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凱旋と、家族同士の計らい
12層の主を屠り、灰色の霧が晴れたゲートを潜り、一行は地上へと戻った。
転送の光が収まり、神楽坂ダンジョンのロビーに足を踏み入れる。
そこには、地下での静寂が嘘のような熱気――ではなく、奇妙な「静止」があった。
ロビーだけではない、地上階にいた多くの探索者たちが、歩みを止めてひよりと透を凝視している。
いつもなら「三上くん!」と誰からともなく声がかかるはずだ。
だが、今の二人が纏う「深淵を潜り抜けた覇気」に圧倒され、誰も動けない。
そこには、彼女のために声を上げたあの青年も、その隣で怯えていた彼女もいた。
彼らは、昨日までの「謝罪の青年」ではない、本物の「強者」の姿に言葉を失っていた。
ひよりは、そんな視線の針山を涼しい顔で通り抜け、真っ直ぐに受付カウンターへと歩む。
「妃那さん、ただいま! 終わったから、妃那さんのこと待ってるね」
その声で、ようやくロビーの時間が動き出した。
妃那は少し驚いたように目を丸くし、それから慈しむような笑みを浮かべる。
「お帰りなさい、三上さん。……私ももうすぐ終わるんですけど、その前に。みんな、ひより組の結果が気になって動けないでいますよ?」
ほら、と妃那が促す。
ひよりが肩越しにロビーを見回すと、何百という探索者の目が、期待と不安を混ぜて自分を射抜いていた。
ひよりは一息つき、静かに、だが全員の鼓膜に届く声で告げた。
「12層、攻略完了しました。……次は13層です」
一瞬の静寂。そして。
「「「うぉぉぉぉぉぉぉお!!!」」」
地鳴りのような歓声がロビーを揺らした。
「11層じゃなくて、12層だと!?」「一気に2層更新かよ!」「マジかよ、また神楽坂の記録が塗り替えられた……!」
「……三上さん。11層ではなく、12層攻略が成功したということで間違いないですか?」 妃那が確認するように、震える声で尋ねる。
「うん。間違いない。ボスは『百目(ハンド アイズ)』。対策しないと厄介な相手だよ」
周囲から「なんだそのモンスター」「ひより組でも厄介だったのか」と戦慄の声が漏れる。
それに対し、ひよりは隣に立つ透の肩にポンと手を置いた。
「でも、うちには優秀な参謀がいたからなんとかなったよ。な、透?」
「……仕事はしっかりするよ、ひよりん。お褒めいただきありがとうございます、ボス」
透は澄ました顔で応えたが、周囲のざわつきは収まらない。
探索者たちにとって、透はまだ、ひより組の参謀ではなく「1層で特大の魔弾をぶちまけた危ない銃士」というイメージが強かったからだ。
ひより組の強さは認めても、透の実力は未知数のままだった。
「……わかって言ってるでしょ?」
透が小声で抗議する。
「なんのこと? 家族が頑張ったんだから、その事実を誇ってもいいでしょ?」
ひよりが満面の笑顔で言い切ると、透は一瞬虚を突かれたように目を見開き、やがて降参したようにモノクルを押し上げた。
「……まいったな。ありがとう」
「本当によかった。皆さん、お怪我はありませんか?」
妃那が心配そうに身を乗り出す。
「みんな大丈夫! 13層にもすぐ行けるくらい。だけど……この後は予定があるからね、妃那さん。約束、待たせちゃってごめんなさい」
ひよりが優しく微笑んだ、その時だった。
隣でこれまでクールに沈黙を守っていた透が、突如として深く腰を折り、ロビー全体に響き渡る大声で叫んだ。
「ボス! この後の妃那嬢とのデートのために、我ら一同、全力を尽くしました! ……どうぞ、心ゆくまでゆっくりお楽しみください!」
ガバッと顔を上げた透の口角は、いたずらっぽく吊り上がっている。
「おまっ、お前っ……!!」
ひよりが絶句する。
静まり返ったロビーは、次の瞬間、今日一番の――いや、神楽坂ダンジョン始まって以来の爆笑と歓声に包まれた。
「ついにデートか! 西川さん、よかったな!」「漢をみせたな三上くん!」「いいぞ参謀! ひより組はこうでなくっちゃな!」
「じゃあ……準備するので、お待ちください……っ」
妃那は顔を林檎のように真っ赤にし、交代のスタッフに「よろしくお願いします……」と消え入るような声で伝えると、逃げるように奥へと引っ込んでいった。
スタッフがひよりに向かって親指を立てる。
「三上さん、西川さんはずっと待ってたんですよ? その分、しっかり楽しませてあげてくださいね!」
「……デートではな……いや、妃那さんをお借りします。精一杯、楽しませます!」
ひよりが半ば開き直って宣言すると、横では透がニヤニヤと肩を揺らしている。
足元の影からは「影」たちが、指のリングからはフウとライが、言葉にならない「応援の声」を上げている……ような気がした。
(このままからかわれるのも……まあ、悪くないか)
照れ隠しに頭をかきながら、ひよりは最愛の「家族」たちと共に、大切な人の訪れを待つのだった。
………
【新宿じゃないよ】神楽坂ダンジョン攻略スレ【神楽坂だよ】Part.5
582:名無しの探索者
こっちも盛り上がってるな! 入口ロビーも今日はお祭り騒ぎだったもんなぁ。
583:名無しの探索者
そりゃそうだろ!
