄を握り、ひよりは一歩踏み出す。
「――察知。」
新スキルの感覚を研ぎ澄ませる。 これまでは「誰か困ってる人はいないかな?」と探していたレーダーが、今は「守るべきもの」と「排除すべきもの」を明確に分けるためのセンサーへと変貌していた。
「……いた。あそこに5匹」
曲がり角の先、コボルトの群れが獲物を探してうろついている。 ひよりは、かつての彼なら絶対に取らなかった行動――「自分からの奇襲」を選択した。
「行こう」
空気が張り詰める。 全速力でコボルトの群れの中央に踊り出たひよりは、精一杯の「凄み」を込めて、喉を鳴らした。
「――おらぁ……!!」
【威圧 Lv.4】発動。
「頑張って凄んでいる」はずのその声は、ひよりの決意と共鳴し、2層の空気を物理的に震わせた。
「ヒギィッ!?」
コボルトたちは、戦うどころか逃げることさえ忘れてその場に平伏した。本能が「この存在に抗うことは、この世界からの消去を意味する」と告げたのだ。
ひよりは、怯える個体には目もくれず、唯一、牙を剥いたまま立ち向かおうとしたリーダー格のコボルトへ『鬼灯』を向けた。
「俺……強くならなきゃいけないんだ」
閃光。 刃は、無駄のない軌道で魔物の喉を貫いた。
血は流れない。代わりに、魔物が持っていた「戦意」と「魔素」の全てが、【かつあげ】によって強制的、かつ根こそぎひよりへと引き抜かれる。
「……っ」
体に流れ込む圧倒的な経験値。
ひよりは自分のレベルを確認しなかった。ただ、体が軽くなる感覚と、力が漲る感覚だけを信じて突き進む。
それから数時間。2層は、探索者たちから魔物がいないとクレームが入るほど「整理」されることになった。
ひよりの戦い方は、もはや探索者のそれではない。
【察知】で獲物を逃さず見つけ出し、
【威圧】で戦意を奪い、
反抗する者には【討伐】で容赦なく力に変え、
屈服した者には【かつあげ】で全てを献納させる。
不眠不休。ひよりは、空腹さえも流れ込む魔素で補いながら、ひたすらダンジョンを「清掃」し続けた。
背後に控える2匹のゴブリンは、もはや荷物持ちではなかった。
彼らは、圧倒的な力で前を切り拓く「親分」の背中に見惚れ、自分たちもその一部になりたいという、魔物としてあるまじき「忠誠」に震えていた。
「……もう、誰にも文句は言わせない。……俺の仲間を、バカにさせない」
闇の中で、ひよりの瞳が黄金色に薄く光る。
その時、システムから無機質な通知が脳内に響いた。
『条件達成:規定以上の魔素を吸収しました』 『レベルが上昇しました』 『職業スキルのツリーが更新されます』 『新スキル「盃を交わす」の習得が可能になりました』
ひよりは足を止めた。
「……盃。……これがあれば、もっとみんなと仲良くなれるのかな」
ひよりは、疲弊しながらも自分をキラキラとした目で見守る2匹のゴブリンに振り返った。 その手には、リュックから取り出した水筒。
この場所で、世田谷ダンジョンの歴史を変える「儀式」が始まろうとしていた。
ひよりが再びこの場所に戻ってきた時、待たせていた2匹のゴブリンは、驚きで目を丸くした。 昨日まで、どこか迷いがあったはずの「親分」の瞳から、一切の揺らぎが消えていたからだ。
「……待たせてごめんね。もう、大丈夫だから」
ひよりの声は、以前よりもさらに澄んで、そして静かだった。 腰に下げた『鬼灯』の柄を握り、ひよりは一歩踏み出す。
「――察知。」
新スキルの感覚を研ぎ澄ませる。 これまでは「誰か困ってる人はいないかな?」と探していたレーダーが、今は「守るべきもの」と「排除すべきもの」を明確に分けるためのセンサーへと変貌していた。
「……いた。あそこに5匹」
曲がり角の先、コボルトの群れが獲物を探してうろついている。 ひよりは、かつての彼なら絶対に取らなかった行動――「自分からの奇襲」を選択した。
「行こう」
空気が張り詰める。 全速力でコボルトの群れの中央に踊り出たひよりは、精一杯の「凄み」を込めて、喉を鳴らした。
「――おらぁ……!!」
【威圧 Lv.4】発動。
「頑張って凄んでいる」はずのその声は、ひよりの決意と共鳴し、2層の空気を物理的に震わせた。
「ヒギィッ!?」
コボルトたちは、戦うどころか逃げることさえ忘れてその場に平伏した。本能が「この存在に抗うことは、この世界からの消去を意味する」と告げたのだ。
ひよりは、怯える個体には目もくれず、唯一、牙を剥いたまま立ち向かおうとしたリーダー格のコボルトへ『鬼灯』を向けた。
「俺……強くならなきゃいけないんだ」
閃光。 刃は、無駄のない軌道で魔物の喉を貫いた。
血は流れない。代わりに、魔物が持っていた「戦意」と「魔素」の全てが、【かつあげ】によって強制的、かつ根こそぎひよりへと引き抜かれる。
「……っ」
体に流れ込む圧倒的な経験値。
ひよりは自分のレベルを確認しなかった。ただ、体が軽くなる感覚と、力が漲る感覚だけを信じて突き進む。
それから数時間。2層は、探索者たちから魔物がいないとクレームが入るほど「整理」されることになった。
ひよりの戦い方は、もはや探索者のそれではない。
【察知】で獲物を逃さず見つけ出し、
【威圧】で戦意を奪い、
反抗する者には【討伐】で容赦なく力に変え、
屈服した者には【かつあげ】で全てを献納させる。
不眠不休。ひよりは、空腹さえも流れ込む魔素で補いながら、ひたすらダンジョンを「清掃」し続けた。
背後に控える2匹のゴブリンは、もはや荷物持ちではなかった。
彼らは、圧倒的な力で前を切り拓く「親分」の背中に見惚れ、自分たちもその一部になりたいという、魔物としてあるまじき「忠誠」に震えていた。
「……もう、誰にも文句は言わせない。……俺の仲間を、バカにさせない」
闇の中で、ひよりの瞳が黄金色に薄く光る。
その時、システムから無機質な通知が脳内に響いた。
『条件達成:規定以上の魔素を吸収しました』 『レベルが上昇しました』 『職業スキルのツリーが更新されます』 『新スキル「盃を交わす」の習得が可能になりました』
ひよりは足を止めた。
「……盃。……これがあれば、もっとみんなと仲良くなれるのかな」
ひよりは、疲弊しながらも自分をキラキラとした目で見守る2匹のゴブリンに振り返った。 その手には、リュックから取り出した水筒。
この場所で、世田谷ダンジョンの歴史を変える「儀式」が始まろうとしていた。
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