階層踏破記録が更新されるだけでも特大ニュースなのに、一気に2階層更新、しかも「アレ」だもんな! テンション上がらねぇわけないだろ!
584:名無しの探索者
ちょいと水を差して申し訳ないんだけどさ。 俺らはこれに続かないとダメだと思うんだ。
もう「新宿の養成所」なんて、外の連中に言わせたくないんだよ。
585:名無しの探索者
>>584
その気持ち、わかるぞ。 普段なら恥ずかしくて言えないけど、今日なら言える。
俺も、もっと上を目指すわ。
586:名無しの探索者
おう、俺もだ。
587:名無しの探索者
ちょっとずつでいい。
しっかり、みんなで進んでいこうな。
588:名無しの探索者
そういえば神楽坂ってギルドとかパーティ少ないよな。
589:名無しの探索者
まぁ、今までの件があるからな。
「駆け出しの養成所」「ゆるキャラの憩いの場」って呼ばれてたし。
590:名無しの探索者
「憩いの場」は別にいいと思う。緩いのがいてもいい。
でも、あの背中に続くやつがもっと増えてもいいよな。
591:名無しの探索者
そうだな。
592:名無しの探索者
……みんな。 前につっかかって悪かったよ。彼女のために頭に血が上っちゃってさ。 本当に申し訳なかった。
593:名無しの探索者
お、あの時の。
別に気にしてねーよ。あの状況なら仕方ないだろ。
594:名無しの探索者
三上くんも言ってたろ。
「かっこよかった」ってさ。今度はしっかりお前が守ってやれよ。
595:名無しの探索者
そうする。 ……ただ、今日三上さんが戻ってきたとき、マジで思ったんだ。
「俺、こんな人に喧嘩売っちゃったんだな」って。今生きてるのが奇跡だと思ったよ。マジで命があってよかった。
596:名無しの探索者
三上さんはそんなことで怒らないだろw
597:名無しの探索者
いや、でも>>595の気持ちはわかる。
俺もロビーにいたけど、オーラすごすぎて動けなかったもん。
598:名無しの探索者
どんな感じだったの?
潜ってて見られなかったんだよね。
599:名無しの探索者
三上くんは「真のボスの風格」。
んで、参謀(銃の子)は、あのバカでかい魔銃を背負ってボスの背中を守る「絶対的な守護者」のオーラ?
なんかこう、殺気と威圧感が物理的に視認できるレベルだった。
600:名無しの探索者
三上さんも言ってたもんな。「参謀のおかげで攻略できた」って。
ポーズもあるんだろうけど、実際10層以降はギミックがエグいらしいし、有能なのは間違いないわ。
601:名無しの探索者
それよりアレだろ?
今頃どうしてるかな?
602:名無しの探索者
無垢同士がもじもじしてんだろうなぁ。
オジは想像するだけでニヤけちゃうよ。
603:名無しの探索者
なにそれ? 詳しく。
604:名無しの探索者
今頃、受付の西川妃那さんと三上くんがデートしてるんだよ!
ロビー公認! 参謀公認!
605:ガチ恋勢
聞いてないんだけど。
606:名無しの探索者
……怖い。
607:名無しの探索者
なんかヤバそうなの現れた。
608:名無しの探索者
あ、この人……噂の三上くんの厄介ファンじゃん。
厄介なファンは参謀に相談か?w
609:ガチ恋勢
つまらない。
610:ガチ恋勢
――斬るよ?
611:名無しの探索者
ごめんなさい。
612:名無しの探索者
ごめんなさい。
613:名無しの探索者
斬らないでください。
転送の光が収まり、神楽坂ダンジョンのロビーに足を踏み入れる。
そこには、地下での静寂が嘘のような熱気――ではなく、奇妙な「静止」があった。
ロビーだけではない、地上階にいた多くの探索者たちが、歩みを止めてひよりと透を凝視している。
いつもなら「三上くん!」と誰からともなく声がかかるはずだ。
だが、今の二人が纏う「深淵を潜り抜けた覇気」に圧倒され、誰も動けない。
そこには、彼女のために声を上げたあの青年も、その隣で怯えていた彼女もいた。
彼らは、昨日までの「謝罪の青年」ではない、本物の「強者」の姿に言葉を失っていた。
ひよりは、そんな視線の針山を涼しい顔で通り抜け、真っ直ぐに受付カウンターへと歩む。
「妃那さん、ただいま! 終わったから、妃那さんのこと待ってるね」
その声で、ようやくロビーの時間が動き出した。
妃那は少し驚いたように目を丸くし、それから慈しむような笑みを浮かべる。
「お帰りなさい、三上さん。……私ももうすぐ終わるんですけど、その前に。みんな、ひより組の結果が気になって動けないでいますよ?」
ほら、と妃那が促す。
ひよりが肩越しにロビーを見回すと、何百という探索者の目が、期待と不安を混ぜて自分を射抜いていた。
ひよりは一息つき、静かに、だが全員の鼓膜に届く声で告げた。
「12層、攻略完了しました。……次は13層です」
一瞬の静寂。そして。
「「「うぉぉぉぉぉぉぉお!!!」」」
地鳴りのような歓声がロビーを揺らした。
「11層じゃなくて、12層だと!?」「一気に2層更新かよ!」「マジかよ、また神楽坂の記録が塗り替えられた……!」
「……三上さん。11層ではなく、12層攻略が成功したということで間違いないですか?」 妃那が確認するように、震える声で尋ねる。
「うん。間違いない。ボスは『百目(ハンド アイズ)』。対策しないと厄介な相手だよ」
周囲から「なんだそのモンスター」「ひより組でも厄介だったのか」と戦慄の声が漏れる。
それに対し、ひよりは隣に立つ透の肩にポンと手を置いた。
「でも、うちには優秀な参謀がいたからなんとかなったよ。な、透?」
「……仕事はしっかりするよ、ひよりん。お褒めいただきありがとうございます、ボス」
透は澄ました顔で応えたが、周囲のざわつきは収まらない。
探索者たちにとって、透はまだ、ひより組の参謀ではなく「1層で特大の魔弾をぶちまけた危ない銃士」というイメージが強かったからだ。
ひより組の強さは認めても、透の実力は未知数のままだった。
「……わかって言ってるでしょ?」
透が小声で抗議する。
「なんのこと? 家族が頑張ったんだから、その事実を誇ってもいいでしょ?」
ひよりが満面の笑顔で言い切ると、透は一瞬虚を突かれたように目を見開き、やがて降参したようにモノクルを押し上げた。
「……まいったな。ありがとう」
「本当によかった。皆さん、お怪我はありませんか?」
妃那が心配そうに身を乗り出す。
「みんな大丈夫! 13層にもすぐ行けるくらい。だけど……この後は予定があるからね、妃那さん。約束、待たせちゃってごめんなさい」
ひよりが優しく微笑んだ、その時だった。
隣でこれまでクールに沈黙を守っていた透が、突如として深く腰を折り、ロビー全体に響き渡る大声で叫んだ。
「ボス! この後の妃那嬢とのデートのために、我ら一同、全力を尽くしました! ……どうぞ、心ゆくまでゆっくりお楽しみください!」
ガバッと顔を上げた透の口角は、いたずらっぽく吊り上がっている。
「おまっ、お前っ……!!」
ひよりが絶句する。
静まり返ったロビーは、次の瞬間、今日一番の――いや、神楽坂ダンジョン始まって以来の爆笑と歓声に包まれた。
「ついにデートか! 西川さん、よかったな!」「漢をみせたな三上くん!」「いいぞ参謀! ひより組はこうでなくっちゃな!」
「じゃあ……準備するので、お待ちください……っ」
妃那は顔を林檎のように真っ赤にし、交代のスタッフに「よろしくお願いします……」と消え入るような声で伝えると、逃げるように奥へと引っ込んでいった。
スタッフがひよりに向かって親指を立てる。
「三上さん、西川さんはずっと待ってたんですよ? その分、しっかり楽しませてあげてくださいね!」
「……デートではな……いや、妃那さんをお借りします。精一杯、楽しませます!」
ひよりが半ば開き直って宣言すると、横では透がニヤニヤと肩を揺らしている。
足元の影からは「影」たちが、指のリングからはフウとライが、言葉にならない「応援の声」を上げている……ような気がした。
(このままからかわれるのも……まあ、悪くないか)
照れ隠しに頭をかきながら、ひよりは最愛の「家族」たちと共に、大切な人の訪れを待つのだった。
………
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582:名無しの探索者
こっちも盛り上がってるな! 入口ロビーも今日はお祭り騒ぎだったもんなぁ。
583:名無しの探索者
そりゃそうだろ!
階層踏破記録が更新されるだけでも特大ニュースなのに、一気に2階層更新、しかも「アレ」だもんな! テンション上がらねぇわけないだろ!
584:名無しの探索者
ちょいと水を差して申し訳ないんだけどさ。 俺らはこれに続かないとダメだと思うんだ。
もう「新宿の養成所」なんて、外の連中に言わせたくないんだよ。
585:名無しの探索者
>>584
その気持ち、わかるぞ。 普段なら恥ずかしくて言えないけど、今日なら言える。
俺も、もっと上を目指すわ。
586:名無しの探索者
おう、俺もだ。
587:名無しの探索者
ちょっとずつでいい。
しっかり、みんなで進んでいこうな。
588:名無しの探索者
そういえば神楽坂ってギルドとかパーティ少ないよな。
589:名無しの探索者
まぁ、今までの件があるからな。
「駆け出しの養成所」「ゆるキャラの憩いの場」って呼ばれてたし。
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「憩いの場」は別にいいと思う。緩いのがいてもいい。
でも、あの背中に続くやつがもっと増えてもいいよな。
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そうだな。
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……みんな。 前につっかかって悪かったよ。彼女のために頭に血が上っちゃってさ。 本当に申し訳なかった。
593:名無しの探索者
お、あの時の。
別に気にしてねーよ。あの状況なら仕方ないだろ。
594:名無しの探索者
三上くんも言ってたろ。
「かっこよかった」ってさ。今度はしっかりお前が守ってやれよ。
595:名無しの探索者
そうする。 ……ただ、今日三上さんが戻ってきたとき、マジで思ったんだ。
「俺、こんな人に喧嘩売っちゃったんだな」って。今生きてるのが奇跡だと思ったよ。マジで命があってよかった。
596:名無しの探索者
三上さんはそんなことで怒らないだろw
597:名無しの探索者
いや、でも>>595の気持ちはわかる。
俺もロビーにいたけど、オーラすごすぎて動けなかったもん。
598:名無しの探索者
どんな感じだったの?
潜ってて見られなかったんだよね。
599:名無しの探索者
三上くんは「真のボスの風格」。
んで、参謀(銃の子)は、あのバカでかい魔銃を背負ってボスの背中を守る「絶対的な守護者」のオーラ?
なんかこう、殺気と威圧感が物理的に視認できるレベルだった。
600:名無しの探索者
三上さんも言ってたもんな。「参謀のおかげで攻略できた」って。
ポーズもあるんだろうけど、実際10層以降はギミックがエグいらしいし、有能なのは間違いないわ。
601:名無しの探索者
それよりアレだろ?
今頃どうしてるかな?
602:名無しの探索者
無垢同士がもじもじしてんだろうなぁ。
オジは想像するだけでニヤけちゃうよ。
603:名無しの探索者
なにそれ? 詳しく。
604:名無しの探索者
今頃、受付の西川妃那さんと三上くんがデートしてるんだよ!
ロビー公認! 参謀公認!
605:ガチ恋勢
聞いてないんだけど。
606:名無しの探索者
……怖い。
607:名無しの探索者
なんかヤバそうなの現れた。
608:名無しの探索者
あ、この人……噂の三上くんの厄介ファンじゃん。
厄介なファンは参謀に相談か?w
609:ガチ恋勢
つまらない。
610:ガチ恋勢
――斬るよ?
611:名無しの探索者
ごめんなさい。
612:名無しの探索者
ごめんなさい。
613:名無しの探索者
斬らないでください。
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